5話
「みんなに会うの久しぶりだから嬉しい!」
「ね、みんな元気だったか」
車に乗ってすぐにみんなの話題になる、僕がすでにみんなと会っていることを雨音は知らなかったから久しぶりに集まれることへの喜びを口にしていた。
「この曲、懐かしいね!」
「よく付き合ったばっかりの頃に一緒に聞いてたよね」
「和也ずっとこればっかり聞いてたよねーあの頃は全然マイナーだったのに今はすごいよね」
「そうなんだよ、今でももちろん好きだけど売れてきたらどこか今までのような歌は歌ってくれなくなっちゃうのかなとか思うんだよね」
「うーんまあそれでもさ好きだった頃の歌が消えるわけじゃないからいいと思うよ!」
「確かにそうだね」
雨音の言葉が、お互いの事を言っている気がして、大好きだった人に会えなくなっても大好きだった人が存在した事実は消えないよって言ってくれてるような気がして、少し寂しかった。
そんな事を話していたらあっという間に高校に着いていて、雨音は驚いた様子を見せる。
「え、何で高校??カラオケって聞いてたんだけど!」
「実はさみんなに協力してもらって雨音にサプライズ用意してるんだよね、カラオケは嘘」
「えー!!!でもそれ今言ったらサプライズじゃないじゃん!でも内容知らないからいいのか!?てかなに!?何のサプライズ!?」
びっくりしすぎて少し早口になりながら雨音は僕に手を引かれながら校内へと入った。
校内に入るとすぐに美柑が待っていて雨音を別室へと連れて行く。
僕もすぐに着替えるための部屋へと行く。
段取りも知っていた僕は当然先に着替え終わって、教室へと向かった。
教室に着くと愛菜を筆頭に女子が今にも泣き出しそうな顔をして教室の中にいた。
男子たちもどこか落ち着かない様子でいたけれど、
「よし、気合い入れてくぞ」
廉の一言でみんなの気が引き締まって、みんながそれぞれ持ち場につく。
教室のすぐそばまで大粒の涙を流した美柑と雨音が到着して、美柑は教室へ、僕は雨音の横へと行く。
美柑が専門学校から借りてきてくれた白いドレスを着た雨音は、触れたら壊れてしまうのではないかと思うほどに美しかった。
泣いている雨音の腕を取って僕の腕にそっと絡ませる。
僕も今にも泣き出しそうだっけど堪えながら必死にエスコートをして教室の扉を開ける。
教室を開けると大きな音で8人からの拍手を受けて僕たちそのまま、教室の奥に設置された教卓の前に立つ。
「和也、あなたは病める時も健やかなる時も雨音を愛し続けると誓いますか」
「誓います」
「雨音、あなたは病める時も健やかなる時も和也を愛し続けると誓いますか」
「誓います」
「今ここに偕老同穴を誓い合った2人の祝福とこれからの日々を見守れる喜びを私たち8人は心より嬉しく思います」
どこで覚えてきたのか難しい言葉を泣きながら喋る翔也がおかしくてみんなも泣き笑いの変な顔になりながら、お互いの愛を誓った。
「みんな、ありがとう」
誰よりも大きな涙を流しながらそう言った雨音の言葉を遮るかのように
「ここでケーキの入刀を行います」
そう言いながら浩輔がバイト先から作ってもらった大きなケーキを用意する。
僕は雨音の手を取って一緒に入刀をする。
あまりの大掛かりな準備に雨音の表情には笑顔が輝いていた。
「凄すぎるんだけど、ほんと嬉しい」
「みんなすごく準備してくれたんだ」
「それではここで、ケーキを食べながらみんなで思い出を振り返ろう鑑賞会を行います」
神父役の流れで司会になっていた翔也がそう口にして、用意していたスクリーンに僕たちが出会ってから今日までのたくさんの写真がスライドショーとして流れる。
たくさんの場所や場面が切り取られてたった数分のスライドの中には僕たちの数年間がギュッと詰まっていた。
その中にはもちろん僕と雨音の2人の写真もあった。
懐かしさと一緒にもう帰らないその日々に想いを馳せながらみんなが涙を流していた。
きっとその涙の中にはもう雨音と過ごす事のできる時間がほとんど残されていない現実の辛さも含まれていたと思う。
「最後に2人から言葉をもらって締めたいと思います!まずは和也から!」
「まずはみんな、たくさんの準備をして、最高の1日を、かけがえのない1日を僕たちにくれてありがとう。そして、雨音今日まで僕と一緒にいてくれてありがとう。これからの時間も一緒に過ごしたいしいつまでも雨音と過ごしたいって僕は思ってるよ。いつもありがとう。」
もしかしたら雨音はまだまだ生きてくれて僕と一緒にいてくれるかもしれない、そう思って僕は言葉を短く終わらせた。
和也に連れられて懐かしい音楽を聴きながら気付けば高校に着いていた。さっぱり意味が分からなかったけどサプライズって言われてきっとみんなで何か思い出を振り返るのかななんて思った。
学校に入ったらすごく綺麗な格好をした美柑がいて、連れられて空いている教室に案内された。そこには真っ白なドレスがあって、サプライズの意味がわかった瞬間に私は涙が溢れ出した。
「サプライズって、、」
「もうわかっちゃったかもだけど、みんなで準備したんだ」
「私ね、余命を伝えられてすぐに、和也と結婚式したかったって思ってた。だから、本当に嬉しくて、、ありがとう、、。」
そう伝えると美柑も涙を流していた。
教室に着くとスーツ姿の和也がいて、いつもよりカッコよくて私の腕を取ってくれた和也がすごく頼もしくて誇らしかった。
翔也のヘンテコな神父もきっとググったであろう難しい言葉もおかしかったけどそれ以上に今のこの光景が本当に嬉しくてずっと涙が止まらなかった。
まさかケーキまで用意してくれてると思わなくて本当の結婚式をしてるみたいで、スライドショーを見ながら、みんなに出会えて、一緒にいろんな日々を過ごしてきた今日までが鮮明に思い出されていった。
「それじゃあ次は、雨音!」
そう言われたけど、涙が止まらなくてうまく言葉が出てこなくてどうしたらいいか分からなかったけど、私の夢を叶えてくれたみんなにしっかり感謝を伝えなきゃと思って必死に言葉を振り絞った。
「みんな、今日は本当にありがとう。私は、あと少しでみんなとさよならすることになります。もしかしたら今日が会うのも最後になっちゃうかもしれない。でも、大好きなみんなに見守られながら大好きな和也と結婚式ができて本当に嬉しい。私もみんなの結婚式に行って、みんなと一緒にみんなの晴れ姿を見たかったけど、私は天国からちゃんと見てるからね。沢山の思い出をくれたみんなに私から最後のお願いがあります。
私の大好きな和也はちょっと頼らなくて、もしかしたらこれから先も私のことを引きずって前に進めないかもしれないから、その時はみんなが手を引いてあげてください。私の分も、みんなはもちろん、和也にも幸せになってほしい。だから、和也を支えてあげてください。
和也、私と一緒にいてくれてありがとう。私と最初の結婚式をしてくれてありがとう。最初で最後の結婚式を和也とできて幸せです。残りの時間も一緒にいてね。大好きだよ。
みんな、本当にありがとう。」
私は頬を伝う涙を拭きながら言葉を絞り出した。
みんなが泣いているのを見て余計涙が溢れたけど、ちゃんと伝えられてよかったなって思った。
みんなとの大切な時間がこれからもみんなの中で生き続けますように、そう願いながら私はサプライズで書いてきたみんなへの手紙をバッグから取り出した。
「実は今日が最後になるかもしれないと思ってみんなに手紙を書いてきたの、良かったら読んでね。
和也には残りの時間でちゃんと伝えたいからないけど、みんなには今のうちに伝えたくて書いたよ。家でゆっくり読んでね。」
手渡しで手紙を渡して、いつまでもこの時間が続いてほしいと願いながら、最後にみんなで写真を撮って教室を後にした。