INTERMISSION01 王は疲れている
あらすじ:
コンラッド王プレナムは色々な後始末で忙しいようだ
コンラッド王国国王プレナム。
無論、この国では一番の権力者であるし、王都民のみならず、国民全部の命を背負う責任もある。
少し前に「邪神」を名乗る強大な存在が現れて世界の危機になったのだが、なんやかんやで解決した。
なんやかんや、と随分にあやふやな表現だが、本当にそうとしか言いようがない。異世界から来たと言われる五人と彼らの持っている「戦力」が王都を襲う魔獣の群れを蹴散らし、現れた「邪神」をどこかに連れ去って倒し、最後にはこの世界に落とされた「星」を破壊したのだ。
冗談とは縁がない信頼できる男からの報告でなければ一笑に付すレベルだが、他の経路からの報告も含めて十分に確証のある話であった。
大変に幸運なことに、それだけの国どころか世界すら揺るがすくらいの事件が、コンラッドにおいては王都に繋がる街道の大半が魔獣の襲来とその撃退により地形が変わりかねない程度で荒れてしまったくらいしかなく、人的にも金銭的にも被害が皆無なので実感がわかない。
それでも多くの住人や、兵士騎士たちがその「力」の片鱗を見ている。巨大な金属の鳥が光を放ち魔獣を次々と撃ちぬいていき王都に一匹たりとも近づけさせなかった。二人組が様々な武器で魔獣を打ち倒し、最後は不思議な鎧を身に着けて、巨大なドラゴンを二人だけで倒していた。
そして得てして「国」のような組織は、自分の管理下にない強大な力は忌避する傾向がある。
「ですから王よ。あのような者たちが持っていて良い力ではありません。国で接収すべきです。」
軍関係の貴族の一人がさも国を心配するような声音だが、その奥底にはどこか興奮したような野望じみたような感情が見て取れた。
なるほど、あの力の片鱗でも見れば、手に入れた時のことを妄想してしまうのだろう。国で接収、と言いながら自分の管理下に置きたいに違いない。
王は理解した。第一王子程ではないが真実を見抜く目にはそう見えてくる。
どうしたものか、と王は考える。頭ごなしに否定するのは簡単だが、せっかくだから言わせるだけ言わせてみよう。もしかしたら自分でも気づかない妙案があるのかもしれない。……可能性は限りなく低いとは思うが。
「どのようにだ?」
「は?」
「どのように接収するのだと聞いている。」
「そ、それは王の威光で……」
予想しなかった返しに、貴族の男が戸惑いながらも答えるが、王とその隣に立っていた第二王子が見えないようにため息をつく。お互いでは分かっているので、なおさら深い。
そんなもんでどうにかなるなら、すでにやってるわ、と思いながら言葉を探す。
「そうだな…… そもそも『王の威光』とは何だと思う?」
ぐるりと居並ぶ国の要職を務める貴族たちを見渡すが、誰が答えられるかを探しているような感じで、ざわざわと小さくない声が上がる。
「我が考える『王の威光』とは突き詰めれば暴力だ。従わなければ数や力に物を言わせて束縛したり打ち倒したりするぞ、ということだな。それこそ命令されれば非道なことすらさせることができるのが『威光』だ。」
他の者が言えば不敬だとか国家反逆になりそうだ発言だが、王当人が言うとなると賛同も反対も言い出しづらい。
「不敬を覚悟で言わせてもらいますが、王自信が法を蔑ろにするような発言は慎んでもらいたい!」
自分が言い出したからの責任と思ったのか、それとも王威を削ぐいいチャンスと思ったのか、最初に発言をした貴族の男が表情を引き締めてそう言い放った。
意欲だけは認めないとな、とは思いつつも、そろそろ一度「調査」をした方がいいかな、と次の言葉を探しながら考える。
「その法、というのもな、破れば酷い目に遭わす、という決まりというか予告だな。……まぁ、その辺の議論は別の機会にするか。話を戻すぞ。
で、その『王の威光』に従わなかったらどうするんだ?」
「それは…… 騎士でも派遣して……」
さっきのやり取りがあったからか、返す言葉はどこか弱い。
「前に模擬戦とはいえ、すでに二人に四十人ほどやられてたな。」
「「「…………」」」
「あれだって手加減されての結果だったな。じゃあ、人数を増やせばいいか? その時は向こうから『手加減』が無くなるだけだろうな。」
おそらく力押しをしたところで、勝てる相手ではなかろう。それこそ邪神や星すら滅ぼせる力にどうやって勝つ気なのか。
「王よ、人ならば誰しも弱みがあります。『暗部』を動かして……」
「この世界を滅ぼす気かっ!」
諜報を司っている貴族が口を開いた瞬間、王の怒号が室内に響き渡った。
その声には魔力でも込められていたかのように並みいる貴族たちに衝撃を与えた。唯一回避できたのは、いち早く予測して耳をふさぐことができた第二王子くらいであろう。
「今のは聞かなかったことにする。あの者たちに手を出す気なら、失敗したら世界が滅ぶくらいの覚悟でやってくれ。」
もう疲れたのか、手だけで退出するように命令すると、王の気迫に恐れをなしたのか、逃げるように部屋から人が出ていく。
「……お疲れ様です、父上。」
「ああ、あんなにあいつらが愚かだとは思わなかった。」
調査どころではなく粛清まで考えた方が良いのかもしれない。
「王というのは面倒だな。何にも縛られないあいつらが羨ましい。」
「いや、彼らも彼らで色々大変な……ことはあるんですかね?」
「知るか。
あ~ その『あいつら』が来てるんだったな。ギルに足止めさせているが、急いだほうがいいな。後は任せた。」
「ご武運を。」
息子の声を背中に聞きながら、王はどこか楽しさを期待しながら、城の通路を歩いていくのであった。
お読みいただきありがとうございます
また1日勘違いしてました☆
それよりもいきなり雪が積もりまくってビクーリです。令和ちゃん、もう少しこう何というか 手心というか…