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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
チーム・グリフォンのいない世界の話
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とある王都の商人の話

あらすじ:

 王都にいる狐の獣人の商人カエデが、旅支度を始めた

「なぁ、狸婆さん。」

「なんじゃい、狐娘、」


 とある王都のとある屋敷。

 この屋敷の主である狸の獣人であるグラディン。元は王都でも有名な商会の元締めだったが、今は引退して個人で商人あきんどをやっているていだ。今は自分ではさほど動かず、投機や投資の形で資産を運用していることが多い。一応、訳があって、スポンサーというわけではないが「これを適当に増やしてください」という無茶ぶりをされたのだ。とある事情で返しきれない恩はあるし、恩を売りたい下心はある。その上「失敗しても、持ち逃げしても構いませんよ」くらいの丸投げっぷりに商人としてのプライドが刺激された。

 で、話を戻すと、この「狸婆さん」と呼ばれたのがグラディンなのだが、その姿はとても「婆さん」と呼ばれるようではなく、どこからどう見ても妙齢の美女である。本人曰く、狸の獣人の特殊な能力ということで見かけを変えることができるということで、少し前までは本当に老人の姿であった。


わしはこれでも忙しいんじゃ。」

「そうかぁ? ウチにはどう見ても暇を持て余しているように見えるんけどな。」


 狐娘と呼ばれた狐の獣人のカエデが独特のイントネーションで指摘すると、グラディンは不機嫌そうに顔を背け舌打ちをするポーズをとって、顔を戻したときにカエデの服装に気づいた。


「ん? ちょい待て狐娘、どこかに出かけるのか?」


 この世界に置ける旅装束にしてはやや薄手で、他の人に比べるとボリュームが違う一部がなかなかに目立つ。その上から革のコートを羽織っているが、それ越しでもやっぱり目立つわけだが。春が近くなったとはいえ、町の外に出て野宿するにはやや不足に見える。

 が、彼女には異世界のテクノロジーで作られた馬車と、ヒトの言葉を理解する(と思われる)上に、普通よりも一回り大きい黒馬がいて、普通の人よりも安全かつ快適に旅を送れるという贅沢な待遇だったりする。


「まぁ、ちょっとその、な……?」


 何かを誤魔化そうとしているんだろうけど、根が素直なせいかバレバレである。グラディンはそんなカエデをどこか微笑ましく思いつつも、顔だけは意地悪そうな笑みを浮かべる。


「そういやぁ、王都からの街道は北を除いて結構ボロボロになっておったの。ということは狐娘は北に行くんじゃな?」


 ギクッ、と絵に書いたような狼狽ろうばいの仕方をするカエデ。内心で腹芸をもっと鍛えんとな、と思いつつも、グラディンが言葉を続ける。

 ちなみに北以外の街道は少し前に現れた「邪神」が大量を魔獣を呼び寄せて王都を襲わせたのだが、門の外で撃退されたので被害は未然に防がれた。ただまぁ、魔獣を撃退するために、とある異世界人たちや元の世界でもハイパーテクノロジーな戦闘機が大暴れしたので、街道は結構なボロボロになっていて、目下補修中である。

 ちなみに王都の北にはハンブロンの町があり、この町でも魔獣の襲来があって、町に入る前に撃退したのだが、同じようにオーバーテクノロジーな装甲車が大暴れして街道がボロボロになっていた。でもこちらは同じ装甲車が寝る間も惜しんで補修したので、元よりも立派に強固になったのはまだ知られていない。


「そういやぁ『婿殿』たちが帰ってくるタイミングになるな。これから出るとしたら。」

「な、なんのことや?」


 だから腹芸をじゃな、と内心ため息をつく。


「まぁよい。それなら少し待て。

 ……儂も行きたいのでの。」

「はぁ?」


 カエデが驚いている間にも、使用人に色々指示を飛ばしたあとに着替えてきたグラディン。まだ呆けているカエデの肩をポンと叩く。


「行くぞ、狐娘。」

「……しゃーないなぁ、狸婆さんは。」

「何を言うか! というか、そういやぁ儂は新しくなった馬車、まだ乗っておらんかったわ。随分と自慢しておったから、楽しみにするかのぉ。」


 わいわいと二人で話しながら屋敷を出て裏に回る。馬車置き場にはこの世界ではどこか斬新な、機能美にあふれた馬車があり、隣の馬屋ではカエデが来たことで黒馬が嬉しそうにいななく。


「ナイトアロー、ハンブロン行くから、用意してぇな。」


 カエデが声をかけると、返事するようにいななき、自分から馬屋を出ると、馬車の前に後ろ向きになって近づく。

 馬車の中から箱型の機械(キューブ)が二体現れると、黒馬ナイトアローに馬具を取り付け、そのまま馬車へと接続する。


「……便利でよいな。」

「ホンマ、ナイトアローとこの馬車はもう手放せんわ。」


 普通の馬よりも一回りくらい大きいので、だいぶ高い位置にある首をどうにか撫でると、黒馬が嬉しそうに鼻を鳴らす。


「ナイトアローは賢いからな。キューブたちの指示も分かるし、ウチが何もせんでも勝手に進んでくれるわ。」


 その声にどこか寂しげな響きを感じて、グラディンは一瞬黙るが、さも聞いていない風を装う。


「ならみんな婿殿のおかげじゃな!」

「そうやな。ジェラードはんのおかげや。」

「……けど婿殿の周りは器量良しが揃っておるからのぉ。儂も負けてはおられん。」


 グラディンの言葉にカエデが思わず振り返る。


「なんや! 狸婆さん()ジェラードはん狙っとるんかいな!」


 本人は気づいていない失言は彼女のためにスルーすると、持ち主よりも先に馬車に乗り込む。


「ほら行くぞ。その前に少し仕入れしていくか。さすがに商人が手ぶらはいかんからのぉ。」

「待て待て。ウチを置いていくな!」


 さっき見せた湿っぽさはいつの間にかにどこかへ行ってしまったカエデも慌てて馬車に飛び乗る。

 ほな行くで、の言葉で、馬車はゆっくりと進み始めた。

お読みいただきありがとうございます

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