涼しくなろう
あらすじ:
海の国ワワララトの「姫巫女」の屋敷にジェラードが色々プラントを作り始める
トテカントテカン、って擬音がどっから来たのかはしらないけど、そんな感じで箱型汎用作業機械があちこちで作業をしている。
何が始まったかと言えば、今は海の国ワワララトの姫巫女様の屋敷にいるのだが、色々思うところがあったジェルが、シルバーグリフォンから色んな装置を運んで砂浜にプラントらしきものを建設している。
「こ、これは一体……」
ベルリーズさんの問いに、ジェルがバーチャルディスプレイから目を離すと、彼女に向き直る。
「まぁ、私のわがままなのですが、こちらで滞在するときの生活環境を良くしたくてですね。」
このワワララトの国。海は近いのだが、真水にやや乏しい。なので、シャワーを浴びる習慣も無い。後で聞いたんだけど、こっちでは言うほど海で遊ばないらしいので、その辺のこともあるんだろう。
「で、何作ってるの?」
「塩の生成プラントですね。ついでに真水ができますが。後はいつもの発電プラントですね。」
ああ、あの乙女の柔肌と引き換えにした。
「……なんかディスられている予感がします。そこまで言うなら頑張って思い出しますよ。」
いや、それは止めて。あたしのことを思い出されるのは困るが、他の娘のことは…… もっとダメ。何を言ってるのか、って言われても説明しづらいし、説明したくない。強いて言うなら、色々見られちゃったってことで。
というか、
「塩?」
「ええ、塩です。次行くときにちょっと大量に仕入れてくれ、と言われましたんで金をケチるわけじゃないのですが自分たちで作るのも手かな、と思いまして。」
あたしたちが(って主にリーナちゃんだが)が色々料理を広めたために、塩の需要が大きくなっている。いずれ大規模なキャラバンで塩の交易が始まるんだろうけど、すぐではない。それこそ国の関与の度合いや利権とか、色んな事が関わるので安易には、ってとこだろう。
「ふむ、」
ジェルが手を止めて、外に目を向ける。
キューブが二つ並んだプラントの近くに取り急ぎで作ったような個室?みたいなものが建てられた。
「シャワーができたようですね。使いたい方はどうぞ。」
と、あたしたちの間に緊張が走る。マリンバイクだったが、それなりに波しぶきは浴びたので、まだ何となく潮臭い気もする。気温は高いので汗は出るし、そうなると身体全体に塩がコーティングされてる気までしてくる。
今のところは夕飯までは自由に過ごしてください、とのことなのだが……
「時間があるなら、ちょっと海に行く。」
前来た時に潜るのが気に入ったらしい。ナイフを収めたホルスターを太ももに巻き、ジェル謹製のゴーグルと空気調整器と足ヒレをマリンバイクに載せると、そのまま海に向かっていった。まぁ、まだ夕飯には数時間くらいあるので、多少遊んでも大丈夫だろう。
これと言ってすることの無かったあたしたちは交代でシャワーを浴びて、服を着替えたあたりで部屋の一角に人が集まっていた。
どうやら、その間にエアコンをつけたようで、そよそよと優しい涼風が吹いている。このワワララトは常夏の国で、夜になると多少マシになるが基本暑い。風もあんまりないので、窓を開けていても暑苦しい。
そこも踏まえて、あんまりキツくならない程度にしたのだろうが、そよ風程度なのに実に心地よい。
「これも…… ジェラード様ですか?」
一番風を堪能していたベルリーズさんが、あたしに気づいてちょっと恥ずかしそうに聞いてくる。まぁ、こんな摩訶不思議なものを用意出るのはどう考えても一人しかいないわけで。まぁこの人たちはホーネットを作ったのがジェルと知ってるわけだし。
「暑いけど、この風は気持ちいいの。」
この国が初めてのルビィもこれなら大丈夫そうだ。……いやぁ、前来た時は、結構寝苦しかったのよ。温度調節ができるジェルの防弾白衣を奪ってやろうか、ってギリギリのところだったし。
「ただいま。何事?」
海から戻ってきたミスキスが、未だに部屋の一角に集まってるあたしたちに気づいて(おそらく)不思議そうな顔で小首を傾げる。この娘はジェル以上に表情を出さないから難しいのだが、顔以外で読み取るのは意外と容易いことに気づいた。
「魚獲ってきた。良かったら使って。」
と、網に入った魚を掲げるミスキス。鼻から小さくふんす、と息をはいているのでドヤ顔しているんだろう。
「あら助かります。今日は少し材料の入りが悪かったので。」
上機嫌になったベルリーズさんがミスキスから魚を受け取ると、厨房の方に消えていく。
「あ、姫巫女さん、もうすぐ帰ってくる。」
そう小さく呟くと、周りをキョロキョロ見てから屋外に設置されたシャワーを見つけて、そちらに歩いていく。
それから少しして、いつの間に出かけていたのか、戦闘ヘリのブラックホーネットのローター音が聞こえてきた。……見かけないと思ったら出かけてたのね。
「「ただいま戻りました。」」
姫巫女様とベラリーズさんが戻ってきた。
戻ってきた二人もエアコンの存在に気づいて冷気にふらふらと吸い寄せられる。
「「お~」」
「姫様も姉さんも……」
とは言いつつも、ベルリーズさんもなかなか離れらえない。この国だと涼しい空気は魔性の誘惑なんだろうな。
それから後ろ髪を引かれるようにベルリーズさんが厨房に入っていくと食事の支度を始めた。
こちらの女の子たちは皆料理ができないので、ちょっと肩身が狭い。でも元々ベルリーズさんは大人数相手の料理に慣れているらしく、瞬く間に大量の料理を作り上げていた。
ミスキスが獲ってきた魚も食卓にのぼり、賑やかな夕食と相成ったのであった。
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