厨房の問題を解決しよう
あらすじ;
「雄牛の角亭」の隣にできた騎士団の宿舎の色々を解決するためにジェラードたちが色々やる
「こちらが食堂です。」
「「へぇ~」」
王城のメイドのハルカに先導されて、建物内を案内される。ここは王都で都市騎士と呼ばれる自警団と、この町に王女様がいる関係上、彼女たちの護衛騎士である第七第八騎士団の宿舎である。
「雄牛の角亭」から走ってすぐのところにあり、広いグラウンド――修練場も備えているという、なかなか充実している。
今は合わせて四十人ほどいるらしい。身の回りは訓練も兼ねて自分たちでやるのと、あとは箱型汎用作業機械で補っている。が、メイド本人が白状したのだが、王城みたいな大きいところのメイドって基本料理をしないそうで、あとは個人の資質だそうだが、とりあえず目の前の二人はからっきしだそうだ。
で、アイラとリーナちゃんが毎日大鍋に料理を作って、パンは町のパン屋さんに頼んでいるそうだ。町の治安維持も兼ねていて、町からも出ているのでその辺の予算には余裕があるのだが、何せ人手が足りないそうだ。
本当は専門の料理ができる人を雇えばいいんだろうが、なにせこのハンブロンの町、誰かさんのおかげで景気が上向きすぎて、どこでも人手が足りないと来ている。
無論、アイラとリーナちゃんの手伝いだって結構な負担なので、どうにかしたいところだ、というのがこの白衣のお節介の目下の悩みどころだ。
「ちょっと失礼。」
ジェルがあたしたちを離れ、食堂の厨房に入っていく。耳元に手を当てているので、どこかに通信――いや、どこにだ?――を入れているのだろう。
ちょっとみんなで遠くから眺めていると、片膝をついて床に何かを置く。ジェルの小道具は色々あるけど…… あれはビーコン――位置を知らせる発信機みたいなもん――か。さて、何でこんなところに?
ん? なんか感じたので「眼」を切り替えると「雄牛の角亭」の方から魔力のモヤモヤが伸びてくるのが見える。
ポン、って音がしたわけじゃないが、そんな感じで床にいきなり「落とし戸」が現れた。
魔法なんだろうけど、何事だ一体?!
そのまま見ていると、魔力が厨房の床全体に広がって、そこでどうやら落ち着いたようだ。
(ふむ、)
落とし戸が下から開くと、飛行型のドローンが浮上してきた。見慣れているリリーもミスキスも、元々は異世界の住人だったメイド二人も驚いてはいないが、そこからデロンとローブのような「胴体」が伸びてくるとさすがに驚きの声が上がる。
(繋がったようだな。しかし珍しく性急であったな。)
「それに関しては言い訳はしません。アイラとリーナの負担がちょっと目に余りまして。」
(確かに我も同意だな。我の観測の範囲では二人とも疲労が溜まっているようだったな。)
「というわけです。」
(理解した。)
と、床から出てきたコアの人――地下迷宮を維持する魔法的存在――がうむうむと頷く。
「えっと、あれ…… あの人は……?」
「コアさん! 店の裏に住んでいるの!」
「?」
後ろでリリーとハルカが言葉を交わしている。王宮で一緒に戦ったことで仲良くなったらしい。
だがその説明じゃあ分からないだろ。
ミスキスとミリアも加えて、四人で頭を突き合わせて情報交換をしている。まぁ、あたしもよく分からないし、おそらくジェルも全部は分かってないだろう。
今なんとなーく分かっている範囲だと、自分の制御化にある範囲をある程度自由に構築できる。ある程度、って言うのは「材料」もしくは「魔素」が必要で、近い材料があった方が効率がいいらしい。錬金術?みたいなものらしいけど、鉄を金にできる、って訳でもないらしいが。その辺も含めてジェルが研究中らしい。
あとは……
「「!」」
初見のメイド二人が驚きで悲鳴を上げそうになるが、ギリギリで堪えたようだ。
落とし戸がまた開くと、頭が白い球体のメイド服姿の「何か」がワラワラ床の穴から現れる。
全部で五人か。さすがに少し狭いと感じたのか、ジェルとコアの人が厨房から出てくる。
(人の料理に関しては暇なときに文献を見てみたが、最新の情報を得たい。店主殿や家事上手の娘に聞いても良いか?)
「それは本人たちに。まぁ、リーナはともかく、アイラは色々言いながらも教えてくれるでしょう。」
まぁ、アイラは面倒見がいいというか、お人よしが過ぎるのよね。
(管理範囲をあんまり広げるわけにもいかんからな。我はともかく、女中どもは厨房から出られぬ。)
「それでしたら、」
「我々にお任せください。」
どうやら衝撃が収まったハルカとミリアが頭を下げる。まぁ元々、料理を受け取ったら自分たちで配膳していたんだから、それくらいは問題ないし、そもそもそれがメイドの本分だ、ってことだろう。
(ふふ。そう考えると腕が鳴るな。料理とは奥深いらしい。研究のしがいがある。)
喜び表現なのか、コアの人のドローンヘッドがクルクル回っていて…… 不気味。というか、鳴るような腕があるのか? この不思議存在は。
「まぁ、これで数日くらいでアイラとリーナもお役御免、となるでしょう。
えっと、次はお風呂というか、サウナか。」
「「サウナ?」」
「「サウナですか!」」
サウナを知らない異世界人と、元の世界にあったから知っていたメイド二人の温度差がなかなか楽しい。サウナだけに。
「増築自体は済んでいるはずなので、後はどこまでできていますか……」
とかボヤきながらジェルが歩き出して、コアの人もついていったので、あたしたち五人も後を追うことにした。
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