王都に向かおう
あらすじ:
異世界に戻ってきて、ハンブロンの町を一回りしたところで、今度は王都コンラッドに向かう
そして翌日。
あ、翌日ってチョーコさんが戦闘ヘリブラックホーネットで王都に飛んで行った次の日、ってことで。
他の人も行きたがっている人はいたが、やることがあったようで、相も変わらずジェルとの二人で王都コンラッドに向かっている。
色々荷物があるんで、SUVのパンサー2でトコトコと。さすがに元の世界でしっかり用意しただけあって、ピックアップトラックのパンサー1には申し訳ないが、乗り心地はずっといい。
〈まぁ、どちらも私ですし、用途が違うので腹も立ちませんね。そもそも立つ腹もありませんが。〉
元の世界でも超高性能AIであるパンサーは冗談も皮肉も言うし、感情的になることもある。母艦のシルバーグリフォンを含めて、七人?のAIがいるが、設定年齢も性格もみんなバラバラである。
ちなみにパンサーはその中でも最新鋭のAIで、ハッキングの能力が高い。高度はハッキングをするためには「自分がもう一人欲しい」状態になるために「複数の自分」に対する耐性みたいなものが高いらしい。
ジェルの受け売りなんだが、人もそうなんだがAIも「自分を見失う」のはヤバいらしい。プログラムだからってコピーしたAI同士を会わせると、自分と同一人物の存在に混乱だけで済めばいいけど、自我が崩壊してしまう場合もあるとかないとか。
〈仕事中は何人もの自分がいますからね。さすがに別機体にいるのは初めてですが、意外とそんなものかと。〉
「まぁ、各マシンで基本情報は共有しているからな。……まぁ秘密を持っている奴もいるんだろうけど、パンサー同士だとどうなんだろうかね。」
〈博士も閲覧できますから、悪口とかは共有しないようにしていますね。〉
「……ほどほどにな。」
どこまで本気か分からないが、大した気にした様子もない口調のジェル。
ん? 共有って言えば……
「そういやぁ、ホーネットの話ってさすがに誰も知らない?」
〈あー…… 航行記録はありますが、現地に行ってどんなやりとりをしているかは不明ですね。通信ユニットにも無駄に高度にジャミングかけてますし。〉
車内のディスプレイに飛行記録らしきものが出るが…… へーへーふーん、なるほどー
二日に一度くらいは王都の更に向こう、海の国のワワララトに行っているらしい。建前上は海産物の仕入らしいが、個人的にはそこまで頻繁に飛ばなくてもいいと思うわけで。
まぁ、ワワララトの姫巫女様――御年十二歳くらいだったかな?――と懇意なのは公然の秘密で、皆ニヨニヨと生暖かく見ているそうで。それだから最初は色々誤魔化していたが、最近は開きなりつつあるそうで、いいんだか悪いんだか。
「あ~ ホーネットといえば、どこかでまたワワララトに行った方がいいんですかね?」
ハンドルから手を離して――自動運転なんでどうでもいいんだが――ジェルがう~んと伸びをする。前にワワララトの水源問題に首を突っ込んだんで進展がそれなりに気になるようだ。
「それならまた時間を作って、みんなで行けばいいじゃない。」
あそこは常夏の国らしいから、いつ行ったっていいだろう。となると……
「水着も新調した方がいいかな? 今度はルビィの分も用意しないと。」
前回行ったときはあの子の姉のサフィだけだったし、サフィも今度はルビィも、って言ってたからなぁ。やっぱり姉妹で色違いでデザインはお揃いの感じにした方がいいかな?
「水着ですか……」
ジェルがふぅ、と贅沢な溜息をつく。
こいつが無自覚にあっちこっちで女の子を助けまくってるから、すっかりあちこちでモテモテになっちゃって。前に大人数でワワララトに行ったときも、女の子たちが積極的に水着を見せに来てて困惑してたっけ。
まぁ、あたしが「女の子が水着を理由も無く見せに来ない」とか「服でも水着でも見せに来たら褒める」とか言い聞かせているからもあるんだが。……いや、ジェルって物知りで言葉知ってるから褒めるの上手なのよ。あたしだって不意打ちされるとドキっとしちゃうわけで。
とりとめのない話をしながら街道を少し外れて移動。速度が違うんで馬車や徒歩の人の邪魔にならないように、ってことで。
途中でアイラのお弁当&休憩を挟んでおおよそ六時間。朝食を食べて出発したから、まぁ午後のおやつに早いくらいでボチボチ王都コンラッドの巨大な壁が見えてくる。
王城を中心に同心円状の壁に囲まれた五重構造の都。実はこの都市の下には地下迷宮があり、それが基盤になってるとかで。
都市の四方、東西南北に街道があり大きな門があるのだが、あたしたちが来ている北側はともかく、他の三方は邪神らしきものが現れた時の魔獣の襲来により、というか、それを撃退した余波でえらいことになっている。
目下復旧作業中らしいのだが…… 原因がチーム・グリフォンなので、正直肩身が狭い。
王様には「これだけで済んだから安いものだし、お前たちばかりに頼るわけにはいかない」とか言われたけどさー。
えーと、まずはマダム・バタフライことチョーコさんのとこ行って、服屋のパレリさんところ、後は王城も行かないとね。
面倒にならないように、ズルい気もするが、貴族様とが使う優先的に入れる門に向かって(パンサー2が)ハンドルを切った。
……あれ? 何か忘れているような気が。
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