色んな評判を聞こう
あらすじ:
サウナ&風呂あがり。夕飯までの時間を過ごしていると、いろんな話が聞こえてくる
「おおむね好評のようで何より。」
「はい、人生であんなに汗かいたの初めてかもしれません。」
「はい、私もです。」
アイラとサフィに左右を囲まれて、どこか困ったように見えるジェル。
初めてのサウナ体験ですっかりリフレッシュしたお二方。ちなみにリリー・ルビィ・ミスキスの三人ははしゃぎ過ぎ、というか入り過ぎたのですっかりグッタリしている。まぁ、あっちはリーナちゃんが見ているから大丈夫だろう。
「汗をかくのは新陳代謝――いや、なんて言えばいいですかねぇ。体内の『濁り』を外に排出するのを促すので、程度さえ弁まえれば良いことです。」
「入れば入るほど良いってわけじゃないんですね。」
「そうです。汗をかきすぎて体内の水分量が減り過ぎると命に関わります。それに高温と低温を繰り返すのは負担が大きいので、疲労時や……」
ジェルがチラリと視線を横に向ける。
「飲酒時は控えてください。本気で。」
「ああ、分かってるよ。だから夕飯前にでもお邪魔して、体験してくるさ。」
視線を向けられたジェニーさんが小さく肩を竦める。
「それなら結構。個人差もありますので程々に。具合が悪くなったら私かリーナにすぐ言ってください。」
「分かっているとも。領主たるもの自らの健康維持も仕事というか義務の一つだからな。」
「その割にはワインの量が……」
我らがオカンのアイラが飲み過ぎに釘を刺すが、我らが領主さまはカラカラと笑うだけだった。
「アイラ嬢、心配無用だよ。すでにジェラード君に診てもらっているし、我が家系は皆酒豪の血でな。私なんか全然少ないくらいだよ。」
「…………」
アイラのジト目がジェルに向いて、ジェルの口元が理不尽に抗議するように小さく歪む。
「血液検査をしたのですが、肝臓には全く問題がなく、更に言うとアルコールに対する耐性及び処理能力が普通じゃありませんでした。魔法レベルですね。」
「そう、ですか……」
どこか当てが外れたのか、ジェルの隣でガックリと肩を落とすアイラ。
「とは言うが、実は飲む量が減ったのだよ。ここの料理が美味しいので、ワインと料理を合わせる楽しさを知ったよ。
いや、うちの料理人の腕は悪くない。が、リーナ嬢の知識と腕、それを引き継いだアイラ嬢の料理は格別でな。」
「ありがとうございます。」
「い、いえ、そこまで言われるほどでは……」
厨房から顔を出したリーナちゃんは笑顔で、アイラは照れながらも礼を言う。
「アイラ様のお料理、私が王位をとりましたら、是非とも厨房にお越し願いたいですわ。」
サフィのロイヤルジョークにアイラが顔を引きつらせる。意外とこの子、強かというかたまーに際どいことを言うんだよね。
「おっと、サフィメラ王女、アイラ嬢とリーナ嬢がここを離れる時があったとしたら、まずは私のところで確保するよ。」
「あら、それなら私はジェラード様とラシェル姉様をいただきますわ。」
「その手があったか!」
してやられた、とペシンと額を叩くジェニーさん。
「君たち、」
さすがにジェルも呆れたように口を挟む。ちなみに、いつの間にかに復活したリリーとルビィが「離さないのー」とばかりにジェルの両腕にぶら下がっているのでなおさらだろう。
「いやいや、人気者は辛いな。」
「そーだそーだ、羨ましいぜ。」
大した意味も無いのだろうが、ここまで名前が挙がらなかったヒューイとカイルが気の抜けた声ではやし立てる。
ちなみにこの二人、普段は森の見回りとか「狩り」をしているのだが、騎士団と都市騎士が常駐するようになってからはそっちの訓練の教官と、それこそ肉の消費量が増えたので、三日に一回は訓練を兼ねて大規模な「狩り」に行ってる。
大型冷凍庫が「雄牛の角亭」にしか無いので、肉の在庫の変動が激しくなってアイラがため息をついていたっけ。
そういやぁ、少し前に懸念されていた隣の騎士団の宿舎の食事問題だけど、やっぱり地下のダンジョンコアの人のところ?のメイドさんが調理を担当することになってアイラとリーナちゃんの負担は大幅に減った、というか「雄牛の角亭」だけに戻ったというべきか。
ちなみにコアさんのところのメイド、って魔法生物?らしく頭が白くて丸い球体なのだが、そこさえ気にしなければ所作も綺麗だし仕事も丁寧なんだよねぇ、と思ってたら聞いた話だと意外と簡単に受け入れられたらしいので、こーゆー言い方は何だがちょっと残念だった。ちっ。
なんでも表情も何もないわけだが、何となく愛想があって、たまに動作も可愛らしく見えて評判だかとか。今は五人?ほど常駐しているが、時折こっちに来てはアイラやリーナちゃんに料理を習っているとか。
喋ってるの見たこと無いけど、と思ったら魔法的な電子メモを持って筆談しているらしい。聞く方は大丈夫らしいので特に問題はないとか。
そう考えると、ジェルはともかくあたしはあんまり周りに馴染んでないのかなー?
「ラシェ姉ぇ、どうしたの?」
「どうしたのラシェル。」
ジェルの向かいに座っていたんで、その腕にしがみ付いていた二人があたしの表情に気づいた、んだろうなぁ。
「ううん、なんでもー」
と、ふとジェルを見たら、他の人には分かりづらいが、ちょっと表情を変えていた。デリカシーが無いくせに、こーゆーときは鋭いんだよね。何か言うべきかと思ったんだろうけど、ちょっとタイミングが違うなって感じの顔だ。
……まぁ、なるようになるだろう、と思うしかないわな。
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