酸っぱい物を食べよう
あらすじ:
醸造所からジェラードとラシェルが戻ってくると昼頃であった
「「~~~~~~~っ!!」」
「雄牛の角亭」に戻ったところで、醸造所に置いてこなかった「荷物」を厨房に入れたところで、当然のように店内の興味を惹いたので御開帳となった。ちょうどお昼時で来ていた領主さまは瓶の方が気になったので、十二年物を少しだけ。
そして例の果実の塩漬けはリリーが興味津々なので、試しに三人娘と王女姉妹に食べさせてみた。
一応最初に酸っぱいよ、って言ったし、小さく切って出したのだが、案の定というか予想通り思いっきり食べたリリーとルビィがその酸っぱさに悶絶していた。……不敬罪に当たらないだろうか。
ミスキスは無表情ながら酸っぱさに耐えているし、アイラとサフィは驚きながらも味を確かめている。
「リーナ、これを使って食べやすい物を頼めるか?」
「はい、かしこまりました。」
ジェルに言われて、笑顔を浮かべながらリーナちゃんが厨房に塩漬けを持って行く。奥から調理の音が聞こえてきた。
「ハカセもリー姉ぇも信用しているけど…… そもそもアレ、食べ物なの?」
まぁ、あたしもそのまま食べるのは苦手だけど、調味料的に使ったり、握ったライスに入れるのは嫌いじゃない。
「まぁ、そこはリーナの腕ですね。」
お楽しみに、と言うと、さっきまで暗かったリリーの顔がパッと明るくなる。
「お待たせいたしました。」
カートを押したリーナちゃんが戻ってきた。
「こちらはチャーハンと、鶏肉を焼いたもの。あと、おにぎりも作ってみました。」
「「わーい!」」
配膳が終わると皆で手を合わせてから昼食が始まった。
さっきのがあったので、恐る恐るではあったが「うめー!」ってカイルのシャウトに皆の手が動いた。
「おいしー!」
「おいしいの!」
どれどれ。
うん、チャーハンは油で炒めているけど程よい酸味が爽やかさを醸し出している。鳥を焼いたものはソースに使われていて、サッパリといくらでも食べられる感じだ。おにぎりは具として入れたのではなく、細かく刻んでライスに混ぜこんであるので酸っぱさが和らいで香りが引き立つ。いつもの三角ではなく、円筒形になっているのも二口くらいで食べられるので手ごろ感がある。
「いや、この酸味は慣れるとクセになるな。なんか身体に良さそうな気がするよ。」
「ただまぁ、ちょっと塩分が多いので、食べ過ぎるのはそれはそれで問題がありましてね。」
領主さまのジェニーさんはそのまま食べるのも気に入ったようだ。
「それはそれは。でも残念だ。これは君たちの世界の食べ物なのだろ?」
「あ、いやいや、ある果物の塩漬けなので、それさえ見つかれば。」
「それが…… 博士、」
リーナちゃんが柔らかな笑みを浮かべながら会話に入ってくる。
「前にリリーさんがカエデさんにいただいた種の中に梅がありまして、すくすくと温室で育っています。」
「おやま。」
この世界ってなんか植物の成長が早いので、木だって一年経たずして実がつくんじゃなかろうか。
「自作できるなら作ってみてくれ。ハンスさんも是非とも勝負したいって言ってたから、レシピを渡してくれると助かる。」
「まぁ、それは私も楽しみです。いくつかピクルス系のレシピを渡しておきますね。」
「その辺は任せる。」
はい、と返したリーナちゃんがどこか楽しそうに厨房に戻っていく。アレを使った新しい料理に思いをはせているのだろう。
「あ……」
そこで思い出したようにジェルが声を漏らす。
「どうしたのかね?」
「いえね、」
領主さまのジェニーさんに聞かれて、ジェルが微妙に口をもにょもにょさせる。
「そういやぁ塩漬けだから、塩を使うのですよね。ここならともかく、一般には使いづらいかなぁ、と。」
「塩、か…… なるほどな。」
この「雄牛の角亭」は宇宙船が埋まっていた山から岩塩が掘り出せたので、店で使う分くらいはまかなえているが、埋蔵量がハッキリしないので、町には流せない。
そして、この世界じゃあ海が遠いところでは普通に塩が貴重だ。この町も馬車で二週間くらいかかるんで、値段の大半は輸送費だろうか。
「ちなみに、グレイならどれくらいの荷物を運搬できるかね?」
大型トレーラーグレイエレファント。本体の性能も常軌を逸しているが、一番の売りは換装できるコンテナだ。
戦闘用に運搬用、簡易基地にもなったりと色々ある。頑張ればコンテナ二つ分くらい連結して引っ張れるらしいが、ここだと道路事情が良くないので、あんまり無理はできないとか。まぁ、もともと街道みたいなところを走ったら邪魔だしね。
「そうですねぇ…… 一般的な馬車で十台分は軽くいけますな。」
「それでほぼ半日で王都まで行けるのだから恐ろしいものだな。
……さて、一つ『彼』に頼まれてくれないかな?」
「はぁ。」
どうやら、王都どころかその向こうの海の国ワワララトまで行って荷物を運んで欲しいらしい。グレイの「脚」なら、まぁ一日で移動可能だ。
「一度『彼』で行ってるし、それこそ向こうと連絡できるのも大きかったよ。若い『二人』の蜜月を邪魔しているような感じがして心が痛んだけどね。」
ふふふ、と意味ありげに笑みを浮かべるジェニーさん。
そう、向こうで「姫巫女」と呼ばれる少女と、うちの戦闘ヘリのブラックホーネットが色々あって懇意になって、通信機で遠距離交際をしている。そこを使わせてもらったんだろうなぁ。
「……予め話は決まっていたようですね。となると塩、ってところですか。」
「ギル坊も驚いていたが、確かに凄い洞察力だな。その通りだ。君たちが離れている間に塩の大量受注してね。」
そんで、元々グレイを当てにしてた、ってとこか。まぁ、いいか。
「詳しい話は後ほど。おそらくまだ時間的余裕はあるのでしょうし。」
「そこまでお見通しか。やれやれだな。」
また夕飯に、とジェニーさんが領主館(隣であるが)に戻って行った。
店内も昼が終わって、皆が出かけたり仕事に戻ったりと閑散としてくる。
「で、次は?」
あたしはジェルにそう聞いた。
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