現地に行ってみよう
あらすじ:
ワワララトの国との調印の場で、なんかやっちゃいたい気分になったジェラードのやる気が失せる前に移動することになった
「じゃあ、やっちゃいますか?」
「……何をだ?」
ワワララトの国との条約調印の場。もう実務的な話は終わっているので、結果がひっくり返ることは無い。なので雑談をしばらくしてそろそろ、って感じだったのだが、不意にジェルが考え込んだかと思うと、こんなことを言いだした。一応、何を言いたいかは分かっているつもり。
「ええ、ちょっとした工事をですね。」
「工事……だと?」
「少し興が乗りましてね。」
それからはサクサクと話が進んだ。雑談を打ち切って書類を広げると、お互いにサラサラと二通ずつ署名をする(ジェルは書きづらそうにしていたが)と、それぞれ一枚を受け取る。こちらで受け取った分はハルカが受け取ると、何か筒形の魔道具に仕舞って保管する。なんか魔法のインクや書類とかそーゆーのがあるらしい。
「一応、これで調印は終了ですかね?」
ソワソワしているわけではないが、急いでいる様子のジェルにワワララト王が首を傾げる。
「そ、そうだな。両国のこれからの発展のため、これからもよろしく頼む。」
「……離席、というか退席していいんですかね?」
「さっき言ってた工事ってことか?」
「ええ、気が向いたときにやらないと、やる気が失せるので。」
ジェルのどこか投げやりな言葉にワワララト王は呆れながらも笑みを浮かべる。
「よし分かった。馬車を出そう。
……で、俺も見てもいいものか?」
「まぁ危険はないとは思いますが…… いいんですか? 王様なんですよね?」
「はっ! 王の前に男、勇敢な海の男よ!」
なんかカイルと気が合いそう。そのままワワララト王は立ち上がると、そばに控えていた人に一言二言声をかけた。相手はすっごい慌てたり断ったりしていたようだけど、王の権力で押し通したらしい。
あれよあれよという間に馬車が用意されて、乗せられる。王女ズとジェルが王様と豪華そうな馬車に。あたしとミスキスとハルカで別のそれなりに豪華そうな馬車だ。
この世界の馬車は、まぁ乗り心地が悪い。そりゃ木の車輪にサスペンションも無ければ、道路事情もよろしくない。手間暇かけた馬車っぽいので多少は考慮されているみたいだが、クッションもさほど効いてないのでヒップへのダメージが…… あんまりないな。
はて? それなりに揺れているんだけど…… 何故に?
「?」
ミスキスも気になったのか、無表情で腰を浮かせてパンツのお尻の辺りをペタペタ触る。
あたしもちょっと気になったので、ややはしたない動きのミスキスを座らせると、腕をとって服の上から思い切りチョップを落とす。
「!」
うむ、やっぱり落とした感触が変、というかジェルの白衣みたいな感じだ。となると、多分耐衝撃性、というか防弾レベルの防御力なんだろう。当然のごとくに耐刃も込みで。
ジェルが本気で女の子用の服として用意した場合は、マジで過保護になってる。何を想定していたんだ何を。
揺れるのはやっぱり勘弁だが、服の空調のおかげもあって、程々快適に。現地までは一時間半くらい。
一緒に乗っていたのは、ワワララトの王宮の侍女の人たちで、最初は全然会話が無く、自分たちだけでおしゃべりするわけにもいかず。モヤモヤしていたが、向こうの侍女さんたちがうっすらと汗ばんでるのに気づいたんで、ハルカに目を向けたら小さく頷いたので任せてみる。
「よかったらこれ、どうぞ。」
ハルカが持っていた荷物からおしぼりみたいな物を取り出して、向かいの侍女さん二人に差し出す。最初はどこか警戒しているようだったが、それでもメイド職同士で通じ合うものがあったのか、やや恐る恐るではあったが受け取ってくれた。
「え……? 冷たい……?」
はい、冷たいです。
暑さ対策として、ジェルの用意した保冷バックに色々用意してたんだよね。飲み物とか凍らせた果物とかも含めて。
最初は緊張しまくっていたけど、それこそ飲み物や果物を交えたら、そりゃ少しずつ口も軽くなって仲良くなるってもんよ。
時間はあったので、それなりに話ができるようになった。
あたしたちと一緒に乗っていた侍女の人は二人だったんだけど、年はあたしたち、というかハルカと同じくらい成人したばかりだとか。それでももう数年のキャリアがあるんだというから恐れ入る。
そんで、成人を迎えると、お給金も高くなり、対外的な仕事もできるようになるとか。基本二人とも、色々な雑用をやっていて、固定の仕事がないので大変と言えば大変だとか。でもその分、こうやって外に出ることもあるので、まぁ良し悪しあるよね。
そんで話題は王女様とジェルのことに。
で、やっぱり彼女たちが気になったのはジェルのことで、新興の貴族らしいとは聞いていたそうだけど、実際見たら想像以上に若いし、王女様や随伴の女性たち(つまりあたしたちね)が皆好意的のように見えて興味津々だとか。何者? とは聞かれたけど、生憎と答えられるような便利な言葉がない。
本国でも特別頼りにされている学者ってことで誤魔化した。さすがに言えないことが多いからね。
そんな風に話していると、馬車は町を出て郊外をひた走り、岩場のような「現地」へと到着した。
すでにロイヤルな人たちとジェルは着いていたようで、多分現場責任者みたいな人が王様から話を聞かされてアワアワしていた。
その一方でジェルがバーチャルディスプレイを周辺の地形を映し出しているのを、王女ズが後ろから眺めている様子だ。
さ~て、どこから、というかどうやって「工事」とやらをやるんだか。って思い当たるのが一人、というか一台しか思いつかんのだが。
お読みいただきありがとうございました




