王様とも話をしよう
宮廷魔術師のギルバートのとこで話をしていると、この国の王様が入ってきた
「よくも騙しましたね。……これが裏切り、というものか。」
「騙してもいないし、裏切ってもいないからな。」
演技じみた(でも相変わらずに微表情)のジェルにギルさんがやや疲れたように返す。
「良く来たな、ジェラードにラシェル。って、半月くらい前だからそこまで久しぶりというわけでもないか。」
王様はカラカラと笑うと、椅子にドスンと腰掛けたところで、メイド長のおばさまが新しい紅茶を淹れてくれた。……お、味がワンランク上がっている気がする。
「娘たちは向こうに行ってるし、バカ息子たちにお土産を用意するような奴でもなかろう。
俺だってハナから期待はしていない。
が、土産代わりに教えてもらいたいことがあるんだがいいか?」
「はぁ……?」
微妙に遺憾の意を示すようにギルさんを見るが、諦めろと言わんばかりに首を振られて、肩を竦めながら王様に向き直る。
「分かる範囲でしたら。」
「お前に分からないことがあるのか?」
「なさそうだな。」
「ん~ あたしも見たことない。」
三人で突っ込んだら、均等に――いや、あたしは多めかな?――ジト目で見られた。
「それくらい、お前の知識を皆信頼しているということだ。
それでその知識を我が民に振るってほしい。」
声音の真剣さに、ジェルも面倒くさそうな顔はそのままだが、それでも姿勢を正したので聞く気はあるようだ。
「……それでギル。この王都に真っ先に必要なものは何だ?」
と、真っ先にギルさんに視線を向ける王様に、ジェルとギルさんの視線が一瞬交差して、同時に小さくため息をつく。
「お前ら不敬だぞ。特にギル、お前は一応は雇われている身だろ。そんな態度なら貴族にするぞ!」
「どさくさ紛れに俺まで貴族にしないでください。」
そこでギルさんがチラリとジェルを見て、小さく口元に笑みを浮かべる。
「そういうのはジェラードだけで十分です。」
「よし、この世界を滅ぼそう。」
いきなり大魔王になったジェルに、あたしは無言で聖なるチョップを振り下ろした。
「まずは『衛生』ですね。
病気にならない。なっても悪化しない環境を築くことですね。『ゴミ処理』もしくは『下水』ですかね。」
「なるほど、確かに外周部に行くほど、その辺が適当になっているのは否めないな。」
「王都の地下には地下迷宮が広がっているので、これを利用しましょう。」
「何? ダンジョンってあのダンジョン……だよな。」
「ちなみに行ったことがあるんですか?」
「無論、成人に儀式で城の地下には行っているし、若いころには……いや、行ってないぞ。」
王様はややドヤ顔で言おうとしたところで、ギルさんに睨まれて慌てて誤魔化す。そういやぁ、この王様も若いころはやんちゃだったそうで。第一王子を見ているとよく分かる。
ダンジョンってぇのはそれこそゲームみたいにモンスターがウロチョロしていて、危険と引き換えに財宝とか名誉が得られるところだ。で、そのダンジョンはこの王都コンラッドの地下にもあるのだが、モンスターは特に出ず、時代と共に少しずつ広がり、その強固な迷宮の上に王都が建っているという。
で、王族は成年(十五歳)を迎えた時に、城の地下迷宮で「試練」を受ける風習があるそうで(ちなみにあたしたちもちょっと絡んだ)、その試練の時はそれなりにモンスターが出るそうだが。
これはダンジョンの核である魔法的存在の「性格」で決まるらしく、王都のダンジョンコアの人は温厚というか、知的好奇心に溢れる変わり者らしく、特に人に危害を加えないし、話もできるわけで。
「ダンジョンにはある程度の物質操作や分解能力があるので、ゴミ処理に使えるかな、と思いまして。というか、コンラッドでも実験しようかと思いまして。」
「……ん? 待てよ。」
ジェルの言葉に違和感を持ったのか、王様がギルの方を見ながら首を傾げる。
「お前の言い分だと、ハンブロンにもダンジョンがあるように聞こえるな。」
「ありますからね。」
ジェルが素っ気なく返すと、王様が硬直した。そこでギルさんがあっ、と言いたげな顔をする。おっと、これはヤバい流れか?
「聞いてないぞ!」
「そうですか?」
「そうですね、伝えておりませんでした。」
声を荒げる王様に、ジェルもギルさんも涼しい顔だ。言葉に詰まって、次の言葉を選んでいるが少しすると疲れたように溜息をつく。
「お前ら二人がそうなら問題はないんだろうな。
……まぁ、その辺についても、ある程度固まったら説明してくれ。あとギル、ジェラードがらみの案件、再度確認してくれ。」
「畏まりました。」
忙しいのか、心労なのか、ややお疲れな感じで王様が出ていく。……大変だねぇ。
「まぁいい。今の件、もう少し詰めてもらってもいいか?」
「分かりました。」
雑談も交えながら、ギルさんと一時間ほど打ち合わせると、それ以上の面倒が来る前に王城を辞することにした。
……あれ? そういやぁ、グラディンさん、まだ王都に戻ってきてないよね? というか途中で追い越してるよね?
となると、今晩の泊まる場所は……どうすんの?
お読みいただきありがとうございました
え~と、昨日、書き上げるのをすっかり忘れていました☆
なんかメッチャ疲れて、それでも途中まで書いて続きを、というのは憶えていたはずなのですが……
いやはや、時の流れというのは恐ろしい(言い訳言い訳)




