出発しよう
あらすじ:
ジェラートたち一行が海の国ワワララトに向けて出発する。その乗り物と言えば……?
「よし、シルバーグリフォン発進!」
〈了解!〉
山の中に作られた基地から、150m級の高速戦艦シルバーグリフォンが発進する。
まぁ、あんまり注目されないように一気に上昇して、地上からは見られないくらいの高さに到達する。
〈このまま南下して、海洋に出てから一度着水します。到着予定時間はこれから一時間程度となります。〉
「だ、そうです。」
と前方右側、メインパイロットの席に着いたジェルが後ろを振り返る。その後ろにはサフィとハルカ。前方左側のコ・パイロット席があたしで、後ろにルビィとミスキスが座っている。
サクさんの分の席は無かったのだが、別に気にした様子もなく壁を背にして立っている。
ちなみにグリフォンは一時間って言っているが、現地に着くだけなら、その半分以下で着けると思う。ただまぁそんなことを大気圏内でやったらえらいことになるので、グリフォンにとっては徐行くらいの速度になるだろう。
「それでは、この『船』を案内してもらえませんか?」
サフィがそんな提案をしてきたことで、皆が席を立つ。そして色々ツッコミどころのあるこんな状況になった流れを何となく思い返してみた。
「今回の案件では、一応礼儀作法を取得している人を選んでいます。
ミスキス、確かできましたよね?」
「うん。仕事でちょっと。」
昔は裏稼業っぽいことをしていたそうで、それこそ潜入工作とかのために一通り身に着けているらしい。
「後は王女様が二人おりますので、身の回りの世話をできる人間が必要です。そうなるとハルカさんかミリアさんのどちらか。そこで後はバランスの関係でハルカさんを選びました。」
バランス、ねぇ……
「ははははい! 光栄です!」
さすがにそういう事情があるとなると、リリーもおとなしくするしかないようだ。リーナちゃんに頼むのも手だけど、今はカイル主催の騎士団山ごもりに付き合っているので、スケジュール的にもよろしくない、というところだろう。
「出発は三日後。特段に準備は要りません。着替えを数日分用意いただければ大丈夫です。
宿泊場所はご存じの方はご存じですが、姫巫女様のところを頼ろうと思います。」
ん~と、今回だと行ったことないのはルビィとハルカの二人だけか。というか、七人だからパンサー1(ピックアップトラック)で行くのも微妙に辛いかなー またグレイ(大型トレーラー)で行くのかなー? って思っていた時もありました。
パンサー1とホバーバイクに分乗して町の外へ。山の中にある秘密基地に向ってるんだと思う。この時点であたしだけじゃなく他の人の頭の上にも疑問符が出る。
グレイに乗って行くなら別にこっちに来る必要ないよね……?
と思いながらも無情にも秘密基地に到着し、そのまま後部スロープを通ってシルバーグリフォンの格納庫内に入る。
あー 格納庫の中には戦闘ヘリのブラックホーネットと、強襲突撃装甲車って謎カテゴリのランドタイガーがいる。
そのままパンサー1とホバーバイクから降りると、格納庫から中央の通路を通ってコクピットへ。
「…………」
「うわ、すっごいSF! すっごいSFです! 本当にあるんだぁ……」
初体験でも反応は正反対で、周囲を見渡しては言葉を失っているサフィと、キラキラした目で興奮しているハルカだ。あたしたちと同じような異世界から来た彼女だが、ジェルによるとせいぜい化学ロケットで衛星に行くくらいの技術だったとか。なので、あたし達の世界の宇宙船はホント想像の中のものらしい。
〈私はMIAICー001。高速戦艦シルバーグリフォン。本日はお乗りいただきありがとうございます…… ってホントに私で行くんですか?〉
コクピットに到着すると、クールに自己紹介をした制御AIのグリフォンが挨拶をしてくれる。が、なんか釈然としないものがあったのか、後半が愚痴っぽい口調だ。
……何度か言ってるが、あたしたちの時代でもAIが愚痴ったり、女の子と仲良くしたりするのもおかしいからね。
まぁ、そんなわけで本人(艦)の意思はともかく、発進したシルバーグリフォン。
そんで冒頭に戻るわけだが、三十分程度とはいえ、暇になったのだが……
「拙者、風を感じてみたいので甲板に行ってみても良かろうか?」
「ええと…… 気を付けてくださいね。」
「心得た。」
サクさん――正体は力の大半を失っているらしい黒竜――のリクエストにジェルが悩むが、それこそ力の「底」が分からないので、それだけしか言えなかった。……まぁ、落っこちてもどうにかなりそうですし。
「一応、モニターしておいてくれ。」
〈了解。〉
ちなみにシールドを張ってるとはいえ、音速の何倍もの速度で飛んでいるはずだが大丈夫なんだろうか。……やっぱ大丈夫か。
何となく皆で黒い後姿を見送ったところで、すっと手が一本挙げられた。
「それでは、この『船』を案内してもらえませんか?」
「そうなの! ルビィも前乗ったときはここしか見てないの!」
「あ、あたしも是非……」
ミスキスはなんだかんだで何度も出入りしているので、どこか経験者風のドヤ顔でふんす、と鼻から息を吐いてる。
「大して面白くないと思いますが……」
と観光地の地元民みたいなことを言いながらジェルが立ち上がると、いつものように面倒くさそうな雰囲気を漂わせながらも、コクピットを出ていく。それにみんながついていて、無論あたしもついていくことになった。
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