これからのことを考えよう
あらすじ:
(アイラにとって)念願の「雄牛の角亭」のオーナーになったジェラード。今後の抱負を述べる
「さて、オーナーとしてまず何をするのかね?」
この「雄牛の角亭」のオーナーになることを決めたジェルだが、ジェニーさんに言われるまで何をするかまでは考えてなかった。
「基本、いるだけオーナーなので、やるのはアイラにお任せします。あとは…… 一応経理状況も見た方がいいんですかね。あと、ちゃんと店員には給料も出さないと……」
「「給料?」」
リリーとミスキスが同時に首を傾げる。二人とも「雄牛の角亭」の住み込み店員で、時折「お小遣い」程度に店長のアイラからもらっているらしいのだが、全然使い道がない。
そもそもリリーには不労所得があったり、ミスキスと王都で「活躍」した分の報酬などがあってお金に困っていないし、そもそもお金を使うことがない。
食べるものはここで食べるのが一番だし、服とかアクセサリーに使う子たちでもないし、服とかはジェルがたまに大量買いしているし、それこそジェルが一緒ならだいたい全部出してくれるし、と。
うん、そういえばあたしが一番働いていないし、一番ジェルに依存していると思う。
「……ところでアイラは自分のお金を持っていたんですか?」
「えっと…… 持ってます、よ。」
急にジェルに振られてアイラが不自然に目を逸らす。そういうタイプか。
「いや、その、ですね。
……すみません、嘘つきました。」
周りの視線を浴びて、アイラの声が小さくすぼむ。ジェルが小さくため息をついた。
「私がオーナーになったら、働いた分はちゃんと貰っていただかないと。」
「で、でも、食べるものにも困ってないですし、服とかも前にたくさんいただいて…… これ以上はバチが当たります。」
本気で困った顔をするアイラにジェルが小さく鼻で笑う。
「いいんですよ、私は罰当たりな存在なんで。」
謎理論で煙に巻くと、詳しいことは後で、ということでこの話は終わりだと思う。
「さて、話を元に戻そうか。」
いつの間にかにワインがなみなみと注がれていて、アイラが驚いた顔をしていたが、気にした様子もないジェニーさんが話題を変える、いや戻すか。
「さて、こういうことを聞くのも野暮だとは思うが、これからの予定はあるのかい?」
「前もそんなやり取りありましたね。じゃあボケるのは抜きにして……」
ふぅむ、と一瞬間をとって、口を開く。
「ダラダラしたいですね。」
「平和で良いことだ。」
「で、せっかくなのでエンジニア……物作りの血がちょっと騒いだので、ダラダラついでに研究を少し。」
とジェルが言ったところでジェニーさんの顔、というか目がこっち向いた。なんでよ。
「ギル坊を呼んだ方がよいだろうか……」
いやいやいやいや。
「なんか破壊兵器を作るような前提なのは何故なのでしょうねぇ。」
「ジェルだからでしょ。」
「理不尽極まりないですな。」
と、なんかいつもの(というのもなんだが)やり取りをすると、そこまで不穏な物じゃないという認識が広まったのか、ジェニーさんの顔も穏やかになる。
空気が変わったのを感じて、ジェルが大きくため息をつく。
「私はどういう風に見られているんですかね?」
ジェルのぼやきに周囲の女の子(ヒューイとカイル、ついでに黒猫は我関せずって顔している)の視線が複雑に絡み合って、何とも微妙な表情を浮かべている。なかなか言葉にするとよろしくないらしい。
「ジェラード様はどんなものを作られても、世界の安寧を願ってますわ。」
銀髪のお姫様のサフィが微笑みながらそう言うと、三人娘とサフィの妹ルビィが「その手があったか!」とショックを受けていた。点数稼ぎだったのか?! サフィ、なんて恐ろしい子……
「ありがとうございます。……まぁ、言うほど立派なつもりもありませんがね。」
まぁ、こいつは自分さえのんびりできればいいし、それが叶えられるなら世界は平和なんだけどね。
「それに飽くまでも趣味の領域ですが、魔道具をちょっと作ってみようかなぁ、と。」
魔道具…… それこそ魔法の道具って事よね。実物はあんまり見たことないけど、ジェルのことだから電気を使わなくてもいい電化製品みたいな感じかな?
と思ったら、ジェニーさんとサフィが顔を強張らせた。……ってことは他のみんなが知らない危険性があるような発言だったんだろうか。
「なんでしょう。どうやら変なことを言ったのですかね?」
「い、いや、魔道具ってそんなに簡単に作れるものじゃないからな。」
「は、はい。今あるものも過去の遺物がほとんどですし。」
ジェニーさんとサフィがそう言うので、実は相当難しいものらしい。ただジェルもそこまで当てがないことを言うはずもない。
「前にブロン王子にアイデアを貰いまして、後は私の知ってる技術の応用ですね。」
「ふぅむ、具体的には?」
少しは聞ける話と判断したのか、ジェニーさんがさっきよりも身を乗り出す。
「例えば、ここで使っていますドライヤー。あれも簡単に言えば、熱と風を発生させています。後はその調整ですね。」
「つまり…… 火や風の魔法を出して組み合わせれば、ということか。」
考えるように宙に視線を彷徨わせると、指を二本三本と折るジェニーさん。
「浅学だがそれが出来たら随分な技術革新になるな。おそらく君のことだ。この世界でも再現できるレベルに落とし込みたいのだろ?」
「そうですね。良いことか悪いことかはギルさんあたりに要相談ですが、」
と、ちょっと言葉を切ったジェルが、びみょーに悪い顔をする。
「思いついたら作りたくなるのが人の性というものでして。」
「君のことだから何かしら達成しそうだが…… 急に不安になってきたよ。」
「まぁ、そこは単なる興味本位なので、出来たらラッキーくらいにしておきます。」
と言いつつ、出来ちゃうのがジェルなのよねぇ。
「ラシェル嬢、」
ここで領主さまの目があたしを強く見据える。
「何かあったときは頼むよ。」
……変に頼らないでください。いや、マジで切実に。
お読みいただきありがとうございます
※多分前書きは嘘だな