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異世界行ってもチーム・グリフォン!2  作者: 財油 雷矢
チーム・グリフォンのいない世界の話
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とある王都の自警団の話

あらすじ:

 とある王都には「都市騎士」と呼ばれる自警団がいる。そんな彼らの話


視点:三人称

「さて、我らが隊に与えられた重大な任務と、知らせがある。」


 ここは王都コンラッドの第一層にある都市シティ騎士ナイツと呼ばれる自警団の訓練場。現在警邏(けいら)中、もしくは休暇中かつ予定が外せなかった者以外はほとんど揃っている。

 正式名称が決まっていないのもあるが、一応「自警団」なら団長になるのだが、何故か「隊長」呼びが固まってしまった隊長ことテオが皆の前で声を上げた。これだけ人が揃っていればザワザワと騒がしいものだが、皆が直立不動でテオの言葉を傾聴けいちょうしている。


「まず、ここから北の端にあるハンブロンの町、これが特殊な扱いの地となる。」


 出てきた地名に声には出さないが、動揺の空気が広がる。その町はこの「都市騎士」と因縁深い、というかまさに生誕の地である。

 騎士見習いという名の雑用係で第八騎士団――第二王女付きの騎士団――の団長と副団長と共に、ハンブロンの町で起きた貴族の粛清しゅくせいの件の調査に向かった際に、呼ばれてもいない第三騎士団――単に使えない貴族の更に使えないご子息たちの集まり――が首を突っ込んできて物見遊山気分で同道することに。

 そもそも身分違いな上に「見習い」とされた彼らを腐っても貴族の子息である第三騎士団ボンボンどもがどう扱うかは火を見るよりも明らかであった。

 肩書はともかく、騎士の精神に相応しい彼らは、ボンボンどもの罵詈雑言にも耐え忍んでいたが、一行の中の唯一の女性……第八騎士団副団長のソフィアにまで矛先が向かったときはさすがに耐えられなかった。

 紆余曲折があって、ハンブロンの町での模擬戦で勝負をつけることに。ここで相手が腐っても騎士で、それなりの基礎訓練を受けているのに対して、テオ達は貧困他の理由でまともに武器を握ったこともない者たちばかり。

 勝負になるはずもなかった。

 が、第八騎士団団長の老騎士ハンスに頼まれたチーム・グリフォンのヒューイとカイルが見習い騎士たちを一人前の男に鍛え上げた。

 結果として、卑怯な真似までしてきた第三騎士団を完膚なきまで叩きのめした。その後、この件とは関係なく、魔獣の群れがハンブロンの町に襲い掛かったのもジェラードたちの協力もあって無事撃退できた。

 ただ、どうしようもないボンボンどもとはいえ、正規の騎士団が模擬戦でボロ負けしたり、魔獣の襲来を前に逃げ出したのは醜聞としてもタチが悪く、公にはできないことになった。

 それでも「王都の治安維持」という名目で予算が降りたり、どこかの獣人の元商人や謎の人からの多額の寄付もあり「王都自警団」「都市騎士」としての活動が始まった。最初の鍛えられ方が良かったのか、規律正しくそれでいて人当たりが良く、比較的差別されやすい獣人や孤児院上がりも積極的に登用し、しかも待遇も良いとなると、王都では子供たちのなりたい職業の一つになるほどになった。

 そんな経緯があって、ハンブロンの町は彼らの初期メンバーにとっては聖地であり、チーム・グリフォンは返しきれないほどの恩がある相手なのだ。

 色々集めた情報では、そのチーム・グリフォンは色々やりすぎたために、ほとぼりが冷めるまで姿を消しているそうだが、またハンブロンの町に戻ってくるとのことだ。


「その関係で、ハンブロンの町に王女様が滞在することになる。無論騎士団にも常駐することになるが、町の人と協力して治安を維持するには我々のような存在も必要と推す声があった。」


 テオが説明を続ける。

 幸か不幸か「都市騎士」の経営は順調で、それこそハンブロンに人を派遣しても人員的には問題なく、それこそ長距離移動の訓練や、遠征の訓練としてもってこい、というわけだ。

 そこまで話したところで、隊長のテオがコホンと咳払いをする。


「で、人選だがまずは俺……じゃなくて、自分が行こうと思う。まずは任務の重要度をこの目で確認しないといけないしな。」


 自ら率先して「危険」に赴こうとするリーダーに若い、というかまだ入ったばかりの隊員から感心の声が上がるが、古参の……特に初期メンバーの重鎮からは苦笑いとニヤニヤ笑いの半々くらいの表情が浮かぶ。

 ふと空気が変わった。

 この場を離れたり騒いだりしないが、あからさまに皆が気の抜けた感じで、雑談に興じるような感じに変わる。


「隊長~ そういうことでしたら俺たちも行きたいんですけどね~」


 そうだそうだ、とあちこちから声が上がる。


「何を言うんだ! カイル教官……じゃなくてアニキに、ヒューイ師匠、ジェラード先生がいるんだぞ。今からどのように鍛えてもらえるのか楽しみでしょうがない!」


 隊長の立場を忘れて、熱っぽく語るテオに、横から椅子にだらしなく座っていた、くたびれた感じの中年男が困ったように口元を歪める。


「たいちょーさんよぉ、気持ちは分かるがな、いや分からんが、そんな顔で言ったら、希望者が一気に増えるんじゃないかとおじさんは思うんだが。」


 何をする、というわけではないが、隊の相談役というか、顧問のような「軍曹」と呼ばれる中年男。経験や年の功か、本人のやる気の無さにはお構いなしに隊員からは頼りにされている。


「あ、ちなみに俺は絶対行かないからな。俺はどうしてもあの『白衣の悪魔』とは相性が悪い。」


 後は適当にやってくれ、と堂々とサボり宣言をして「軍曹」はフラフラと訓練場を出て行った。


 初回に行くメンバーの選抜は苛烈を極めた。テオが隊長特権を言い出したところで、あとは練度や経験、所属をできるだけバラけるように決められた。


 二十人で二週間交代。王都からハンブロンの町への移動が片道一週間、ということで、一か月を一区切りとして、都市騎士たちがハンブロンの町へと派遣されることとなった。

 初めて行ったときは、最初の数日で地獄に感じるのに、戻るころには帰りたくない、と言い出す「地獄と天国のバカンス」と呼ばれる都市騎士伝統の行事の、これが始まりであった。

お読みいただきありがとうございます

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