魂の浄化をしよう
あらすじ:
色々いたたまれなくなって「雄牛の角亭」を出たジェラードと、それについてきたラシェル。二人が向かうのは……?
「勢いで外に出てきましたが、何をしましょうかねぇ。」
ノープランか。
白衣のポケットに手を突っ込んだままフラフラと歩くジェル。「雄牛の角亭」の左右で箱型汎用作業機械や町の人たちがトテカンと建物を作っている。
とはいえ、建物本体はできていて、すでに人が住んでいるし、今やっているのは追加部分や増築、装飾みたいなところだ。
「パンサー1、荷物を減らしたいんで、あそこ行くぞ。」
《……呼び名はそれで決まりなんですかね。了解です。》
やや不満げな声が返ってきたが「雄牛の角亭」の前で待っていると、黄色いピックアップトラックが後ろに荷物満載でやってきた。
なんかやる気のなさそうな顔でピックアップトラック――パンサー1の運転席に乗り込むジェル。置いて行かれるのは勘弁なので、あたしも慌てて助手席のドアを開けるのであった。
パンサー1でゆっくりとハンブロンの町を走る。まぁ、そこまで道路状況は良くないし、道幅も広くない。それでも一応馬車が通るし、もう見慣れた光景なのか誰も驚く人はいないし、ちゃんとレーダーやドローンで確認しているので、急に子供が飛び出しても大丈夫だ。
それでもトコトコって感じの速度で町の北に向かう。北側には鉱山町に向かう道(ついでに門も)があり、鉱山のある山は大変険しく、この世界の人々では乗り越えようとは思えない程だとか。つまりは北のどん詰まりだそうだ。で、防衛上、というほど立派でもないが、この町では比較的安全な区域であり、孤児院を兼ねた教会がある。神の教え、って奴にはあんまり興味なくて、あんまり話を聞いたことはないのだが、誰かさんの「魂の浄化」とやらに付き合わされて何度か来たことがある。聞いた話だと、リリーとカイルが遊びに行ったり、リーナちゃん(とヒューイ)が色々差し入れをしているとかなんとか。
教会が見えてくると、パンサー1の物音が聞こえてきたのか、建物からワラワラと子供たちがやってきて、あっという間にパンサー1を取り囲む。
「魔王だ! 魔王が来た!」
「え~ 魔王ってデビアじゃないの?」
「いや、もっと悪い魔王なんだぜ!」
のっけから心を折られたような顔をするジェルだが、開き直って悪い顔になると、ふはははははっ、と器用な高笑いをあげる。
「お子たちよ、おとなしく我が軍門に下り悪の限りを尽くすのだ!」
白衣をマントのようにひるがえし、自分の顔の間に手をかざし、指の隙間からいつの間につけたのかカラコンで不気味な光を放つ目を演出している。
「やべぇ、本気を出してきた!」
「逃げるか…… いや、逃げられるか?」
「魔王からは誰も逃れられぬわ!」
本気出しすぎのジェルに孤児院の子供たちが及び腰になるが、パンサー1の中にあたしがいるのに気づいた子供たちが目を輝かせる。
「聖女様だ! 聖女様がいるから魔王なんか怖くないぞ!」
は?
ちなみにジェルも同じような顔をしている。
「よし、聖なるチョップで魔王を倒すんだ!」
……なんですと?!
ジェルも何かを理解したのか、こちらにジト目を向けた後、高々と右手を掲げた。
「愚か者どもめ、滅びよ!」
孤児院の子供たちに魔王チョップが炸裂しまくった。
「いつも子供たちと遊んでくれてありがとうございます。」
あれだけの醜態を見せられながらも全く動じないとは、さすがに教会に生涯をささげたシスター・エバというところだろうか。教会の前が騒がしいことに気づいた初老のシスターは、にこやかな笑顔のままあたしたちを教会内に案内してくれた。
「遊んでいたわけじゃないんですけどね。」
実は己の存在意義を賭けて戦っていて、ってそんな高等なものでもないか。というか、それこそ遊ばれていたような気もする。
「それで今日は…… あらいやだわ。」
と、シスターはウフフ、とどこかいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ジェラード様がいきなり来られますと、また何かいただけるといつも思ってしまいますわ。なんとも浅ましいことで。」
ウフフ、ともう一度笑みを浮かべる。
パンサー1に荷物を積んであったのは見たろうから、何かを「寄付」しに来たのは分かっててのこの言い方だ。ひねくれ者のジェルが切り出しやすいようにというところだろう。
「ご期待に沿えるかどうか分かりませんが……」
と荷物の中から一袋抜いた物をシスター・エバの前に置く。
「拝見させていただきます…… まぁ!」
買ってきたのはあたしとミスキスなんだが(出資はジェル)、量販店で子供服を下着も含めてサイズもバリエーションも豊富に取り揃えた。
お手軽価格の量販品とはいえ、こちらの服に比べれば丈夫だし質もいい。子供なんて走り回って服を汚したり破ったりするのが仕事なんで、いくらあったって困るものではない。
「ホントに大量にあるんで、それこそバザーに出してもいいですし、いかようにも。」
あ、なるほど。孤児院に渡すには多いなぁ、と思ったけど、バザーで放出すれば、町の子供たちにも広まるか。それこそ高価転売しようと思ったら「天罰」が下るんだろうけどさ。
「いつもいつも…… 本当にありがとうございます。ジェラード様はきっと神が遣わした使途様なのでしょう。」
感極まったのか涙ぐむシスター。女性の涙に弱いジェルが不機嫌そうに(演技だけど)そっぽを向く。
「単なる気まぐれです。」
年の功でそんなジェルの内心が読めるのか、自分の目元を拭いながらもシスターが言葉を続ける。
「でしょうね。でもご存じですか? 我らが主神ではありませんが、気まぐれと幸運を司る神様もいるのですよ。
気まぐれと、」
と言いながらジェルの手を取り、
「そして、幸運。」
と、今度はあたしの手を取った。
「ほらね?」
と、優しい笑みを浮かべるので、こちらとしては何も言えなくなる。
「ジェラード様にラシェル様、そして他の方々にも神の祝福が舞い降りますように。」
敬虔に祈りをささげたかと思うと、顔を上げてニッコリと少女のような笑顔になる。
「さて、また皆様のお話を伺ってよろしいですか?」
と、話をねだられた。……あたしたちの話って子供に聞かせられるような話じゃないんだが、いつの間にかに改変して広まっている。
「魂の浄化、って大変ですねぇ。」
小さくジェルがぼやきながらも、あたしたちの「活躍」の話を始めた。
お読みいただきありがとうございます
毎日すんごい暑さで、今年ほどエアコンがあって良かったと思う年もありません
……電気代怖いw




