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あらすじ:
領主のジェニファーが王都から帰ってきて、ジェラードと話す
「ギル坊からこれを渡されたよ。
……すまないな。私の仕事を押し付ける形になったな。」
「そう言われてみれば。」
王都にパンサー2(SUVタイプ)で行っていた我らが領主さまのジェニーさんが帰ってきた。王都で色々仕事を頼まれたらしいのだが、そう説明するジェニーさんはどこか苦々しい表情を浮かべていた。
ジェニーさんも言葉を選んでいたのだが、諦めたように首を振る。
「どうやら私をこの町から引き離して、その間にここをどうにかしたい輩がいるようでね。」
このハンブロンの町は色んな意味で「金の卵を産むガチョウ」である。ただ、そのガチョウは目の前のジェニーさん以外では容易く死なせてしまうのだろう。でもそんなことを理解できるなら、この町を奪おうと考える阿呆はいないはずだ。
「なるほど、そういう考えもありましたか。」
「ああ、すまないと思うが、この町を守るため、と言いたいのだが、本音は君たちにこの世界を嫌ってほしくない、ってところだ。」
「…………」
ジェルが難しい顔をする。
「変な言い方をするが、どうしようもない事態になったら、好き放題振舞った上で君たちの世界に帰ってくれ。誰か連れていきたいならそれは構わない。……まぁ、私は生きていたとしても責任を取ってこの世界に残るよ。」
いやいやいや。
何重い話になっちゃってるのよ。
「お茶です…… どうしたんですか?」
会話が聞こえてなかったんだろうアイラが雰囲気を訝しんで恐る恐るハーブティを並べていく。ジェニーさんも空気の重さに気づいてか、明るい笑みを浮かべる。
「いやね、またジェラード君に貸しができてしまったから、どうやって返せばいいか、って思って…… そうか。その手があるな。
『もうこの身を捧げるしか……』」
「ギャー!」
悲鳴を上げたアイラが厨房に逃げる姿を三人して目で追う。姿が見えなくなったところで正面に向き直った。どーでもいい話だが、ジェニーさんの声真似が上手くてちょっとびっくりした。この世界じゃあ「芸能人」みたいな人種はいないだろうから物真似芸も存在しないんだろうけど。
「さて、変な流れになってしまったな。
話を戻すと、私の代わりにサフィメラ姫とルビリア姫を連れてワワララトに向かってほしい。そして私の代わりに条約を結んで欲しい、ってわけだ。」
「……いいんですか? 私、メッチャ部外者だと思うんですが。」
ペラペラと斜め読みで資料をペラペラめくる。あれで内容が頭に入るんだから器用なもんで。
「子爵の肩書があれば、国同士の条約を結ぶのに十分だ。王女二人もいるしな。」
「あと、自慢じゃないですけど、交渉事苦手ですよ。」
「それも分かってる。君が本気で『交渉』するような相手ではない。基本、事後報告みたいなものだからな。
適当に視察して、適当にお話しして、適当にサインしてくれればそれでいい。」
いいんかそれ。
「いいのだよ、ラシェル嬢。」
あたしの表情を読んだのか、ジェニーさんがウンウンと頷く。
「ギル坊にも聞いたと思うが、誰かさんのおかげで、工期も予算も大幅に減ったのでね。話が早まったのだよ。書簡も姫巫女様を通して数日程度で届くからな。」
あー 戦闘ヘリのブラックホーネットが「海産物を買い付けに行く」という名目で週に二回はハンブロンとワワララトの間を飛んでいる。
我らが領主さまのジェニーさんはそこに書簡を載せて、ホーネットが間違いなく会う姫巫女様――巫女なので当然女の子――に渡るようになっている。お飾りの名誉職みたいなものだが、それを中央に届けるくらいの伝手はあるようで。
で、そのホーネットに何か頼めるのは姫巫女様だけなので、必ず彼女を通さなきゃいけないので、影響力というか重要度が上がっているらしい。それを抜きにしても国を非公式も含めて二度ほど救っているわけで。
「後は書簡越しではなく、直接会って、ということだな。
さて、ジェラード君、人選はどうする?」
「ふぅむ……」
「ちなみに公式の場だから、ちゃんと礼装にしてくれよ。そういえば紋章はできたのかな?」
「あ~ やること意外とありますな。……いつ行けばいいんで?」
「一週間後くらいまでに行ければいいかな。さすがに準備もあるだろ?」
「公式の、ってことならドレスじゃない方がいいのか? となると……」
と、ジェルがチラリとあたしの方を見る。
そして、ふんふんふん、と色々考えをまとめているようだ。
「あ、パンサー2はしばらくこちらで使わせてもらうと助かるかな?」
ジェニーさんのリクエストにジェルの視線が一瞬に向いたが、諦めたように指折り数え始める。……よっぽどパンサー2が気に入ったようで。
となると、ピックアップトラックのパンサー1か、大型トレーラーのグレイエレファントのどちらかで行くってことかな?
少なくともジェルと姫様ズで三人、おそらくあたしも行くとしてまず四人。あと何人連れて行くのかな? そうなるとパンサー1では少々キツいか?
「いっそのこと……」
ジェルの口調が不穏なものに変わって、あたしは戦々恐々とするしかなかったー ってことで。
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