画策しよう
あらすじ:
ワワララト王との打ち合わせの場。ジェラードが何かを考える……?
「なんかこう、釈然としませんが、今紹介に与りましたジェラードです。
元々平民で、なり立ての貴族なのと根が学者なので、その辺の礼儀はさっぱりです。無礼の際はご容赦を。」
「俺だって似たようなものだ。少し前までは漁師で船長だったからな。いきなり『何言ってるんだコノヤロー』とか言わなきゃ大丈夫だ。」
そこでワワララト王がニヤリと笑う。
「で、どの子が本命なんだ?」
「何言ってるんだコノヤロー。」
悪い顔して聞くワワララト王ににこりともせずに返すジェル。
ホントに何言ってるんだ、と思う前にジェルの左右で片方はお淑やかに、片方は元気よく手が上がる。嫌な予感がして左右にも目を向けると、ミスキスが恐る恐る、ハルカがそっと手を上げている。
いやいやいやいや、ってルビィ、あたしの手も無理やり上げさせなくていいからさ。
「はっはっは。豪胆さなら海の男顔負けだな、ミルビット卿。」
「勘弁してください。」
豪快に笑うワワララト王に対し、渋い顔しかできないジェル。そしてため息一つ。
「そろそろ本気で本筋に戻しましょう。いくらあっても時間が足りなくなります。」
ボヤきながら、話し合いのテーブルの上にバーチャルディスプレイを展開する。この場で見慣れてないのは王様(と、周りに控えている人たち)くらいかな? メイドのハルカは元々の知識もあったし、何度か見たことあったので。
空中にぼんやり光る画面に驚いている姿をチラリと眺めた後、ワワララト周辺の地図を映し出す。更に驚きの声が上がる。
航空撮影どころか、測量の技術もそこまで発展していないこの世界――そういやぁ、長さや重さの単位もあやふやだったなぁ――だと「精密な地図」は軍事機密レベルのシロモノなんだとか。
「この図形を浮かべる技術はサッパリ分からないな。空を飛べる魔獣を従えているなら地図作りも楽か……」
「先に断っておきますが、世界征服とか王家簒奪には全く興味が無いので、誘ったり煽ったりは勘弁願います。」
心底疲れたようなジェルのため息に、茶化す気で何か言いかけた王様が口を閉じる。多分、つついちゃいけないとこと分かってくれたのだろう。
言い方はアレだが、今回はワワララト側にとって有利、というかありがたい話なので、わざわざ必要もなく相手の機嫌を損ねない方が無難、ってところはあるだろう。まぁ、ジェルの人となりを聞いているから、寛容というか自分のことではそこまで短気でないことは知ってるんだろうけどさ。
「ある程度はご存じだとは思いますが、」
と空中の地図に赤いラインが走る。
「国の郊外にある水源から貯水池まで水を引きます。そこから国内へは水路を作る想定です。
この国の慢性的な水不足は農業も産業も、そして海運にも影響が出ていると思われます。それを多少でも解消できれば、国の地力は上がるものと思われます。」
「……確かに。」
「これから経済が発展するので、今の内に人員を増やしておいた方が良いかと。」
ふぅむ、と顎に手をかけてワワララト王が考え込み、その視線がジェルに向いたところで、サフィが口を開いた。
「あら、ミルビット卿は我が国の貴族ですので、引き抜きはご勘弁願いますわ。」
「さすがにダメか。」
「ダメです。それに私は経済の専門家ではなく、どちらかというと技術者でして。」
ジェルがそう返しても王様はどこか疑わしい顔だ。まぁそうだろうね。ジェルってそれこそ何でもできそうに見えるしね。
「それに、戻ればジェラード様を待っている女の子はたくさんいるので、この国に引き留めたらきっと恨まれますわ。」
言外に自分たちも含めて、ってサフィが圧をかけているように見える。うん、だからルビィ、そこで拳を握りしめても圧になってないんだから無理するんじゃない。
「……それはさておき、実際のルートは確認されましたか?」
「ああ、無論だ。どれくらいの工期や人員がかかるか考えねばならないからな。
しかし…… ああ、いや、やっぱり……
敢えて聞くのもバカらしいが、あれも…… その、ミルビット卿の仕業か?」
「まぁ何というか私がやったかと言われると難しいですが、関わったのは事実ですな。」
あれって、ジェルがこの前の帰り際に水源から水を引くルート上を、戦闘機姉妹の片方の対地レーザーでなぞってきたやつよね。
思いっきり地面が爆ぜさせて来たので、だいぶ工期や手間は短縮できるだろう、ってジェルにも色々考えがあってのお節介だ。
「…………」
ふとジェルの言葉が止まって、空中の地図をジッと見つめる。手元に会った資料をパラパラとめくってから後ろを振り返る。
「ハルカさん、除けてあった資料を一通りお願いします。」
「は、はい!」
(呼び捨てでもいいのに……)と何か聞こえた気がしたがハルカが置いてあった資料をジェルに手渡すと、ちゃんと読めているか謎の速度でジェルが紙をめくる。
途中で手を止めたところの資料を斜め読みし終わると、もう一度地図を見る。
う~ん、何となく予想出来ちゃったなぁ。ちょうどいい奴も連れてきているし。
「私の記憶が確かなら、このワワララトの国はこれから夏になるんですよね?」
「ああ、そうだ。」
「そうなるとちょっとした乾季があって、暑さも相まって厳しい時期になりますよね。」
「ですよねぇ……」
ここでジェルがひょい、とこちらを振り返る。
「怒られますかね?」
「今更じゃない?」
「確かに。」
と、また正面に向き直る。ジェルの左右の王女ズはあたしとジェルのやり取りが良く分からなくて、不思議そうな顔をしているが、次はきっと驚き顔になることだろう。
「じゃあ、やっちゃいますか。」
何を、とは敢えて聞かんぞ、まったく……
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