着いてみよう
高速戦艦シルバーグリフォンが海の国ワワララトに向かう。移動時間の間にグリフォンの中を案内する
「こちらが居住スペースです。個室はお見せできませんが、各部屋にトイレとシャワーがついているので、引きこもりも可能です。」
「「「おぉ~~~」」」
シルバーグリフォンを案内するジェル。何度も来たことがあるミスキスは相変わらず経験者風のドヤ顔でついてくるが、この百五十メートル級の艦のすべてを見回ったわけじゃない。って、あたしだってすべて見たことあるわけじゃないが。
「こちらは食堂ですね。奥にキッチンがありますが、リーナのテリトリーなので今日は入らないでおきます。」
「「「おお~~~」」」
つめれば十人くらいが座れるテーブルがある食堂。比較対象がないから分からないだろうけど、普通の宇宙船にはこういう無駄なスペースは無い。戦闘艦としての機能を優先させると、居住スペースなんて最低限に削るのが本来の姿なのだが、そこはいつもの「ジェルだから」というパワーワードの前では意味をなさない。
「こちらは先ほども通りましたが、格納庫ですね。今は二機しかいませんが、本来は残りの四機も搭載しています。整備や修理もここで行います。」
「「「おお~~~」」」
リアクションがずっと同じだが、無理もない。そもそもがどこを見ても、未知すぎるからなぁ。
「というわけでラシェル、どこか良いところないですかね?」
どこか困り顔のジェルがこちらを振り返る。
まぁ確かに武器庫とか工作室とか医務室とかは危険だから見せられないしなぁ、と。そもそもシルバーグリフォンは観光に向かない。
〈そろそろワワララトの上空です。〉
三十分くらいしか余裕がなかったので、あっちこっち見ていたら、あっという間なのは間違いない。
『ジェラード殿、先に海竜と話をしてくるから、少し待ってもらえぬか?』
甲板にいるらしいサクさんの声が聞こえてきた。
「グリフォン、とりあえず海上で停止。あと、サクさんを追尾。」
〈了解。〉
『うむ、かたじけない。』
その声のタイミングでバーチャルディスプレイが開くと、おそらくシルバーグリフォンの甲板の光景が映し出される。
そこにはいつもの黒い和服を身に着けたサクさんの後姿が見える。
と、その姿が急に駆け出し、そのまま右舷の端に向かう。
「「「!」」」
周囲で声なき悲鳴が上がった。
まぁ、ぶっちゃけて言えば、右舷まで到達したサクさんはそのままシルバーグリフォンの甲板から飛び降りたのだ。ちなみに現在の高度はふつーに千メートルくらいはあるんじゃなかろうか?
カメラで追ってるサクさんの姿がどんどん小さくなる。ズームさえしてくれれば最後まで追えるんだろうけど、あっという間にその姿が見えなくなった。重力という物理法則に則った真っ当な現象だけど…… 遅ればせながら、え~っ?! って感じになる。
「サクさんに物理法則を求めるのは止めましょう。」
現実主義のジェルすらサクさんには対してはちょっと諦め気味である。良くは見えないが水柱が立ったようには見えないので、こー静かに着水したのか、空中で止まったのか。
すぐには「話」が終わらなそうなので、一度コクピットに戻る。空中で待機しながら他愛も無い話をしていると、コクピットの入り口が開き、黒い和服を着たサクさんが戻ってきた。
「待たせたようで忝い。」
「いえ、お構いなく。で、どのように海に入ればよろしいので?」
「うむ、このまままっすぐ降りても良いとのことだ。ただ、この辺は深いが、海底には気をつけて欲しいそうだ。」
「分かりました。グリフォン!」
了解の声と共に、ゆっくりと高度を下げていくシルバーグリフォン。
ちなみに、ワワララトの沖合ずっと遠くにいるので誰かに見られていないとは思う。一応周囲はサーチしているし。
海面まで達すると、そのままゆっくりと海中に没していく。沖合だけあってか、全長百五十メートルのシルバーグリフォンでも十分に潜ることができる。
さっきと打って変わって空の青から海の青になったスクリーンの風景に、後ろから感嘆のため息が漏れる。
最初は太陽光が海を青く輝かせていたが、深く潜っていくと濃い青に変わっていく。
〈海底をマッピングしながら、潜航したまま海岸に向かいます。〉
「ん。」
静かな海の中をシルバーグリフォンが進んでいく。
〈そろそろ到着ですね。ホーネット、向こうに連絡は?〉
《え? あ? すぐするよ。あんまり早めに言うとずーっと待ってるんだ。》
ほーほー 相変わらず姫巫女さんと仲が良いようで。
〈……あ~ 私だと沖になってしまいますね。この辺は結構な遠浅のようです。〉
「どれくらいだ?」
〈そうですねぇ、最短距離で一キロくらいの所なら、浮上していれば大丈夫かと。〉
となると…… 海上からそれくらい移動しないと上陸できないってことか。戦闘ヘリのブラックホーネットで三人乗り、あと装甲車のランドタイガーあるけど海でも移動できたっけ?
って、あの手があるか。
「よし、」
あたしは立ち上がると、女の子たちを立たせる。さ~て、ここでちょっと早いけどショウタイムと参りましょうか!
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