予想通りになろう
あらすじ:
水路が完成したのだが、ひしひしと面倒になりそうな予感がする
まぁ、それからは大変だった。
ワワララトの人たちは、姫巫女ちゃんのお付きの双子も含めて、みんな水路の下流に向かって走って行った。まぁ、この世界の人たちって基本体力凄いんだよねー
今この場に残っているのはあたしにジェル、サフィ・ミスキス・ハルカだ。
〈お、水の流れも悪くないな。〉
と、装甲車もいたっけ。
〈水質に関しても、濾過だけでもいけそうだな。〉
それはそれは。
〈……あれ? なんか人が減った気がするな。〉
こいつにはセンサー的なものは付いてないのだろうか。そういやぁ、戦闘ヘリのホーネットもどこかに飛んで行ったらしく、上空にいない。
「一応、サンプルは取っておきましょう。」
今日は白衣が無いので、ミスキスが持ってるバッグから紐のついた試験管みたいなものを取り出すと、水路に投げ込み水のサンプルを採取する。
陽の光に透かして、メガネをとんとんと叩くと、ふ~むと唸る。
「詳しく調べないと分かりませんが、普通に飲めそうですなぁ……」
と、一瞬悩んだように見えたが、手のひらにその水のサンプルを垂らすと、そのまま口に運ぶ。
「ジェラード様!」
サフィが驚いた声を上げて、慌ててハルカの持っているバッグから薬を取り出そうとするが、そんなサフィをとりあえず止める。
「ラシェル姉様?!」
「大丈夫大丈夫。」
気休めに聞こえるかもしれないが、ジェルは鼻も舌も感覚が鋭い。更に毒や薬物にも強いし、魔法的なことに関してはさっき「視」た限りでは問題ないのだが、一瞬こっちをチラッと見ていたので確認済みだろう。
「そこはご安心を。
私はそこまで無茶はしませんって。」
「それは分かっているつもりなのですが……」
ある意味、信頼なのか信用なのか、それが欠けていたと思われたのかもしれないと、サフィがどこかしおしおと身を縮こませる。
「……そうですねぇ。私にとっては信頼してくれることも心配してくれることも、同じ程度には有難いことなので。」
あたしと同じように静観していたミスキスと、いきなりのことで目をグルグルさせていたハルカにも目を向ける。ジェルの気遣い?で空気が少し和む。が、
〈ん? 俺たちいつまでここにいればいいんですかい?〉
マシン空気読めないが口?を挟んだところで、久しぶりに現状を思い出す。そういやぁ、みんなに置いてかれて、あたしたちは水路のある荒野でぽつねんとしているわけだ。
〈というか、俺に乗ります?〉
強襲突撃装甲車ランドタイガーは六人乗りである。性質上、カイルが乗ることが想定されるため、前二席は無駄に大きめで、後は小ぶりな席が後方に四席分ある。こういう時はジェルが操縦席(前席)に乗るのだが、その無駄な大きさのせいで、あたしがふつーに隣に座っても特に紛争は起きなかった。平和は良いことだ。
まぁそれよりも、タイガーに乗れる、という事自体が驚きで、更に内部のメカメカしい感じがなかなか好評だった。慣れてるミスキスも、フィクションに耐性のあるハルカも目を輝かしているので、初見のサフィのはしゃぎっぷりがなかなかのものだった。
と、思ったよりも時間がかかりつつも、タイガーに乗って水路の下流に向かっていくのだが……
「結構…… 揺れますね。あ、いえ、タイガーさんが悪いわけじゃなくて……」
〈気にしてねぇよ。俺は戦闘車両だからな。乗り心地には期待しないでくれ。〉
ハルカがアワアワ言うのを、タイガーが男の度量?を見せるのだが、実際に乗り心地は良くはない。クロウラーのせいと、地面の細かいデコボコのせいで小刻みにガタガタ揺れる。
馬車の振動ともまた違うのか、サフィもなんか違和感な表情をしているし、パンサーに乗り慣れてるミスキスも無表情ながら口がなんとなくへの字に見えなくもない。
言い訳ではないけど、これでもタイガーの居住性は他の装甲車に比べれば全然マシなんだけど、比較対象がなさ過ぎるのよねー
それでも人の走りどころか、一般的な馬車よりも速く移動できるので、ほどなくして水路の終端である貯水池にたどり着く。ちゃんと計算ずくだったのか、バンカーバスターとやらとナパームを撃ち込んだ雑工事だと思いきや、想定以上に綺麗な丸い貯水池になっていて、なみなみと水がたたえらえていた。まぁ、まだ溜まりかけで徐々に水位が上がっている感じだ。
あらかじめ作ってあったのか、反対側にも水を逃がすための水路があるため、溢れ出す心配もなさそうだ。でもまぁ、この地方って季節によっては結構な大雨にもなるそうのでその辺は大丈夫だろうか。
水路の感じから、水面は地面よりも少し低いくらいになりそうで、足を浸けたり、それこそ泳いだり沐浴とかも出来そうだが、まぁ辺りが岩場で殺風景な上、見晴らしも良すぎるで、多分そういう気分にはなれない。
そして、貯水池の水辺ではワワララトの人たちが溜まっていく水を見つめている。まぁ色々派手にやったせいで、王様たちだけじゃなく住人と思われる人たちも、集まってきて水位が高まるのを見守っている。
そしてあたしたちに気づいた王様が周囲の人たちに聞こえるように高らかに声を張り上げた。
『我が誇り高き海の民たちよ! この水を見よ! これは……』
「タイガー、全力後退!」
〈了解!〉
予想通り面倒事になる前に思いっきり姿をくらますことになるのであった。
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