海の国の王様に会おう
あらすじ:
ジェラードとコンラッド王国の王女二人+三人でワワララトの王様に謁見する
「ようこそワワララトへ! ってまぁ、そんなに固くなるなって。俺だって名前だけの王みたいなもんだからな!」
がはは、と豪快な笑いを上げる海の国ワワララトの「王様」。対外的には「王」なんだけど、実情は海で一番強い奴、なんだとか。
なんじゃそりゃ、というのが正直なところだが、それでも国がちゃんと動いているのは実務担当者がちゃんとしているかららしい。
トップはなんつーか「力」で決めるらしいが、下に関しては貴族に当たる「名家」がそれなりに人材を出し合っているようで。特に事務方はまさに実力主義だし、それこそ不正なんかした日には名家ごとボッコボコにされるとかで。
あたしたちの感覚で言うと、大統領制に近いのかな?
「さて、俺たちも何も知らないわけじゃない。
今まで三回だな。俺たちの国を救ってくれたのは。」
感謝する、と王様が立ち上がって頭を下げる。
「なんのことやら。」
いつものようにジェルがとぼけると、立派な椅子に座りなおした王様がガハハと笑う。
「ハンブロン卿の言ったとおりだな。
何をしても誇らず、それどころか自分が関与したことすら認めず、よって褒賞も貰う気も無い。国としては面倒な奴とな。」
王様が言えば言うほど、ジェルの顔が渋くなる。
「さて、真面目な話に戻ろうか。
……いや、その前にやっぱり聞いておこうか。その揃いの衣装はなんなのだ?」
と、言われてふと自分を見下ろしてみる。
今回は全員揃いの服になっている。
あたしたちの世界のスーツを元にしたような感じだ。それこそ被服担当の対地攻撃機ファイヤーロックの全力を尽くしたデザインだ。
ジェルは普通にストンとしたラインだが、それ以外の女の子たちは腰回りをすぼませて少しラインを出している。そして多分驚かれているのは全員がパンツルックなのだ。この世界、女性がズボンというのは乗馬とか狩りとか、後は全身鎧でも着こむときくらいじゃなかろうか。というくらいに「女性=スカート」というのが一般的である。
それこそ王女ってクラスだったらドレスしか装備できないんじゃね? って感じがするんで「雄牛の角亭」の三人娘は制服はワンピースのスカートだけど、私服は結構バラバラで。よく動くリリーに関しては、あんまりスカートを履かせない方が「安全」なんだよね。女の子としてはちょっと自重してほしいところだが、それが彼女の取り柄なので、としか言えないよね。
あ、そうそう。ジェルだけはついでにマントまでつけている。それこそ色々悩んでいた「紋章」付きのだ。例の「眼鏡と白衣」だ。意匠的にデザインされているので、パッと見では分からないが印象には残りやすい。
「この日の為にあつらえた礼服ですね。
しっかり着こんでいるように見えますが、これでも結構涼しくできているんですよ。」
真夏のような暑さのワワララトではあるが、通気性の良さプラス、冷風システムが仕込んであるのでとっても結構を通りこした快適さだ。相手の王様が赤銅色に焼けた上半身を大きく晒しているが、それでも暑そうに汗を浮かべているのに、こちらではみんなおすまし顔ができるのはありがたいことだ。
「そういえば、こんなものはいかがでしょうか?」
と、ジェルが合図すると、あたしとミスキスと一緒に後ろで控えていたハルカが持ってきたコンテナの中から何かを取り出して、周りに許可を得てからテーブルの上に置く。
凍らせた果物なのだが、調整しているのでガチガチに凍っているのではなく、ほどほどなので簡単に食べられる。
(ちゃんと打合せ通りに)ルビィが手を伸ばし、ベリーのような果物を一つ口に運ぶ。
「こちらの果物は大変美味しいですね。」
と顔をほころばす。さすがにこういう場ではちゃんと王女様モードは維持できるようでなにより。……でも、物足りないような顔はもう少し隠してね。
さすがに相手の王女様が食べたのに毒を、なんて不埒なことは考えずに、ワワララト王も手を伸ばす。そしてその味と冷たさに破顔した。
「ははっ、これは冷たくて美味しい。
なるほど、そういえばサフィリア王女は氷魔法の使い手とは聞きましたが、その貴重な技をこんな形で見せていただけるとは。」
王様の誉め言葉にサフィはニコニコ微笑みを返すが、実際は冷凍庫という文明の利器のおかげだ。同じように再現できないかギリギリまでサフィも頑張ったのだが、会得まではいかなかった。あの笑顔の裏では悔しさに歯を食いしばっているのかもしれない。知らんけど。
「物流もそうですが、こういう技術も交換し合えれば、と我が王は考えておられます。」
それこそ、その気になればいくらでも真面目な顔ができるジェルがよそ行きの口調で説明をする。ちょっと「我が王」のところで釈然としないものがあったのか、分かる人にしか分からないくらいに小さく口ごもる。……まぁ、気持ちは分からんでもないが。
「それに関してはこちらとしては有難いの一言だ。国力としては我が国の方が下であり、コンラッドとの同盟は我が国としては歓迎することしかない。
正直言えば、こちらからそれに値するものが出せるのが不安なのだがな。」
「それに関しては、身近な物ほど価値が分かりづらいものですよ。」
「……まぁ、それも何度も聞いたのだが、未だに信じられんよ。それに我が国の水の問題にも手を貸してくれるとはな。」
「あとは最終確認みたいなものなので、特に問題がなければ粛々と進めましょう。」
とまぁ、打合せは終始和やかなムードで進むのであった。
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