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終わりがわかっていても  作者: 櫻井賢志郎
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1話

初めましてこんにちは。

2作目の小説を書こうと思い、この作品を書き始めました。

終わりがわかっているからこその輝く瞬間を書きたいと思い書き始めました。

拙い文章ですがぜひご一読ください。

また、気に留まりましたら一作目のセミのように儚くもぜひご一読ください。

1日目


「雨音、今日何食べたい?」

「えーいつも通りでいいよ、毎日普通のものを食べて過ごしたいし」

「そっか、じゃあ安定のハンバーガーだな」

「間違いない!結局ハンバーガーが1番美味しいからね!一生売れ続けるよねあれは!」

「確かにそうだね」

何事もなかったように笑いながら、いつもと何も変わらないようなやりとりをして一緒にハンバーガー屋さんへ向かう。


ハンバーガー屋さんについて僕はいつものビックセットを、雨音はベーコンの入ったセットを頼む。

2人で懐かしい曲なんかを聴きながら、車の中で一緒に食べては昔話をして過ごした。


「そういえば最近浩輔たちに会ってないの?」

「2週間前くらいに集まった!大学違うって言うのによく5人毎回集まれるよね、ほんと暇な奴らだわ」

「いやいやそれは和也も一緒でしょ!!!」

「まあ確かにそれもそうか!逆に女子は集まってないの?」

「最後に集まったのは3ヶ月前くらいだったかなー。また、男女10人で集まれたら良いのにねー」

「いいじゃん!夏休みなんだし集まれるんじゃない!?あとで連絡してみるわ!」

「最高!!」


ハンバーガーも食べ終えて、雨音が行きたいって言ったから2人でドライブをした。

東京タワーにお台場ら辺を走ってから夜が近付いてきた辺りで千葉にあるテーマパークの近くまで向かうことにした。


途中で夕立が来て、フロントガラスにぶつかる雨と赤くなった信号を見ながら雨音の名前の話をして過ごした。


「雨音って確か夕立が由来で付けてもらったんだよね?」

「うん、そうだよ。お父さんとお母さんが夕立がきっかけで出会ったんだって、雨宿り的な?ドラマみたいだよね」

「すごいよねそれ、でもなんか夕立って好きだな。」

「私も好き、なんか儚さがあるよね」


僕も雨音も別に小説をよく読んだり、芸術的才能があるわけじゃなかったけど、何故か雨だったり、季節だったりと行ったものにすごく敏感で、雨が降ればその日は雨の気分でどこか優しく落ち着いた雰囲気で過ごしたくなったり、春の匂いがしたら一緒に散歩をしたくなったり、自分で言うのも変だけれど、エモさがあるなっていつも思ってた。

そう言うものに心動かされる人だから好きになったのかもしれないし、4年もの月日を一緒に過ごすことが出来てるんだろうなって思うことがよくあった。


きっとこれから先も一緒に色々な季節を見て、色々な日を過ごしてその時その時の感情を大切にするんだろうなって思う。


今までの4年間でたくさん喧嘩だってしたし、それ以上にたくさんの幸せな思い出も作ってこれて、これから先も同じようにくだらない事で喧嘩したり、くだらない事で笑い合ったりして、毎日を特別な日にしながら過ごして行くんだと思う。

来年にはお互い社会人になるから少しずつお金も貯めて、いつかは一緒に住んで、雨音と結婚して子どもも生まれる。

所詮学生かもしれないけど真剣にそんな風に思ってた。


「久しぶりだねこの辺に来るの」

気付けば付き合ったばかりの頃によく来ていたドライブコースについていて、少し寂しそうに天音が口に出していた。

「昔ここで帰りたくないって駄々こねた事あったよね」

「あったね雨音が珍しく駄々こねてプチ喧嘩みたいになったよね」

「そうそう、なんだったんだろうねあれ」

「ね、ほんと可愛い喧嘩だよ」


そうやって昔話をしてる雨音の横顔を覗くと頬に涙が伝っているのが見えた。

思わず僕も涙を流しそうになるけれどグッと堪えてそっと肩を抱き寄せる。

「もっとたくさん思い出作ってこれからもずっと一緒にいれると思ってたんだけどな、、、」

そう言いながら雨音は大粒の涙を流していた。

僕は何も言わずにただずっと強く雨音を抱きしめていた。


先週、大学の講義を一緒に受けていた時に雨音が突然倒れた。

最初は貧血かなとか色々思ったけど、一緒に救急車に乗って病院へ行って、着いた頃にはもし大きな病気だったらどうしようかと嫌な予感が胸をざわつかせた。

そんなわけないよなと胸の内では否定しながらも、不安を隠しきれないままに医師の診断を待った。

いつもよりも時間がゆっくり流れて、もしかしたら待合室だけが他から取り残されて時間が止まっているんじゃないかと思うほどに長く待った気がする。


時間が経って医師から病室へと案内される。

緊張を全身で感じながら病室へと行くと雨音はまだ寝ていて、深刻な表情をした医師が口を開く。

「今までにこのように急に倒れたり、なにか別の症状を訴えることはありましたか。」

「いいえ、今回が初めてだと思います。」

「そうですか。」

そこに、連絡を受けて到着した雨音の両親が来て医師からの診断結果を聞く。

「雨音さんの肺から末期の癌が見つかりました。大変申し上げにくいのですが、あと1ヶ月生きられるかわかりません。」

頭の中が混乱して何から情報を入れて良いのかわからなくなる。

雨音が癌で、しかも1ヶ月生きられるかわからない。

昨日まであんなに元気だったし今までそんな様子もなかったのに。

何かの間違いなんじゃないかと両親も含め医師に困惑の表情を向けるが医師の表情は変わらず、すぐに事実である事を突きつけられる。


雨音の母が泣き崩れていて、それを父が支えているのが横目で見えたけど、僕は何が何だかわからずにただ立っていることしかできなかった。

もしも、本当に1ヶ月しかないのなら僕はこれからどうすれば良いんだろうか、雨音に何をしてあげたら良いのだろうか。

色々な事を考えるが頭の中はまとまらずその日は家へと帰る事になった。


それから5日後に雨音は退院して、残りの期間を家で過ごす事になった。

本当は外に連れ出して良いのかもわからなかったけど医師や両親の承諾を経て体調が良い時には一緒にいても良い事になって、今日は雨音が行きたいと言ったドライブに来ていた。


「私、本当に死んじゃうのかな」

雨音からの言葉に思わず僕も涙が溢れる。

「きっと大丈夫。これからも沢山の思い出を作れるよ。ずっと一緒にいれるよ。」

生きるか死ぬかそんな事は誰にもわからないし、もしかしたら回復だってするかもしれない。だけど無責任にそんな事は口にできなくて、やっとの想いで出た言葉がこれだった。

「そうだよね。きっと大丈夫だよね。」

「うん。きっと大丈夫。」

そう言いながら目の前に広がる海と奥に見えるテーマパークを泣きながら2人で眺めていた。


「もう一回くらい一緒にデートであそこ行きたかったな」

「体調が良い時にまた一緒に行こうよ」

「うん、ありがとう」

少し笑いながら雨音は言葉を口にして、僕の肩にもたれかかった。

夏の夜風が雨音の髪をなびかせて、いつもの雨音の匂いを感じて僕は一層溢れようとする涙を堪えた。


それから雨音を家に送って、僕も家へと帰った。

家についてすぐに高校のメンバーに連絡を送る。

「みんなで集まりたいんだけど、都合良い日ある?」

僕と雨音は高校から大学も一緒だったけど他のメンバーはそれぞれ違う大学だったから簡単には都合がつくとは思えなかったけど、それでもどうしてもみんなで集まりたくて連絡をした。

大学四年生ということもあって意外と予定があってみんなで会える日が決まった。


すぐに雨音にもLINEを送ると、すぐに返信が来て嬉しそうにする様子が伝わってきた。


僕が今できる事はきっといつ終わるかわからない雨音の人生に沢山の思い出を作ってあげる事なんだと思いながら、残りの1ヶ月を僕も必死に生きようと心に決める。

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