海に飛び出そう
海の国ワワララトの姫巫女のところを訪れようにも、乗ってきた高速戦艦シルバーグリフォンは沖合一キロくらいのところに停泊。どうやって向かうかと言えば……?
「いっくぞー!」
「いくぞー」
「ホントに行くんですか……?」
やる気ありありのあたしとミスキス(分かりづらいけど)と、いつものようにやる気がないジェル。
現在いるのはシルバーグリフォンの甲板――まぁ上部装甲って事なんだろうか――だ。
「いっけー!」
「お手柔らかにお願いします。」
「はわ、あわわわわわわ……」
ノリノリのルビィに、ワクワクのサフィ、そしてアワアワのハルカってとこだろうか。
今の状況を少しずつ説明すると、ワワララトの姫巫女様の住んでいる建物のある砂浜から一キロほど沖の海上にシルバーグリフォンが浮かんでいる。これ以上入ると海底に乗り上げてしまうそうで。
船体のほとんどは海に沈んでいるが、一メートルほど海上に出ているわけで。
姫巫女様のところにお邪魔するには一キロほどの遠泳をするわけに、の以前にできそうににない。
艦載機を使う手もあるが、せっかくの海なんだし天気もいいし、ってことで、マリンバイクを使って行くことにしたわけで。
海上を走るので、みんな水着+サマージャケットににお着換えだ。あ、誰かさんはエターナル白衣だけど。
さて、すでに一度ワワララトに来ているあたしとミスキスとサフィは新調する必要性も感じなかったので、前と同じ水着だ。
あたしは赤の三角ビキニ。ボリュームには自信が無いのでラインで勝負だ。アスリート体形のミスキスは白い競泳タイプの水着。青のラインと尻尾のような二本のリボンがチャームポイント。
サフィはお姫様なので露出を控えるためにフリル多めのワンピース。色は瞳の色に合わせてブルー系。更にパレオを長めなのを着けている。
そして今回初参加の二人。
これまたお姫様のルビィは姉のサフィと同系統のデザインにし、瞳の色に合わせて、赤系、というかピンクに。「姉様とお揃いなの!」と彼女にも好評だった。
最後にハルカだが、黒髪メイドの印象しかなかったので難航した。よくよく考えれば、彼女も水着を知っているんだから本人に聞けばよかった。で、調べてたら「メイド水着」なるものがあった。ボトムはミニのエプロンスカートっぽくて、トップはビキニ。全体にフリルがついていてメイド服っぽくなる奴。頭にはホワイトブリム付き、っていうのがあったので、それにした。
本人は「え、こういう時ってスクミズじゃないの? いや、でもこれはこれで」と謎のコメントをいただけたので、多分オッケーなんだと思う。
そんなわけで、いざマリンバイクでゴー! と思ったのだが、マリンバイクは二人乗りで運転できるのがあたしとジェルしかいないわけで。って思ったらミスキスが手を挙げた。そういやぁホバーバイクは乗り回していたっけ。あたしでもできるだから、初めてじゃなければいけるだろう。
ルビィは「ラシェルと乗る―!」って決まって、後はサフィとハルカなのだが、顔見知りの程度を考えて、ミスキスとサフィ、ジェルとハルカという形になったのだが……
「はわ! はわわわわっ!」
マリンバイクの構造上、二人の場合、前後に乗るしかない。操縦する人の前か後ろってわけだ。しっかりしがみつくか、バックハグもどきにされるか、と。ただ前に置く場合は操縦者よりも小柄じゃないと視界を遮られるし、後ろの場合はしっかりしがみつかないと振り落とされるので大変である。
あたしもそんなに大きいわけじゃないが、ルビィはそれよりも小柄なので前に。ミスキスとサフィは同じくらいの身長なので後ろにしがみつく形に。
そしてハルカなのだが、ジェルよりは小柄なので前でも後でも行けるので、後は本人の意思だ。……まぁ、ジェルの意向は聞かない。
「なんか理不尽なことを思われている予感がします。」
気のせい気のせい。
未だに乙女の苦悩なのかポジショニングが決まらないハルカ。まぁ、この前のパジャマパーティで聞いた話だけど、ジェルにちょっと気があるらしく。……また増えたか。
どうやら自分の中の折り合いがついたのか、恐る恐るハルカがジェルの乗ったマリンバイクに近づく。
「あああああ、あ、あの、その、ジェラード様、ししし失礼します。」
噛み噛みでアワアワだけど、ちょこんとジェルの前に脚を揃えて座る。カタカタ震えているように見えるが、恐怖ではなく緊張なのだろう。
「……大丈夫ですか?」
「ひゃ、ひゃい!」
後頭部あたりに声をかけられて、裏返った声を出すハルカ。なんか初々しいが…… そういやぁ、こういう反応、久しぶり……というか初めてか?
全員の準備が整ったところで(ハルカが整っているかどうかは不明)、冒頭のように出発した。
ジェルの作ったマリンバイクは陸上でも動けるようにホバー機能もあるので、甲板からふわりと浮くと、そのまま海に向かって駆け出す。
「「「「ひゃっほー!」」」」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
四つほどの歓声と、一つほどの悲鳴が聞こえるが無事着水。ホバーからウォータージェットに切り替えて、海面を疾走する。まぁ、ジェルの設計なんで安全性はバッチリだろう。操縦も簡単なので、次からはみんなも使いこなせるだろう。
女の子の嬌声を響かせながら、三台のマリンバイクは砂浜に向かって波を超えていくのであった。
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