また一日を始めよう
あらすじ:
夕飯に戻ってきたジェラードとラシェル。色々考えることは多くても、自然に夜は更け、朝は来る
山の中の基地で二人きりの時間(ってほどロマンティックでも無かったのだが)を過ごした後、夕食の時間に間に合うように「雄牛の角亭」に戻る。
相変わらずアイラ、というか食事担当は忙しそうだ。店内だけならいいけど、お隣の都市騎士とコンラッド騎士団の宿舎の食事が相当負担のようだ。
……食事当番とかないんか?
ジェルもよろしくないなー って顔しているんで、早い内にテコ入れがあることだろう。
忙しくても手を抜かずに、夕飯が運ばれてくる。今晩はミックスフライだ。ソースも色々あって好きなものをつけていい。あたしはタルタル派だが、たまにはソースに走りたくなる。
肉と野菜だけじゃなく、こんな内陸なのに魚介類もたくさんあってありがたい。どうやら戦闘ヘリのブラックホーネットも海の国ワワララト――と、姫巫女様も――との交流は今もちゃんと続いているらしい。
聞いたところによると、タダでもいいとは言われているんだけど、一応最低限の金額は運搬用のコンテナに入れて持って行っているそうだ。現地ではタダ当然、というわけでもないが、それよりも「輸送費」の方がお高いわけだが、それこそホーネットのエネルギーと時間くらいなので、それこそ「タダ同然」なのかもしれない。……まぁ、こちらからも何かしら積んでいっているのでお互い様、だといいなぁ。
それでも運搬量も程々なので、流通には乗せられないし「雄牛の角亭」には大食漢が多いので、そんなに残るものでもない。
……どのみち、この世界じゃあ生鮮食品の長距離運搬は無理があるのよね。
「うめぇ!」
「おいしい!」
「おいしいの!」
「おいしいですわ。」
にぎやかな声にアイラの顔が緩むのが見える。リーナちゃんも嬉しそうだ。やっぱり食事はこうじゃなくっちゃ。
まぁ、お姫様も預かっているんで、肉ばかりの食事は健康にもお肌にも悪いわけで。まぁ、そういうのを無視して食べまくる人が約二名いるけど今更だからそれはいいか。
夕食の後はのんびりまったりとしたティタイムなのだが、アイラとリーナちゃんは明日の仕込みがあるって厨房にこもってしまった。
お隣さんの宿舎って結局四十人くらいいるのかな? 新たに人を雇うか、自分たちにやらせた方がいいんだろうけど、まだそこまでの態勢ができていない、ってことなんだろうな。それでもジェルが速攻で手を打たないのは「大変大変~」って言いながらも楽しそうなんだよなぁ。ワーカホリック、とまでは言わないけど働くのが好きなんだなぁ。
まぁ、本当に手が回らなくなったら言ってくるんだろうなぁ、って顔をジェルがしているんで、様子見ってとこだろうな
今日はこんな感じで終わって、いつものように同じベッドで一緒に寝て、って流されているような気がするが、なんかこう今更やめられないというか。
ん~ 深く考えない方がいいんだろうけど、そうも言ってられないかなぁ。
で、そんなあたしの迷いを、こんな時だけ敏感に察知したジェルが何も言わずに頭をポンポンと優しく叩く。
そーゆーとこだぞ、そーゆー。もう……
先延ばしにするのもどうかと思うけど、いいや、考えるのやめやめ。時間はどうせまだたっぷりある。といいなぁ。
もやもやしながらも目を閉じれば、自然と眠くなってくるので、あたしって健康。
いつものようにジェルの腕の中で目が覚める。今更だけど、寝つきも目覚めもいいのはジェルのおかげなんだろうか。ちょっと複雑。
「朝からいきなり人をディスるのはどうかと思いますがね。」
毎度のたわごとを聞き流しながらベッドから出ると、ジェルに背中を向けてパジャマのボタンに手をかける。
後ろから慌てた様子もなく、もそもそと着替える音が聞こえる。ちょっと振り返ってみようかな? って見たところで楽しいことはないか。どこか無心で着替えを続ける。まぁ当然ながらジェルの方が着替えが早く、部屋の隅にある洗面台で水音が聞こえる。
こっちも着替え終わったので、入れ替わりで洗面台に向かう。当然ながらジェルはいつも通りの服にいつも通りの白衣だ。そういやぁ、今更ながらジェルも服のバリエーションがないわね。
ホントに今更なので、気にせずに朝のルーティーンを始める。……あ~ ちょっと髪伸びてきたかな? 短くするまでは言わないけど、ちょっと揃えたい。
「…………」
「いきなり何を。」
ふと思い立って、部屋のドアの前で背中を向けて待っていたジェルの髪に手を伸ばす。
「結構伸びたね。」
わさわさわさ。
「……そうですねぇ。切ったのはだいぶ前ですな。」
床屋も美容室もないこの世界。いや、あるかもしれないが、ハンブロンの町にはなかったはずだ。王都ではそこまで見て回ってないし、そもそも万能超絶美少女のリーナちゃんが男衆の髪も、あたしの髪も手入れしてくれるわけで。
別に隠すわけもないので、普通に下でやってたら、当然のように三人娘も美容室リーナの常連に。領主様御用達にもなっているので大変名誉なことである。姫様ズも通うようになるだろうし、出入りする人も増えてくるからなぁ。その辺も考えないとなぁ。
「まぁ、ぼちぼち降りましょう。朝食を待っている人たちが待っているでしょうから。」
そうだ。まずは朝ご飯を食べてから考えよう。
ジェルに促されて、あたしたちは部屋を出て階段を下りていくのであった。
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