宮廷魔術師に会おう
あらすじ:
王都に到着したジェラードとラシェル。そこに迎えに来ていたのは宮廷魔術師のギルバートだった
「お前がそういう奴なのは分かっているから、周りの奴が気を利かせるようになるんだな。」
「失礼な。」
「失礼も何も事実だろうが。」
王城のいつもになりつつある部屋で、宮廷魔術師のギルさんとテーブルを囲んでいるあたしとジェル。
この世界では珍しい眼鏡をかけた美丈夫はため息をつきながらも、どこか楽しげに見えるのは気のせいだろうか。
それはさておき。なんでこのギルさんが苦言を呈しているかといえば、あたしたちが乗ってきたパンサー2にある。王都に実際に行ったことあるのはピックアップトラックのパンサー1(旧名:ワイルドパンサー)だけだったのだが、そういやぁ車を変えたんだから予め誰かに言っておかないと混乱の元よね、と今更ながら。
で、そのことに気づいてたのか、気づいていないのか、先にパンサーがギルさんに連絡を入れていたらしい。それで慌てて門の前に魔法で短距離転移してきたらしい。
で、ギルさんの保証とジェルの持っている王家の紋章?で無事王都入りした。興味津々なギルさんを後部座席に乗せて王都の道をゆっくり走る。パンサーの自動運転なので、イライラすることも誤って事故ることも無い。
そんで王城に到着して、今日はいつもの常連メイドの二人はいないので、ギルさん直々に部屋に案内されたわけで。
「しかし、今回の乗り物はまた違ったな。」
「ええ、前のは貨物運搬用で、今回のは人員輸送用ですので。」
「それでもこの世界の乗り物では全く太刀打ちできない性能なわけか。」
「ん~……」
ギルさんの言葉にジェルが考え込むように唸る。
「可能なレベルの技術公開を考えているのか?」
図星を突かれたのか、ジェルが少し驚いたように顔を上げる。
「話が早すぎるのも考えものですな。」
「お前の真似をしただけだ。」
「なるほど。」
言葉の裏でその何十倍の情報が飛び交っているんだろうなぁ。これだから知の達人同士の会話っていったら……
「何を考えている?」
「そうですねぇ…… 何の因果か王都の四方の内、三つの街道が大変なことになったので整備していることでしょうから、ここいらで馬車、というか車輪の技術を少し?」
「具体的には?」
「バネですね。衝撃を吸収する物です。鋼ができるからいけると思いますし、応用が利く技術かと。」
確かにこの世界の馬車には一回乗ったことがあるが、お尻へのダメージがなかなかだった。ジェルがいなかったら割れていたかもしれない。……この世界の人はあんなのに乗って長距離移動するんだよな。
ジェルがバーチャルディスプレイを呼び出して板状のバネとコイル状のバネの立体映像を呼び出す。その中でビヨンビヨンと伸び縮みしている。
「弾性のある金属を加工して、衝撃を吸収します。揺れを完全に打ち消すわけではありませんが、効果はそれなりに。」
「……なるほど。左右の車輪を独立させた方が効果は高いか。」
簡単な説明だけで大まかな技術を読み取ったギルさん。さすがの知恵者だとか。
「細かい図面と説明を作って送りますので、作らせてみてください。後はその人たちの努力でどうにか。」
「……そうだな。それは後は技術を持つ者の使命だ。」
じゃあ、この話はここで終わりで、と雑談モードになったのを察知したのか、後ろで控えていたメイドさんが新しい紅茶を淹れてくれる。
三人して紅茶を口にしたところで、ギルさんがコホンと小さく咳払いをする。
「ときに…… 王女様たちは無事、なんだろうけど、その、なんだ。」
ギルさんが口ごもる。建前上は領主補佐と言うことでハンブロンの町にいるはずなのだが、まぁ有能すぎて王都からなかなか離れられないようで。転送陣ってものが王城とハンブロンの町の「雄牛の角亭」にあって、魔力さえあれば瞬時に移動できるのだが、それでも来る暇がないようで。
それでもジェルから板状端末を受け取って、情報をまとめて送ってもらってるんで大まかな状況は受け取っているらしいが、細かいことはさすがに、と。
「よく食べ、よく笑い、よく寝ています。王女としては分かりませんが、年頃の女の子としては実に健康的かと。」
「……それならいい、か?」
どこか不安げだけど、仕方がなさそうに納得したような顔をするギルさん。
また紅茶が入って沈黙が落ちる。
どうでもいいけど、あたしいる?
あ、でもこの場にあたしいなかったら、ジェルとギルさんで二人きりか。……それはそれでなんつーか、ダメな気がする。
「ちなみに、王様に会わないとダメですかね?」
言外に面倒なんですが、って口調のジェルだが、ギルさんはそれに口元を小さく歪める、って…… 笑ってる?
「しまった!
ラシェル、すぐに出ますよ。」
ニヤリ。
「残念だったな。もう遅い。」
ギルさんのレアな顔が見られたときに、ジェルが何か聞きつけたのか立ち上がる途中で動きが止まる。
「ちぃっ!」
分かりやすい舌打ちをして、ジェルが再び椅子に腰を下ろす。そしてあたしにも分かる足音が聞こえてきたかと思うと、部屋のドアがバーンと音を立てて開く。
「ギル! 足止めご苦労!」
そこに現れたのは、一般ピーポーなあたしには基本会えないはずの、この国の一番偉い人――王様であった。
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