工事を見守ろう
あらすじ:
重機代わりの強襲突撃装甲車ランドタイガーが水路工事を行っているのを皆で見守っている
女の子を二人乗せて、戦闘ヘリのブラックホーネットがワワララトの海の沖合に停泊しているシルバーグリフォンに飛んで行った。
三十分もしない内に戻ってきたかと思うと、大きなコンテナを下ろして、とんぼ返りしていった。
置いてったコンテナからは箱型汎用作業機械がワラワラ現れると、中身を取り出し組み立てていく。
あれよあれよという間に壁がないけど簡単な小屋ができた。屋根と腰を下ろすところがあるのはありがたい。
ジェルはさっさと小屋に入ると、疲れたように腰掛ける。そして他の人にも勧める。
「ハルカさん、ミスキス、ちょっとお願いします。」
「は、はい!」
「承った。」
同じコンテナに用意してあったのだろう、冷たいハーブティとドライフルーツが皆の前に用意された。うん、美味しい。
皆が一息ついたところで、ジェルが口を開く。
「こんな感じで工事を進めていくんで、数日はこの周辺に人を近づかせないでください。配慮していたら効率が落ちるので。」
「あ、ああ、そうだな。
しかし……」
「そうですね。ちょっとやり過ぎましたので、大量の職を奪う形になったので、その辺の再編成が必要ですね。
ただまぁ、水に困らなくなれば仕事はいくらでも増えると思いますし、それこそコンラッドの国との交易も盛んになるかと。」
「なるほど、な。」
考え込むワワララト王を横目に、ジェルが耳元の通信機に触れる。
「タイガー、三日くらいでいけるか?」
《……まぁ、無理しなくてもそんなもんだな。ホーネットには頑張ってもらわないとな。》
《えぇっ?!》
《お前の方が小回り効くし目が良いんだからしょうがねぇだろうが。》
《そうだけどさぁ……》
ジェルが聞いてる声があたしの通信機にも聞こえてくる。
こちらにいる間は、姫巫女ちゃんとまったり過ごすつもりだったんだろうか。不満そうな声が漏れるが「仕事」である以上、サボることはしないんだよね。頑張れ。
ここまで話したところで、王様が考え事から戻ってきたので、ジェルが視線を戻す。
「一応、今の予定では三日ほどで水路がそこそこ掘れるようです。」
そこそこ、の言い分に王様はちょっと懐疑的だが(別の意味で)、未だに向こうから聞こえる色んな音に無理やり納得したようだ。
「今日はたまたま現場に来たので、こうして見ていますが、明日からは無理に来なくてもいいですよ。
まぁ進捗が気になるでしょうから、遠目で見る分にはいいですが。諜報活動でしたら程々に。」
空をちょいちょいと指さすと、そこにはローター音を抑えたのか、いつ来ていたのか分からなかったけど、ホーネットが上空でホバリングしていた。
「うちの奴の方がずっと目も耳も良かったりしますので。」
と言うことは、何かいたんだな。豪快な王様って雰囲気を醸し出していたが、やることはやっているのか。
「お節介かもしれませんが、女性の家を訪問する際は事前に連絡をいただけるようお願いいたします。」
ややトゲが見え隠れするジェルの言葉に王様が息を飲む。その沈黙の理由が理解できたのは数人だけなんだろうが、その空気に耐えられずに絞り出すように王様が声を出す。
「確かにそうだな。肝に銘じておく。それとすまない。感謝する。」
正直、何がどうなってるのかサッパリ分からんが、色々あったみたいだ。後で聞こう。
ちなみに後で聞いたところ、姫巫女ちゃんたちがこっちに来ていたタイミングで屋敷とその周りの土地に侵入者があったんだって。で、沖合にいるグリフォンが見逃すわけもなく、箱型汎用作業機械を駆使して拘束したんだとか。怖い目には遭わせたが命は奪わなかったとかで。
その後、何度かホーネットが往復して爆発音や破砕音を遠くに聞きながら一応まじめな話も交えた雑談を続ける。最初は信頼関係がびみょーに無かったようだが、夕日が赤くなるころには程ほど打ち解けたんだと思う。
それでも基本的には王様の側からジェルの方にコンタクトは取らず、飽くまでも姫巫女ちゃんを通してってことになった。
大した意味はないんだろうけど、間を挟むことによって、直接ジェルの力を頼れないようにってことらしいのだが…… ジェルの女の子に甘い所が見抜かれたかしら。
まぁ、今回ジェルが結構積極的に動いているのって、理屈は分からないけど姫巫女ちゃんがホーネットを「助けた」ところもあるらしい、からなんだが、なんとなくなんだけど姫巫女ちゃんとホーネットが「仲が良い」のを応援している、というか黙認しているのだけど、それもあるのかなぁ?
……他人のそーゆーのをどうこうする前に、自分の周りをどうにかした方がよくない? って気もするが、それを言うと自分にもブーメランが刺さるので沈黙を貫くようにしよう。
空が暗くなったところで今日の作業は終了。本人たちに言わせれば夜だろうが作業できるんだろうけど、あたしたちの時代でも騒音は問題なので控えようってことらしい。
馬車を使ったり、ホーネットが何度か往復したりして、あたしたちは姫巫女ちゃんの屋敷に戻るのであった。
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