朝食取って色々しよう
あらすじ:
一晩明けてジェラードの魔改造が舞い降りる。
そして朝食後に打合せが始まった
(なんですかこれーっ!!)
海の国ワワララトに着いて、二日目の爽やかな朝はあんまり爽やかじゃない悲鳴から始まった。というか、この国は朝から結構暑いようで。それでも昨日の内にあちこちに設置されたエアコンのおかげで、そこまで暑くは感じられない。……外は暑いんだろうなぁ。
あ、うん、そうじゃないよね。
ちなみに悲鳴の主はベルリーズさんだ。
姫巫女様のお付きの双子の妹の方なのだが、凛々しい言動の割には、この屋敷の家事を一気に引き受けている。ちなみにお姉さんの方のベラリーズさんはあらあらまぁまぁ系に見せかけて実は武闘派で、姫巫女様の護衛を主に努めているとか。
そんなわけで、朝から聞こえてきた悲鳴だが、なーんか、聞き覚えのある感じなのよねー あれは確か……
(水が! しかも真水が!)
アイラが最初こんな感じだったなぁ。最近は「まぁ便利ですね。でもやるなら事前に言ってくださいね」とあっさりしたもので。
なんか人の気配が厨房の方に集まっているようなので、そちらに向かってみると、すっかり屋敷の住人が集まっていた。
「こっちが水で、こっちがお湯。」
「嘘…… 水だけじゃなくてお湯も……」
「こっちは火が出ないけど、熱くなるから料理ができる。」
「……魔法みたいですね。」
一晩で厨房に近代的なシステムキッチンになっていた。またやり過ぎではなかろうか。
「なるほどなるほど、でもまずは朝食を作っちゃいますね。」
「うん、手伝う。」
食事の支度を始めるベルリーズさんにみすきすが、手伝いを申し出る。なんやかんやで「雄牛の角亭」でアイラの手伝いをしているから、簡単なことはできるんだよね。
そして隠密メイド(何度聞いても違和感しかないが)のハルカは料理はともかく、サーブには慣れているのでなかなかの戦力だ。
そして、戦力にならないあたしは、同じく役に立たない王女ズを連れ、リビングに戻る。後から姫巫女様とベラリーズさんも着いてくるので、彼女たちも戦力外なのだろう。
くっ、なんて無力だ……
自分の不甲斐なさに落ち込む暇もなく、席に着いて待つことしばし。厨房からいい匂いがしてきたところでジェルがのっそり起きてきた。何をやっていたかは知らんが、平常運転ってことなんだろう。それでも余程の徹夜状況じゃない限り、朝ちゃんと起きてくるんだよね。意外とそういうところは何というか。
それから更に少しして、朝食が運ばれてきた。この国はパンじゃなくてトウモロコシの粉を練って丸く焼いたのが主食だそうだ。それに色々載せて食べるわけだ。
ひき肉を炒めたものが二種類、魚を煮てほぐした物、それに野菜。そして果物を甘く煮たジャムの一歩手前みたいなやつだ。
「美味しいですね。」
人前なので、若干プリンセスモードになったルビィがお澄まし顔で声を上げる。
素朴ながらも、毎日食べられるような感じの味だ。中に入れるものも色んなパターンが考えられる。うん、戻ったらアイラとリーナちゃんに教えてみよう。
飲み物は豆やその葉っぱとかを炒った物を煎じたものらしい。これはこれで風味が面白いし、それこそ気候とか農作物の関係なんだろうね。
食事が終わり、ベルリーズさんとミスキスにハルカが片付けていると、ジェルがプラスチックペーパーの書類を取り出してトントンとまとめる。
「えっと、一応仕事の話、してもよろしいですかね?」
「いや、ジェラード様、そこは仕事しないといけませんよね。」
面倒くさそうな口調のジェルに、サフィがロイヤルな笑みで圧力をかけてくる。むぅ、と不満げな顔をするが、そんなこと「氷の魔女」とも呼ばれる王女様には通じない。
「伺いますね。」
向こうの担当はまずはベラリーズさんらしい。ジェルが差し出したプラスチックペーパーに驚きながらも、その内容に目を通す。その肩越しに姫巫女様が覗き込んでいる姿が微笑ましい。そして彼女の腕の中にはホーネットのぬいぐるみが抱かれたままであって。
「この紙、凄いですねぇ……」
と言いながらもペラペラとめくりながら目を通すベラリーズさん。ほんわかお姉さん系だけど実は武闘派で書類仕事も得意のようだ。
「まぁ、元々は最後の確認くらいですから何かする必要もないですね。
……ジェラード様、子爵になられたのですね。態度を改めた方がよろしいですかね?」
うふふ、と意味ありげに笑みを浮かべるベルリーズさんだが、それが冗談だと分かっているので渋い顔をするジェル。
「お貴族様ってこれだから嫌なんですよね。別に人が変わったわけじゃないのにねぇ。」
「それはまぁ…… ご愁傷様です。」
絵に描いたような、あらあらふふふ、という顔で言うのでワザとなのだろう。
「さて、具体的には二日後に王城で調印、という形になりますね。」
コンラッドの王城とでは比べるのも恥ずかしいのですが、とは言うが、お城はそれなりに大きいものじゃなかろうか。
「二日後、ですか……」
くるりと周りを見回して、いつも何かに戻っていたみんなの顔を眺める。
「明日は準備のために使うとして、今日はどうしましょうねぇ。」
シルバーグリフォン号で来たので移動の疲れも無いわけで。
「だったら遊びたいの!」
プリンセスモードを忘れてしまったルビィを拳を突き上げる。
「あらそれは良いですわね。」
「うむ、名案。」
「あ、姫様、グッドアイデアです!」
サフィもミスキスもハルカもキャッキャウフフと声を上げる。そしてワクワク顔の姫巫女様も揃うと、そりゃジェルも動かざるを得ないだろう。
さてさて、何をしてくれることやら。
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