色々決めるとしよう
あらすじ:
宮廷魔術師のギルバートや、ハンブロンの領主ジェニファーにワワララト行きを押し付けられたジェラードだが、そうなると色々決めることがあるわけで
「グレイ、ファイヤー、ちょっと来てくれ。」
《なにかの?》
《なになにー?》
夕食後、ジェルがそう呼びかけると、壁に偽装していた箱型汎用作業機械が二体抜け出ると、灰色と赤に変わる。
「まずファイヤー。礼服をデザインしてくれ。一つのデザインをベースに男女若干変えた感じで。我々の世界の官僚のイメージでな。」
《ん、オッケーオッケー。》
「素材は防弾防刃仕様。安全第一で。
作れる人の分は作り始めてくれ。」
《かしこまりー!》
AIとは思えない軽い口調でクルリと回ると、壁に戻っていく赤キューブ。
「グレイだが…… 紋章はどうなった?」
《ふむ、色々考えたのじゃがな。どう考えても儂ら全員を描くのは無理となってな。》
七体の魔獣・動物を、最小だとコインサイズ以下に落とし込むのは難儀なんだろうなぁ。
《と、言うわけでな、》
灰色のキューブがバーチャルディスプレイを展開する。皆に見えるように展開したのだろうが、驚きと…… 笑いが広がる。
「すごいすごい! すごくハカセっぽい!」
「まさしくジェルさんなの!」
盛り上がる周囲に比べて、ジェルはどこか、じゃなくて分かりやすく不機嫌そうな顔をする。
「さてグレイ、申し開きはあるか?」
《いや、申し開きも何も、博士のことを分かりやすく図案化したものじゃぞ。》
「……いや、その点は認めるが。」
グレイが提示したのは「白衣と眼鏡」をデザイン化したものだ。全体に白衣があって、真ん中に眼鏡がある。
「ん? グレイよ、白衣の後ろに何か見えるがこれは何だ?」
と、それに気づいたジェニーさんがバーチャルディスプレイを指さす。白衣の陰に隠れて、何かがチラリと見えている。
《領主殿、良く気づかれましたな。それは我らの世界の武器である『銃』と博士のスタンブレードじゃよ。》
今のやり取りに何かに気づいたのか、ジェルが表情を戻す。
《眼鏡はそれすなわち『目』、白衣は博士にとっては『守り』の象徴。》
グレイの語り口調が店内に静かに響く。
《そして白衣の裏に隠された『武器』は…… 必要とあらば力を振るうことを辞さない『覚悟』ですな。》
パチパチパチ……
小さな拍手が聞こえてきた。その主はジェニーさんだ。
「素晴らしい。そしてこの見慣れぬ紋で侮らせる効果もあるな。
ギル坊と違って、ジェラード君は本来は目は悪くないのだろ?」
「そうですね。」
わざわざ自分から言うことではないが、ジェルの眼鏡はデータグラスなだけで視力の補正はしていない。あたしたちの世界じゃあ眼鏡をかけていたらそれだけで弱そうに見えるし、目の雰囲気も誤魔化せるわけで。
……いやね、間近で見上げたり横から見ることが何故か多いんで、眼鏡を通さない真面目になったときの目を見るのよね。その目はまぁ、なんだ。あんまり他の女の子には見せたくない……かな? 自分でも何言ってるか分からないんだけどさ。
「筋は通るし、小さくしても分かりやすいのは…… その、悪くないですな。」
釈然としない顔をしながらも、中身には一定の理解を示すジェル。
「私の知っている範囲では、類似の紋章は存じませんね。」
王女様であるサフィも問題ないとの判断だ。そしてそこで首を傾げているルビィはもう少し勉強をした方がいいと思う。
とりあえず場の雰囲気は「これでいいんじゃね?」って感じになってるし、ここに今いないリーナちゃんたちがいたところで流れは変わらない。リーナちゃんはジェルが決めたら全然オッケーだし、ヒューイとカイルはジェルだけのことだから我関せず、だろう。
「……この方向性で必要なものを適当に製作してください。」
《了解じゃ。》
そう答えると、灰色のキューブが壁に戻っていった。
「さて、ジェラード君の中では大体今回の件はまとまっているのだろ? 誰を連れてどうやって行く予定かね?」
大体落ち着いたところでジェニーさんがそんなことを言い出す。何故か店内に緊張が走った。
今いるのは、最初から行く予定の王女ズ。そして「雄牛の角亭」三人娘。そして城の隠密メイドコンビだ。
まぁジェニーさんやサクさんもいるが、ジェニーさんはそもそも行けないからジェルに託したわけだし、サクさんはどうなんだろ?
「サクさんも行かれます?」
ジェルが身体を捻って窓際を振り返る。
「拙者か……?」
不意に声をかけられて、サクさんがふむ、と小さく呟く。
「お言葉に甘えても良いのなら、拙者も連れてってもらえぬかな? あそこの海竜とまた酒を酌み交わしたい。」
お、まず一人決定。……サクさんも来たところでまた大事にならないといいなぁ。ならないよね?
「あとは……」
少し考えるそぶりを見せるジェルだが、すでに決まっているんだろう。タイミングを見計らっているってとこか?
「ミスキスと…… ハルカさんお願いできますか?」
「「「えぇ~~~っ!!」」」
ジェルの色々想定外の言葉に、あちこちから色んな種類の悲鳴が上がった。
「あ、あ、あ、あたしですか?!」
まったくの想定外だったのか、隠密メイドのハルカが声が上ずり、ミリアは羨ましそうに口元に指をあてている。ミスキスもどこか驚いた顔をしている(と思う)が、それよりもリリーに対して申し訳なさそうに見えなくもない。
「……ところでラシェルは?」
「行く……」
喧噪の中、少し声を抑えたジェルが聞いてくるが、まぁあたしはいつもの通りだ。
……それこそジェルに置いてかれると、ホントにすることないニートになってしまうわけで。いや、切実なのよ、コレ。
MISSION:頑張ってダラダラしよう
......MISSION INTERRUPTION
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