入れ替わろう
あらすじ:
三日ほど工事を装甲車のランドタイガーに任せたはずなのだが、何故か慌ただしく……?
海の国ワワララトの真水確保のための水路工事を装甲車のランドタイガーと戦闘ヘリのブラックホーネットに任せてのんびり過ごそうとジェルは思っていたに違いない。
パラパラパラ、とホーネットのローター音が聞こえてくる。それが近くの砂浜に着陸したようだ。
あたしとジェルの前をルビィとハルカがいそいそと通っていく。ハルカはどこか申し訳なさそうにこそこそと背中を丸めて出ていく。
しばらくすると、ホーネットが遠ざかっていく。
入れ替わりで姫巫女ちゃんとお付きのベラリーズさんが戻ってくる。姫巫女ちゃんはちょっと頬を膨らませて、ご機嫌斜めのようだ。
「も~ ホーネットの凄いのは私が先に知ってたのに~」
「まぁまぁ姫様。それでも『彼』の一番は姫様じゃないですか。」
「…………うん。」
ベラリーズさんの言葉にちょっと頬を赤く染める姫巫女ちゃん。う~ん、やっぱり青春。そんな彼女をあたしたちが微笑ましく見ているのに気づいたようだ。さっきとは別の意味で顔を赤くする。
「もう!」
誤魔化すように声を上げると、充電台の上に置いてあったホーネットぬいぐるみを手に取ると、そのまま胸の前でギューっと抱きしめる。なんか陸揚げされた魚みたいにぬいぐるみがうごめいてるけど、どうでもいいや。年齢の割にボリュームはあるのよね。
さて、何が起きているかと言うと…… なんて説明したらいいかな? 上手くまとまらないので起こったことを順々に説明すると、
タイガーが土木工事をして、ホーネットがエネルギーや物資の輸送を担当している。ホーネットは輸送もそうだが、レーダー性能を生かして、タイガーの間接砲撃(いちおう工事だからね)の観測及び微調整を行っている。
そんなわけで、だいたい二時間に一度くらいのペースでシルバーグリフォンに戻ってくるのだが、その際に姫巫女ちゃんの屋敷に寄るように言われて代わる代わる女の子が乗って行ってる。
最初は姫巫女ちゃんとベラリーズさんが乗って行った。ホーネットが作業している際は手伝うことが無いのだが、それなりに動き回る空の旅はなかなか爽快なようで。姫巫女ちゃんがウキウキとして乗り込むので、一度乗ったことがあるルビィが自分も乗ってみたい、と言い出したわけだ。
通信手段はジェルに借りなくても、姫巫女ちゃん愛用のホーネットぬいぐるみ兼通信ユニットで飛行中のホーネットに呼び掛けて、そこを通して姫巫女ちゃんと折衝したようだ。
一緒にタイガーを召喚したことで何か通じるものがあったし、立場や年齢が近いせいか初対面ながら随分と仲良くなったみたいでなにより、と。
部屋の隅の方でルビィが声をひそめてぬいぐるみに顔を近づけて(ちなみにぬいぐるみ本人?は微妙にいやいや身をよじっているように見える)いるんで声は聞こえない。聞き耳までは立てるつもりは無いので遠くから眺めているが、なんか雰囲気が怪しくなってきている……?
表情が厳しくなった……ように見えなくもない。とりあえず、今一番被害を受けているのはブンブン振られているホーネット(ぬいぐるみ)だろう。目が回るってことはないだろうが、位置センサーとか大変だと思う。
そして留守番のベルリーズさんも登場。この人、残念なことに高所恐怖症なのでホーネットには基本乗れないので留守番だ。
多分姫巫女ちゃんが何かわがまま?を言ったのをベルリーズさんがたしなめているのかな? ルビィも少し落ち着いたようで、表情が緩んで笑顔になっている。
とまぁそんな感じだったわけよ。
そんで、最初のサイクルで交代して、今はルビィとハルカがホーネットに乗って工事現場に行っちゃったわけ。
一応、ホーネットは普段は三人乗りなんだけど、後ろのナビ席はあんまり外が見えないので、前の二席に乗ってもらっている。
「面白かったです?」
ジェルがそっけないながらも、ユーザーに感想を聞いている。
「はい、最高です!」
「姫様、もっと具体的に。」
「えっと、空を飛んでいるのに静かですし、揺れることもないですし。空を飛ぶのが凄く気持ちいいです。
激しく動くときは教えてくれますし、ホーネットはいつも私に気を使ってくれますし……」
聞こえているんだろう、姫巫女ちゃんの腕の中のぬいぐるみがまたグネグネうごめいている。
「今聞くのは心苦しいが、進捗はどうなってる?」
《別にちゃんと仕事してるよ。順調は順調。タイガーがノリに乗って予定よりも早くなっているくらいかな?》
「……ついでにそっちのお姫様は?」
《いや、それは普通だよ。ハルカさんの方がはしゃいでるかな? すごーい! 始めて乗りますー! って大騒ぎしてた。》
そうなんだ。
一応、ちゃんとコンピュータなので、機内の会話と、こっちの会話はちゃんと分けられている。無論、通信を繋ぐことも可能だ。
「ふふ、私も楽しみですわ。」
「うん、楽しみ。」
次の番のサフィとミスキスもウキウキしているようで、何よりだ。
《おうおう、そっちはいいねぇ。こっちは一人寂しいぞぉ。》
……あ、忘れてたわけじゃないけど、忘れてた。すまん、タイガー。
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