次の方針を決めよう
あらすじ:
元の世界ではすでに存在しない人間とチョーコ・ハルカ・ミリアに告げた翌朝。三人がなかなかおきてこないのでやきもきする
視点:ラシェルに戻る
ジェルにより残酷な「事実」が告げられた翌朝。覗き見まではしていなかったが、万が一のことを考えて準備はしていたが使わずに済んだようだ。
ただ朝食の時間にもなかなか降りてこなくて、降りてきたときには分かりやすく寝不足で眼の下にクマが見えそうだった。
……大丈夫なんだろうか。
隣にいたジェルに視線を向けると、小さく首を振るので、ジェルもお手上げというか、やはり自分で乗り越えなきゃならないのだろう。あたしたちにできることは……
「すみません、寝坊してしまいまして。」
「「申し訳ございません。」」
チョーコさんとメイド二人が頭を下げる。慌てて降りてきたのか、服装もどこか整っていない。
「……マダム、失礼します。」
執事のルアンさんがチョーコさんの服や髪を直す。その間にメイド二人もいそいそを身だしなみ――そういやぁ今日はメイド服じゃなくて私服だな――を整える。
「それではテーブルにどうぞ。朝食用意しますね。」
リーナちゃんは平常運転でいつもの笑顔で三人の前に皿を並べていく。
「あ、」
ふと何か思いついたリーナちゃんが厨房に入っていくと、ゴリゴリと聞き覚えのある音が聞こえてくる。お、この香りは。
「苦手でしたらミルクと砂糖をお使いください。博士もどうぞ。」
三人と、ジェルの前にカップが置かれる。
コーヒー党のジェルが我慢できずに元の世界から持ち込んだものだ。こちらの世界でも近いものは見つかって、コーヒーを再現してみたが、あんまり評判じゃなかった。それこそ書類仕事が溜まりに溜まっている領主さまのジェニーさんが眠気覚ましにいいな、って言われたくらいで。
「にが…… でも目が覚めるわね。」
チョーコさんが一口飲んだ後にミルクと砂糖を入れて飲みなおす。ハルカとミリアは最初から入れている。ジェルはブラック派なのでそのままだが。
「あー ハカセ、また黒いの飲んでるー」
「この黒いのが好きなんですよ。勘弁してください。」
リリーが絡んでくるが、ジェルがそれを分かりづらいけど苦笑しながらあしらっている。あの子にしてはじゃれているようなもんだろう。
「黒いのが好き…… ワンチャンありだ。」
自分の褐色の肌と紫がかった黒髪に触れて、ミスキスが無表情ながらも頬を少し赤くしながらクネクネうごめく。
「あら、それなら私も?」
「あたしもですかね?」
どこかイタズラっぽい笑みを浮かべるチョーコさんとハルカ。この二人は日本人だからジェルみたいな黒目黒髪なんだよねー
それをルアンさんが貼りついた笑顔のようだけど、どこか微妙そうな表情で眺めている。誰を見ているのかはわからないけど。
しかし、ミスキスの絡みに二人が乗っかった形なんだろうけど…… なんだろ? 悲壮感も何も感じられないよね。吹っ切れたのか、開き直ったのか、それとも……?
「ジェラード様、」
ミスキスのクネクネが終わったあたりで、チョーコさんが立ち上がると、ジェルに顔を向ける。
「私、王都の仕事があるので、そろそろお暇したいのですが、またヘリに乗せてもらえますか?」
「ええ、どうぞ。裏から本人に行ってください。」
「ありがとうございます。
……王都まで一時間なんて、癖になりますわね。ルアン、まずは準備を。」
「はい、マダム。」
一度二階の客室に上がると、荷物をまとめて降りてくる。荷物はルアンさんが持っているが、チョーコさんが板状端末を後生大事に抱えているのがちょっと気になるが。
チョーコさん、じゃなくてマダム・バタフライの顔で変装用の魔道具を身に着けると髪と目の色が茶色に変わる。蝶のマスクを顔に当て、恭しく一礼をすると、ルアンさんもそれにならって頭を下げる。
「それでは皆様、失礼いたします。」
そして王都のオークショナーのマダム・バタフライは帰って行くのであった。
「それでは私たちも、」
「仕事に戻らさせていただきます。」
いつの間にかに着替えてきたメイド二人もそそくさと――二人ともタブレットを抱えたるのは流行りなんだろうか――「雄牛の角亭」を出て行った。
「ジェラード君、あとは私の領主館くらいかな?」
「ん~ そうですかね?」
朝食が終わっても何故か残っていた領主さまのジェニーさんだが、チョーコさんたちのことが気になってたんだろうか。それとも領主館の進捗?
「単純に水回りと照明関係くらいですからね。こちらみたいに規模も大きくなくてもいいわけですし。」
生活スペースはともかく、それこそ人を招く部分を便利に作りすぎるのも色々問題があるだろうし、ってとこだろうか。
「まぁ、防衛というか監視システムはこちらと同程度には。一応あちこちに脱出口は作りましたが…… そこまで必要ですかね?」
この町の規模で、と言うとジェニーさんが苦笑いを浮かべる。
「まぁ、確かに。隣に君たちや騎士団がいるから心配はないよな。」
そんな風に話していると、店内にはアイラとリーナちゃんくらいしかいなくなる。後は王女ズかな? それこそ二人ともジェニーさんの手伝いが建前上の仕事なので、領主さまがいる内はすることが無い。
そのことに気づいてジェニーさんが肩を竦める。
「やれやれ、私も仕事に戻るか。
お二方、今日もよろしくお願いいたします。」
「「はい。」」
ルビィとサフィを連れて、ジェニーさんが出て行ったところで店内で暇しているのはあたしたち二人になる。
「こっちですること無くなりましたね。……王都にでも行きますか。」
ジェルのボヤキで次の行き先が決まった。
MISSION:色々回ろう
...MISSION COMPLETE
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