「事実」を伝えよう
あらすじ:
チーム・グリフォンの面々とは違う方法で異世界に来てしまったマダム・バタフライとメイド二人。ジェラードたちが元の世界に戻っていた間に調べていたことを伝える
※重い話なので、苦手な人はお気を付けください
「急なお招きありがとうございます。」
どこか疲れたような、呆れたような口調で王都のオークショナーであるマダム・バタフライことチョーコさん。執事頭と勝手に思っている人も一緒だ。そういやぁ名前知らないな。
「さすがに大事な話をするのに、通信機越しとかそういうのも良くないと思いまして。」
しれっと返すジェル。
「まぁ、いいですけど…… でもこっちの世界に来てヘリコプターに乗るとは思いませんでした。それこそ初めて乗りましたし。」
どこか不満げなチョーコさんだが、まぁ理由は単純で、重要な話があるからと王都から来てもらったのだ。戦闘ヘリブラックホーネットなら王都まで片道一時間。結構強引に来てもらったのと、あとホーネットのことを知らなかったので、これだけの短時間で来られるとは思わなかったらしい。
「知っていればもっと早く来ていたのに……」
ということらしい。
王都回りじゃあホーネットは目立たないようにしていたからねぇ。
連絡を入れて、静音飛行と光学迷彩を駆使してチョーコさんの屋敷の裏庭――十分に広かった&周りから見えづらいからやったんだけど――に着陸して半ば強引に呼び出した形になったのはしょうがないといえばしょうがない。
「時間差になったり、又聞きになるのも嫌でしょうし、画面越し、というのもですね。」
相変わらずの淡々とした口調だが、その理由を知ってる三人は表情を固くする。
ここにいるのはあたしとジェル、そしてチョーコさんとハルカとミリアのメイド二人。そしてチョーコさんに同行してきた執事頭の人だ。一人で来てくれって言ったのだが、この人が無理してついてきたらしい。……ヘリに乗るのは大丈夫だったんだろうか。後でちょっとホーネットに聞いてみよう。
ちなみにここは「雄牛の角亭」の裏の食堂というべきか。厨房を挟んで反対側にあるリビングスペースだ。一応、店が通常通りに営業を始めて、食事時にあたしたちの席――忘れかけているけど、あたしたちも「客」だからねぇ――が厳しいときに「身内用」として用意してあったんだが、そこまで繁盛というか、そもそもそこまでオープンに店を開いていないので、来るのは町の三巨頭くらいしかおらんわけで。
そんなわけで今のところフリースペース扱いだが、それこそ厨房からとか、頑張れば表側の食堂からでも見聞きできるくらいなので、まぁ密談には向いていない。
「本人たちの許可は得ているので、気になる人は物陰に隠れてないでどうぞ。
アイラ、リーナ、悪いが何か飲み物とつまむ物を頼みます。」
「「はい。」」
と洗いものか、明日の仕込み分からないけど、リーナちゃんがお湯を沸かし始め、アイラが潜んでいた何人かを厨房から追い出す。
具体的にはリリーにミスキス、王女ズだ。
リリーとルビィはえへへー と誤魔化し笑いで、ミスキスはいつもの無表情。サフィはお澄ましさんでしれっと近くのテーブルにつく。どうやらギャラリーはそんなものかな?
多分だが、領主さまあたりは後でジェルに聞けばいいや、くらいで向こうでワインでも嗜んでいるんだろう。
と、さすがにそろそろ本題に入ろう。
「……さて、少し衝撃的な話になりますが、覚悟はできていますか。」
ジェルの口調が少し固いものになった。
チョーコさんにハルカとミリアが一瞬驚いた顔をすると、恐る恐るお互いの顔を見あって、少しして頷きあう。
「まず……」
ふぅ、とジェルが小さくため息をつく。
「気が重いですね。」
珍しい弱音じみたものを吐く。
「これから言うことは事実になります。知らなかった方が良かった、と思うかもしれません。それくらいに残酷な事実です。」
「「「…………」」」
当事者の三人がジェルの言葉の強さに黙り込むが、もう逃げる気はないのだろう。
「先に結果から言いましょう。
まず三人とも元の世界で亡くなられています。」
室内の空気が凍る。同じテーブルじゃなく、隣のテーブルから息を飲む声が聞こえる。
「チョーコ=ミヤシタ。
学校帰りに家族と合流し、車で移動中、多重事故に巻き込まれ車が炎上。脱出できずに家族ともども窒息死、及び焼死。……ただ、家族が身体を張ってかばったせいか、奇跡的に少女一人だけが目立った外傷もなくきれいな姿だったそうです。」
「ハルカ=ナルミ。
休日に町中を散策中に暴走した自動車に轢かれる。実際は親子連れの子供を助けた為。ただ犯人は無差別殺人を目論んでいたが、序盤の事故により早々に捕らえられ、その親子も含めて多くの命が助かる。」
「ミリア=モーガン。
テロ事件に巻き込まれる。人質となっていたが、最後警察隊の突入により解決。しかし、犯人が残した時限爆弾に気づいて、自らの身体で爆発を最小限に食い止める。……人質の中では唯一の死者です。」
淡々と語るジェルの口調はいつも以上に感情を感じられない。だからこそ、その事実を疑う人はない。
「「「…………」」」
そしてその事実をより確実にしているのは三人の表情だ。
「思い出した…… 父さん、母さん、兄ちゃん……」
「良かった。あの子、無事だったんだ。」
「ワタシのやったことは無駄じゃなかったんですね……」
チョーコさんは口元を押さえ嗚咽をこらえていて、執事頭さん――ルアンさんって言うらしい――が肩を抱くように慰めている。ん? 距離なんか近くね?
ハルカとミリアはある意味自己犠牲になったのだが、それでも結果が伴っていたことに安堵の表情を浮かべる。それでも陰が見えるのは仕方がないことだろう。
「こちらが当時の新聞記事のコピーです。詳細は載ってませんが、概要は分かるかと。」
「「「…………」」」
それぞれの前に出された紙を手に取ると、食いつかんばかりに文字に目を走らせる。
「アイラ、」
「はい。」
ジェルが呼ぶと、すでに打合せ済みなのか、分かった風のアイラが厨房から出てくる。
「ルアンさんも手伝ってください。
今三人に必要なのは気持ちを整理する時間です。一室用意していますので、そちらに。」
「……畏まりました。」
アイラとリーナちゃん、ルアンさんで三人を部屋に連れていく。いなくなったところでジェルが大きく息を吐いた。
「ハカセ……」
「ジェルさん……」
とことことリリーとルビィが近づいてくると、ペコリと頭を下げる。
「「ごめんなさい。」」
「ちょっと面白そう、って思って聞いてました。」
「踏み込んではいけないことってあるの。」
その後ろではミスキス……は分かりづらいが、サフィと一緒にどこか重苦しい表情を浮かべている。
「気になさらずに。本人たちが希望したことです。不幸中の幸い、という言い方もなんですが、ある程度の関係を築いた三人、しかも同性だったのが良かったのでしょう。これが一人だったら、内にこもってしまうかも。」
とは言いつつも、ジェルのどこか張り詰めた雰囲気が元に戻ったので、それなりに頑張っていたようだ。
「あとは時間の問題かと。あ、待てよ……」
フラッとジェルが立ち上がった。
これはジェルが直感的に何か思いついたらしい。うん、ちょっと期待しておこう。
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