グリフォンに戻ってみよう
あらすじ:
ノープランで表に出て教会で浄化されそうになったジェラード、そしてラシェル。次に向かうのは……?
孤児院を兼ねた教会を出てパンサー1(ピックアップトラックの方)に乗るあたしたちだが、ジェルがすっかり消耗しているので、やはり教会という場所や感謝の言葉がダメージになっているようだ。邪悪か。
「ん~ 王都での用も多いんですよねぇ。」
まぁそうね。グラディンさんとカエデはこっちに来ているから大体済んでるけど。
「日帰りでもいいとしても、今から行くのはちょっと遅いですか。」
ということは…… とパンサー1を南――町の外に向ける。
「グリフォンに一度戻りましょう。」
「ん。」
あたしも反対する理由が無いので、のんびりとドライブって程ではないが町の外へ。南門の人たちに手を振りながら町を出ると、速度を上げる。この辺は、前に邪神とやらが出たときに魔獣の群れが現れたらしいんだけど、強襲突撃装甲車ランドタイガーが撃退はしたんだ。ただ、ちょーっと暴れすぎて街道がガッタガタになったんで、歩くのも大変だったそうだ。
まぁ、そこはタイガー本人?が整備したので、前よりも走りやすくはなっている。本当は王都まで街道を整備したいそうだが、さすがに遠いので、その内、とは思っているらしい。
それでもシルバーグリフォンの基地までの街道は整備されていて、ピックアップどころか、この世界の馬車でもだいぶ通りやすくなっている。
〈周囲に生体反応、及び動体反応なし。監視の目も無いと思われます。〉
「ん。」
そこまでやる必要もないんだろうけど、周りの目が無いのをか確認した後に、街道から外れて山肌の一つに近づくと、内側から開いて通路の入り口が見える。素早く潜り抜けると、後ろが閉まる音が聞こえて通路が暗くなる。
ヘッドライトをつけると同時に、通路にも明かりが灯り、奥まで延々と続くのが見える。
いつの間にかに、と言い出せばキリがないんだが、ホントにいつの間にここまで作ったんだか。今更な疑問はともかく、数分もかからずに通路が開けた空間――駐機場に到着する。
全長百五十メートルの宇宙戦艦シルバーグリフォン。さすがに飛び回るのは不可能だが、ちょっと浮いて向きを変えたり、ちょっと移動するくらいの広さはある。
……やっぱ広いな。
ここが山の中で、むかーしむかし、グリフォンが思いっきり突っ込んで埋まっていたとは思えない空間だ。シールドで山の重量を支えながら少しずつ穴を掘って、掘りながら金属を採取し、それで内壁を少しずつ作り上げという。当然だけど、埋まっていたグリフォンの体積よりも、この空間の方がずっと大きいので、掘った岩石類はどこかに捨てたのだろうが……?
分からないときはジェルに聞く。
「タイガーも疑問に思っていたのですが、この山を含めて、随分と鉱物の含有率が多いようです。まぁ、金属はあるに越したことがないのでいいのですがね。」
ただ、あんまりにも色んな鉱物が手に入る――当然ながら鉱物にも「分布」ってものがあるわけで――ので、便利なんだけどー ってことらしい。
ちなみに宇宙って究極のサバイバル環境なので、金属は可能な限り抽出し、残りも可能な限り分解して、って大気圏なので気体成分は大気中に放出し(無論、危険な成分は除く)、どうしようもなくなったものに関しては…… 反物質ジェネレーター用の「質量」にするとか。
「一応、周囲から見えないように廃棄や保管はしていますよ。
今は直轄地、というか立ち入り禁止になってやりやすくなりましたけどね。」
高くまではしてないけど、山の形は結構変えたらしい。
三十センチ立法の箱型汎用作業機械たくさんと、重機扱いの一応装甲車のタイガーで頑張ったんだろうなぁ、ともう一度「基地」内を見渡して思う。
そして件のキューブたちが自分よりも大きな木箱を頭?の上に乗せて、パンサー1に積んでいく。
「あれは?」
「町の人へのお土産みたいなもんですな。あとは『雄牛の角亭』に持ち込む分。
思っていた以上に量がありますな。王都に行くときのはまた別に積みますか。」
はー 面倒ですなー とぼやきながらも積み荷の整理をポチポチやってる。で、ある程度メドがついたのか、う~んと伸びをするとあたしの方を向く。
「退屈じゃないです?」
ううん、別に。なんつーか慣れてるからかな? あとそのなんだ、意外と見ていると進捗が分かるし、分かりづらいけど表情も変わるのを見ているのも意外と楽しい。
今も終わるタイミングで「伸びの一つでもしておきますか」みたいなのはなんとなく分かったので、こっちも動く心構えをしていたわけで。
「終わったんでしょ? 町に戻るの?」
「ん~…………」
珍しく歯切れの悪い感じでジェルが立ち上がると、この空間の片隅にある、簡単なテーブルセットにやや猫背で歩いていく。
?
こちらにちょいちょいと手招きをしてから、どこかに通信を飛ばすとキューブがコーヒーカップとお茶請けなのか小鉢みたいなものを載せてやってくる。
…………
「まぁ、その、なんですな。
そうそう『雄牛の角亭』だとコーヒーがあんまり好かれていないようなので、ちょっとのんびり飲もうかな、と思いましてね。」
一人で飲むのは寂しいじゃないですか、とどこか言い訳がましい口調。
ま、まぁ、そういうことならしょうがないわね。
あたしとしてもなんか言い訳がましいのは分かってるし、何か特別なことをするわけでないのも分かっているだが…… ね? ほらね? 雰囲気とか……
珍しくジェルから誘ってくれたコーヒータイム。
そういやぁ、こいつから誘ったことってそんなにあったっけ? レアといえばレアだ。夕飯くらいまでには戻るんだろうから、それまでくらいはのんびりと二人の時間を過ごすことにした。
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