念願のオーナーになろう
あらすじ:
王都から帰ってきたジェラードとラシェル。あちこちのあいさつ回りも終わって、のんびりしたいところで……
王都を出たのが昼ちょい前で、それから四半日。いつもの夕飯の時間には遅れたけど、事前に連絡していたので、ちゃんと用意されてあった。他の人たちはまったりしている中、食事をとるのは微妙だったが、まぁ仕方がない。あたしたちが隅の方で食べているのを見て、リリーとルビィが物欲しそうな顔をしていたので、リーナちゃんが二人につまめるものを用意したのは微笑ましい光景だ。が、リリーと違ってルビィは普通の女の子なんだら食べ過ぎには注意してほしい。……まぁ、リーナちゃんが見ててくれるか。
ワンプレートの夕食を終えたところで、さりげなくアイラがハーブティを置いていく。ホント働き者だなぁ。
あたしたちもまったりモードになりかけたところで、遠くの(そしていつもの)席の領主さまにちょいちょいと手招きされた。
おや、私ですか? って素知らぬ顔をしているジェルだが、それは止めとけ。時間が開くともっと面倒になるぞ。
は~ やれやれ、とポーズをすると、ハーブティを持ってテーブルを移動する。ついでにあたしも。
「どうだったかね、王都は?」
「別段、ですかね? こちらと違っていきなり建物が増えるようなところでもないでしょうし。」
「違いない。」
ジャブの応酬からスタート。
「増えたついでに両方の建物の内装はほぼほぼ完成ですな。確認が必要ですが、水回りも整いましたな。」
「ああ、そうだな。領主館も快適になって助かるよ。……よもや私をここに来させないように、ってわけじゃないよな?」
「それは私が決めることではないので。」
ジェルの言い分に領主さまの目が店主のアイラに向いた。全くの流れ弾にハーブティを吹き出しそうになるが、それはこらえて、どこか青い顔で首をブンブン左右に振る。
「……かわいそうだから、オーナーになってあげたらどうだ? 今更肩書の一つや二つ増えたところで君は変わらないだろ?」
「そして次は領主ですか?」
「ああ、代官は任せてくれ。」
ここでジェニーさんはさらりと流すような顔をしているが、ジェルから見えない位置でアイラがすっごい悪い顔をしている。悪寒を感じたのか、ジェルが後ろを振り向いたときはいつもの顔に戻っていたので侮れない。
「ん~ 確かにそれも選択としては悪くないのですよね……」
と、ジェルが意外なことを口にしたので、想定外だったのか三人娘、特にアイラがギョッとした顔をする。
「これでも私、一応お貴族様ですからね。宿屋の住人って訳にもいかないでしょうし。」
一応は定住しているけど、飽くまでも建前上は「宿の客」なんだよね。まさか居住地をシルバーグリフォンにするわけにもいかないし。
「と考えると、いっそのこと、この『雄牛の角亭』を私の所有にした方が外聞上の通りがいいですかねぇ、と。」
「なるほど。
色々聞きたいと思ったが先に解決する事案ができたな。で、具体的にはどう考えているのかい?」
ふぅむ、と考えるふりをするジェル。こういう時はもう言うこと大体決めているんだよね。
「土地はそもそも所有権が私になってしまったので、基本建物と備品、ということでアイラから買い取る形になります。」
「いや~ 元の建物がどれだけ残っているか分かりませんし、ここまで来ると思い入れとかそういうのも飛び越えちゃったので、正直どうでもいいです。」
悲壮感も何もないあっけらかんとした「店主」アイラの言葉にジェルが気まずそうにそっぽを向く。
「なんか…… 申し訳ない。」
「いいんですよー 『オーナー』の意向ですから、雇われ店員は従うしかないのです。」
その場に崩れ落ちて、横座りでよよよ、と泣きまねをするアイラ。リリーとミスキスも真似をしようとしてるが、面倒になるので視線で制しておいた。
「というか、こちらの方がお金を払わないといけないくらいですし。……もう、この身体で支払うし」
言わせねぇよ。
あたしが思う前に随分の量のチョップが降り注いで、そのまま床にアイラが沈んだ。それを見なかった振りをしたジェルがジェニーさんに向き直る。
「……そういう所有権の移動とかはどうなっているんですか?」
「建物に関しては土地に付随するものとして扱うから、土地の所有者――本来は私の扱いだが、王より下賜されたわけだからジェラード君の所有となる、が厳密な話だ。」
この規模の町だと土地は基本領主からの賃貸というわけだ。じゃあ、その上に何を立てても領主の物、となると色々ややこしいので領主の采配によるらしい。さすがに王都くらいになると土地の所有はできるようになるが。
で、ジェルは色々やらかした褒美ってことで、あちこちの土地をもらっている。一応子爵様になった「領地」という扱いだ。……あ、平民で変に土地を持つよりは、って意図もあったのかもしれないな。
「なので、アイラ嬢が許可すれば、ジェラード君の所有だな。というか、まだそうなってなかったのは意外だったな。」
「はい! はい! どうぞ! 今日から! オーナー! お願いします!」
大地に伏していた(床だけど)がムックリ顔を上げると、飛び上がらんばかりに全身で表現する。
「……これでもう逃げられませんよ。」
と周りの気がそれたところで、そんな声が聞こえた気がする。
……気のせいであってくれぃ。
※ ちなみに念願なのはアイラです
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