王様と話をしよう
あらすじ:
ワワララトの王と話をするジェラード一行。もう少し雑談を挟むようだ
「おっと、もう一ついいか?」
どうせ調印するのはすぐだからな、とワワララト王。
「もう十分に知っていると思うが、我が国の姫巫女のことだ。
色々思うところはあると思うが、国としても彼女をないがしろにいるつもりはないんだ。」
とは言うが、数日見た感じ、そして話を聞いた限り、年に何度か儀式みたいのがあって、それ以外は色んな勉強をしているくらい。後は海に、というか海竜に歌を捧げているとか。あ、そういやぁそれは聞いたことなかったな。
でもそれを抜きにしたら十二歳の女の子だ。
この世界は早熟というか、十五歳で成人なのだからそこまで「子供」でも無いのだろうけど、町から離れたところにお付きの人しかいない状況でずっと過ごすのはどんな気分なんだろうか。
って、話を前にジェルとしたら『でもその世界しか知らなければ、それが普通なのかどうかは分からないのですよ』とは言われた。そう言われると、あたしたちの世界みたいにいかに文明が進んでいようとも、場所によってはスラムみたいなところがあったわけだし。それこそこっちの世界なんか人の命はもっと軽いわけで。……まぁあたしたちの世界もそんなに重くないんだけどさ。
「それでも今は実に幸せそうだ、と報告を受けている。
あれだろ? あの人語を解する『空飛ぶ黒い魔獣』と姫巫女は仲が良いのだろ? どういうものか分からないが、中に乗ることができるようなのだな。たまに乗っているのを見ることがあるそうだ。」
と、どこか優しい、というか安堵の表情を浮かべるワワララト王。
「それについても感謝したいところだが、それこそ感謝されるいわれのないことなのだろうな。」
「まぁ、そんな感じで。」
ちょうど会話が切れたタイミングで、飲み物のお代わりが出された。やはり暑いからか、こちらのメイドさん?は水着みたいなチューブトップに腰にパレオを巻いた感じなので、一歩間違えると夜のお店っぽくもあるが、さすがにこの陽光の下だと健康的なお色気ってとこだ。
それでも容姿に自信があるのか、客人の中の唯一の男であるジェルに対して嫌味にならない程度にしなを作ってみせるがさすがに通じない。無視をするわけじゃないが、どうかされました? みたいな動きなので通じてないのは明らかで。
ちょっと当てが外れたような顔をするものの、王女ズを含めたあたし達全員をさっと見渡して、どこか納得したように下がる。
……いや、いいんですけど。
「それはともかく、できれば後ろの三人にも椅子と飲み物をお願いしてもいいですかね? 彼女たち、扱いは侍女ですが厳密に言うとちょっと違いまして。」
「なるほど、分ったよ。すぐ用意させる。」
ワワララト王は視線を横に向けると、そばに寄ってきた執事風の男に一言二言告げると、すぐに更に何人かが現れて、あたしたちの分の椅子と小テーブルが用意される。
メイドの訓練を受けてるハルカと、色々やってるミスキスは平気なんだろうけど、さすがにパンピーなあたしは長時間微動だにしないで立っているのは無理がある。
あたしが色々余計なことを考え出したのに気づいたのかもしれないが。
「これで多少長話になっても大丈夫ですかね。」
「まぁ、そうだな。実は今日を結構楽しみにしていたんだ。この国を、世界を守った男と話してみたかったからね。」
「それはご期待に沿えなくて残念です。」
「そうかそうか。」
どんな意味で言ったのかは分からないが、それなりに伝わってはいるようだ。
「そろそろ話を戻すとするか。
さて、ミルビット卿、この国はどう見えるかね? 大国であるコンラッドが手を貸すに値する国かな?」
不意に「海で一番強い男」から「王」の目になって問いかけてくる。そしてジェルはそんなことくらいじゃあ眉一つ動かさない。そこに白い手が一本挙がった。
「先に私が答えてもよろしいでしょうか?」
って、ルビィか。お姫様モードなので、ちょっと大人びて見えるが…… 大丈夫なんだろうか、ってちょっと不安、というのはちょっと失礼か。彼女だって王女としての勉強をしているんだし。
「ミルビット卿は我が国でも一、二を争う賢者なので、すぐに答えを出してしまうので他の者の勉強になりません。なので、先に浅学な私からお願いいたします。」
立ち上がって頭を下げるルビィにワワララト王が頷くと、二コリを笑みを浮かべてから説明を始めた。
「海産物もそうですが、塩が交易品として大変有用です。コンラッド国内で新しい料理が流行り、塩の消費量が増えております。
現在はいくつかの商会が独自で運んでいますが、それを国が率先して購入するように働きかけようと考えております。」
「なるほど。そうなると塩の生産体制を見直すべきだな。」
「その通りです。ただし、量を作れば良いというものではありません。環境にも配慮しなければなりませんし、輸送ルートの構築も必要かと思われます。」
「そうか、そういうことも考えなければならないのか。さすがに簡単にはいかないのだな。」
あごに手をかけて悩むワワララト王。
「そうです。ですから両国の長期に渡る協力関係が必要かと思われます。
それにこの国には海があります。将来的には海を使った交易も発展させたいと考えております。」
「なるほど。俺の代でこんな大事業が始まるとはな。……実に面白い。」
満足そうに笑うワワララト王だが、元々が荒くれ者なのか、なかなかに迫力がある。
「後はジェルさ…… こほん、ミルビット卿、お願いいたします。」
「はぁ。」
ちょっと最後に気を抜いたルビィだが、それなりに説明が上手く済んで、内心ほっと胸をなでおろしていることだろう。
そして後はジェルに丸投げらしい。色々複雑そうな、というか面倒くさそうに口を開くのであった。
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