髪の毛を揃えよう
あらすじ:
なんとなく髪が伸びたらしいジェラード。リーナに頼むことに
「博士、今日はどうなさいますか?」
「どうも何も、いつも通りで。」
「はい、かしこまりました。」
朝食が終わったところで、忙しくなさそうだったのでリーナちゃんに声をかけて、美容室リーナが開店した。
箱型汎用作業機械を組み合わせてタオルを敷けば、リクライニングできるチェアの完成だ。白衣を脱いでチェアに座ったジェルにリーナちゃんがケープをかけて準備完了だ。
とはいえ、髪型を変える気もないんだから劇的なイベントは起きない。皆が見つめる中、チョキチョキとハサミの音だけが聞こえる。
資格とかは持っていないはずけど、リーナちゃんのハサミさばきは見事だ。それこそハサミもジェル謹製の特殊合金製で落としても大丈夫なんですよ、とか言っていたけど、そんなもんか?
「はい、お待たせしました。」
「ん。ありがとう。」
「どういたしまして。」
リーナちゃんがブラシで首周りの髪の毛を落とすと、ゆっくりとケープを外す。落ちた毛はすでにキューブたちがせっせせっせと掃除している。
「次は……」
って、リーナちゃんの目があたしを向くが、その前に元気な声と手が上がる。
「はいはい! リー姉ぇ、あたしもお願い!」
リーナちゃんの視線が困ったようにあたしとリリーを往復するが、別に急ぐわけじゃないので小さく頷くと、少し申し訳なさそうな顔をしながらリリーをチェアにいざなう。
「リリーさんはどうされますか? 前と同じ感じで?」
「えっとぉ…… 後ろは少し伸ばしたい、かな?」
何故かリリーにチラ見された。
「では後ろは毛先を揃えるくらいにしますね。」
「うん!」
またチョキチョキとハサミの音が鳴り響く。
ホント、未来の技術のシャンプーとリンスのおかげで「雄牛の角亭」の三人娘は髪質は驚くほどサラサラだ。櫛もまめにかけているため、まさに滑るような髪だ。
まぁ、そんなに伸びてなかったので、そんなにかからずにリリーの髪も終わる。
同じようにブラシをかけてケープをとると、リリーがぴょん、とチェアから飛び降りた。
「リー姉ぇ、ありがとう!」
「どういたしまして。」
で、リリーなのだが、切り終わった後ろ髪を触ると、ちょっと落胆しながらも指でまとめて見たり、まとめた部分を持ち上げてみたりしている。で、あたしの顔を見て、ちょっと途方に暮れた顔をする。
「ラシェ姉ぇみたいになるのは遠い……」
「え? なにそれ。」
「だって……」
と、リリーがジェルの方をちらりと見る。なんかその視線に嫌な予感が走る。
「ハカセ、ってラシェ姉ぇの髪型、好きなんでしょ?」
間違いなく店内の空気が変わった。
文字にしたら「ざわっ」って感じだ。
最初に動いたのはミスキスで、リリーと同じくらいのショートなので、絶望に膝を折って両手を床につける。普段キューブが綺麗に掃除してるけど、あんまりお勧めはできないな。
続いて、肩の下あたりくらいまでのアイラが頭の後ろで髪の毛をまとめると、それなりのボリュームになるのか、ふりふり振ってみて何故か上機嫌だ。そんなアイラをリリーとミスキスが羨ましそうに見ている。そういやぁ、前にお城の舞踏会に出た時に、アイラは短めのポニテにしたっけ。
ちなみにアイラよりは短いリーナちゃん(肩くらい)はある意味ジェルの「好み」を知っているのでノーリアクションだ。
ルビィとサフィのお姫様ズは二人とも長い。二人とも背中くらいあるかな? ルビィは左右の細いツインテールで、サフィは細めの三つ編みにしている。髪が細いのかもしれない。妹がツインテールを解こうとしているのを姉がやんわり止めている。
「……状況が状況なんで、ジェルから何か言った方がいいと思うんだけど。」
「多分私、基本何も悪くないですよね?」
「世の中は理不尽なものよ。」
ガッデム、と小さく呟くのが聞こえた。ジェルが立ち上がって、店内の女の子たちを見渡す。
「何というか、ご期待にそえるかどうか分かりませんが、飽くまでも個人的な見解で、一般論ではないとは思ってください。」
はぁ、とため息が漏れる。
「私、あんまり駆け引きとか演技、無理とかされるのを好みません。素直に自分らしく、の方がその…… いいんじゃないか、と。」
おー よく頑張りました。
ジェルの言葉にリリーとミスキスが復活し、アイラもいつもの髪型に戻す。ルビィは姉を尊敬のまなざしで見て、リーナちゃんはいつも通りの笑顔だ。
平和が訪れたらしい。
こほん。
「次、お願いしていいかな?」
「はい。」
すっかり本題を忘れかけていたが、今日は髪を整える流れだったじゃないか。
キューブが組み合わさったチェアに腰掛けてリボンを解くと、リーナちゃんがケープをかけてくれる。最初からの予定通り、前髪を短くして毛先を揃える感じで。
ちょきちょきちょき、とハサミの音が店内をゆっくり流れる。
そしてリーナちゃんには大変なことに、美容室リーナの客はなかなか途切れないのであった。
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