隔てる壁を撃ち抜こう
※えっと時間配分とか色々過ってしまいました
※嘘じゃないけど誇張したタイトルです
あらすじ:
水路作りも佳境を迎え、ついに最後の仕上げの時が来た(やや誇張)
〈よぉし、そろそろ仕上げと行こうか!〉
朝から気合をたぎらせているのは、チーム・グリフォンが誇る武闘派、強襲突撃装甲車のランドタイガーだ。
「工事」が始まって四日目。
昨日の内に、あと一息のところまでは片づけたらしい。本当は式典でも開いて大々的にやりたいところなんだろうけど、さすがにタイガーをお披露目するわけにはいかないしなぁ。まぁタイガーとしては最後までやっちゃっても良かったんだろうけど、最後くらいは人前でってことなんだろうな。
そして今日は特別ゲストが。
「またこれは……」
タイガーを見上げているのはコンラッド王国の宮廷魔術師であるギルさん。こちらの仕事が早いことを利用(悪用)して、時間を作ってこっちまで「跳んで」来た、のだ。
って思ってたんだが、夜中にホーネットを呼んで飛んできてて、一晩グリフォンで過ごしたらしい。
ジェルは(当然のように)知っていたらしいが、いつもの秘密主義でいきなりギルさんが現れた時はビックリした。そしてそこまでビックリされたことでジェルの所業に気づいて、ギルさんが睨んでいたくらいに平和だった。
そんでもって、馬車だのホーネットなどに分乗して現地に。そして初お目見えのタイガーに興味津々なギルさんであった。
「まず外装の強度がとんでもないな。これが駆動部か。この車輪を板状のもので囲んで走破性を……」
〈博士よぉ、この人なんですかい?〉
「……まぁ、気にするな。」
どこか視線を逸らしながら、どこか苦し気に返すジェル。なるほど、自分をどこか見ている気分になったか。
本人は真面目な顔をしているつもりなのだろうが、口元は緩んでいるし目はキラキラしている。確かにギルさんって、武器とか魔道具とかが好きで、それを前にするとちょっと残念になってしまうんだよね。
そんなわけで、やる気満々のタイガーは、しょっぱなから出鼻をくじかれた形になってしまった。
そして三十分後。
色々打ち合わせや確認をする予定だったのが幸いしてワワララトの人たち(姫巫女ちゃん周辺は除く)頃には、ギルさんの好奇心もある程度落ち着いた。ただ単に後回しになっただけではあるが。
「全く信じられないのだが、実際にこうなっているのを見るとな……」
それに関してはあたしも同感だ。
どっちを見ても地平線に消えるほどの長大な水路。硬い岩盤を人の身長以上の深さに削り取っていて、内側もそれなりに滑らかになっている。
〈そりゃ、デコボコして水の流れが変わると、変な水流ができたりして効率が悪くなるんだよな。〉
……む、カイルが装甲付けてるような奴なのに、賢いこと言うじゃないか。
って、後で聞いたら、考古学が「趣味」でそれの関連で土木とか地質学が得意らしい。やり取りが人間臭いから忘れそうになるが、本来はあたしたちの世界でも超高性能AIコンピュータだったな。
上空ではサイレントモードにしたホーネットがホバリングしている。今日の乗客はルビィに姫巫女ちゃんだ。
「そんじゃあ、そろそろ始めてくれ。」
〈了解。
まずは貯水池を作るか。よし、みんな俺よりも前に出るなよ……
バンカーバスター、六門同時斉射!〉
言われたとおりに距離を開けたところで上面の装甲が開き、何か色々飛び出した。そこまで凄い音ではなかったが、とりあえずジェルの「おい!」ってツッコミは聞こえなくなる程度だった。
ひゅるるるる~ とどこかのんびりと撃ちあがった飛翔体は、空中で方向を変えると、急降下して地平線の遥か向こうの(おそらく)地面に突き刺さる。
遠くからズン、と地面からの振動が感じられる。周りの視線がジェルとタイガーに集まっているような気がするが、あ~ 空が青いなー うんうん。
〈よし、じゃあここでマイクロナパーム!〉
もう一度、発射音がすると、タイガーの上部からまた何か射出されて、また遠くに飛んでいく。今度は分かりやすく、向こうの空に光の雨が降った。……うん、降った。
〈よし。〉
「何をした何を。」
どこか満足げなタイガーにジェルが疲れたように声をかける。まぁ、あたしも見慣れたくはないが、こういう光景はたまに見るので何とか平気だ。
そして、あたしたち以外はまばたきの仕方と、口の閉じ方をどうやら忘れてしまったようだ。あ、ハルカだけはフィクション慣れしているのが「はー」と感心の声と思われるものを上げている。
〈いや、貯水池は必要だろ?〉
「カイルといい、お前といい、どうして伝わって欲しいことが伝わらないのか。」
世の中の不条理を嘆くような顔で天を仰ぐ。それでも空は青くて綺麗だ。
〈で、続きはやっていいんで?〉
「「空気読め、空気!」」
全く効かないが、あたしとジェルのダブルつっこみがタイガーの装甲に炸裂した。
〈ん~ よく分らんが、続き行くかぁ。〉
十分くらいで、皆現世に戻ってきた。とりあえず、色々降ったあたりに何が起きたのが知るのが怖い、くらいまでは回復した。
そして空気を読まずに向きを一八〇度転回し主砲の角度をつけたタイガーが口……は開かないから、声を出す。
……久しぶりだったので忘れかけていたが、カイルを相手にしたときみたいな無力感を感じる。嗚呼、人は何故ここまで脆弱なのか。
〈よし、ホーネット。計測頼む。〉
《はいはーい。》
〈とりゃ!〉
炸薬で飛ばすんじゃないので、思ったより静かな――あー でもこの世界じゃデカい方か?――音を立てて、主砲から砲弾が飛んでいく。すこしずつ角度を変えて数度。
長距離射撃の為の観測用砲弾が空の彼方へ消えていく。
《お、風が無いせいか、全然問題なさそう。相変わらずこういうのは上手だね。》
〈まぁな、漢の浪漫よ。〉
コンピューター同士とは思えない会話が交わされた後、タイガーがアウトリガーを立てて機体を固定。細かく主砲の角度を変えて、吠えた。
「よし、タイガーキャノン!」
さっきよりは気持ち大きい発射音だが、おそらく音速を超えているので、すっごい音を立てて砲弾が飛んでいく。そして遥か向こうで何か壊れるような音――だと思う――が聞こえてくる。
《お、ナイス着弾。》
〈二射目は?〉
《要らないねぇ…… もう少ししたら見えてくるかな?》
何が、と思う前に、周りの人たちがざわざわ騒ぎだす。口々に「来たぞ」「来た来た」と興奮が冷めやらぬ雰囲気だ。
と、地平線の向こうから青い色が見えてきた。それはタイガーが掘った「水路」を勢いよく流れていく。
それは確かに水であった。
溢れんばかりに水に歓声が上がる。
「まぁ、水質検査とかは必要ですけど、これで水不足は少しは解消されますかね?」
と、ワザとらしく肩を竦めるジェル。
そして、この歓声を聞く限り、相変わらず自分のやった「凄さ」をあんまり理解していないと見える。
……面倒なことになる前にとっとと帰りたいなぁ。
お読みいただきありがとうございました