商人ズをねぎらおう
あらすじ:
王都まで行って帰って色々仕入れてきた獣人の商人たちが戻ってきた
「戻ったぞい!」
「戻ったでー」
どんだけ急いで戻ってきたかは知らんが、この翌日の午前中に狸耳のグラディンさんと狐耳のカエデの獣人商人ズが戻ってきた。
まぁ、おそらく夜中に王都を出てきて、のんびりと戻ってきたんだろう。それこそ大型トレーラーのグレイエレファントだから、自動運転で来られるからなぁ。
それでも疲れたようにどすん、とあたしとジェル、ついでに領主さまのジェニーさんのいるテーブルに着く。二人揃って一瞬ピクッ、と身体が震えたのは気のせいだろう。
「実に快適じゃった。急ぎの大商いがある時は貸して欲しいところじゃの。」
「確かに良かったんけど…… なんかやっぱ違う気がすんな。」
ある方向を見ないようにして、グラディンさんとカエデがぼやく。
「まぁ、そうじゃな。ただ、婿殿の世界ではあのような輸送方法が一般的なんじゃろ?」
「……そうですね。」
グレイに積まれた荷物を確認しながら言葉を返すジェル。
「人口が大きく違いますし、大量かつ高速の輸送手段があれば、農業も畜産も大規模に効率的に行うことができる、というわけで。」
「なるほどのぉ…… ちなみに実現可能不可能を抜きにして、儂らでも想像できる大規模輸送手段って何があるんじゃ?」
「そうですねぇ……」
と、ジェルがちょっと考えるふりをする。答えはいくつかあるんだろうけど、どれにするかってとこか?
「金属――鉄製のレールを敷いて、その上に何かしらの動力で動く車両を置きます。トロッコと原理は一緒ですね。規模は違いますが。」
いわゆる旧時代の「鉄道」って言われる奴だ。地面を締めたところに鉄製の線路を敷くことにより、重量物を安定して運ぶための交通手段だ。レールがある以上、移動できる範囲は限られているが、その輸送量は地上では最大規模であろう。
「……なるほど。レールの維持と動力の問題じゃな。」
「ですねぇ。」
お金儲けが絡むからか、グラディンさんの推測も鋭い。この世界で町から町の間に線路を引いたところで、獣とかに荒らされたり、それこそ盗む輩も出てくるだろう。後は地盤整備の問題かなぁ。
「一応、応用ですが、町中に線路を敷いて、馬車にひかせるものもあります。」
この世界、ゴムタイヤが無いので石畳で整備されていても馬車はガタゴト揺れる。線路だと基本揺れは少なくなる。
「……なるほど。この町ならともかく、王都みたいな規模なら十分価値はありそうだな。」
同じテーブルについていたジェニーさんがふむ、と考えるそぶりを見せる。と、そこで敢えてそちらの方を見ていなかった二人が諦めて顔を向ける。
「ところで領主殿よ。」
「なにかな?」
どこか作ったようなにこやか笑顔のジェニーさんに対し、逆にグラディンさんの顔が引きつる。
「……普段と服装の趣が違うような気がするんじゃがな。」
そうそう。三人娘と王女ズのファッションショー(仮)が行われた後日、領主様のジェニーさんの為に買ってきた服をお披露目した。普段は男物の服ばかりで、男装の麗人――まぁ、麗人にしてはやや男前すぎるが――なので、フェミニンかつキッチリした感じなのを選んだ。
ロングタイトのスカートに、上もスーツっぽく「できる上司」風にしてみた。最初はジト目で見られたが、着てみたら意外と良かったのか、ご機嫌になりあそばれていた。普段の大きめの男物の服に隠されていたラインがあらわになって、なんとも魅惑的だ。でもうちの男衆の反応が薄かったのは想定内だったのか、やや落胆していたがそこまでショックではなかったようだ。
「そうやって驚いた顔をしてくれるのが楽しみなのだが、ガイザックとバモンくらいしかしてくれなくて寂しいよ。」
ニヤニヤと笑うジェニーさんに、グラディンさんがため息をつく。
「確かにここの娘御や王女たちじゃと褒めるしかしなさそうじゃのぉ。」
「全くだよ。あんなに素直な目で褒められると、こっちの方が照れ臭いよ。」
と言いつつも、満更ではなさそうな領主さま。と、その顔がどこか見る人が見たら不安げな笑顔に変わる。
「さて、グラディン老。前々から服のセンスがいささか年寄じみている、とここの女の子たちが心を痛めていてね。」
「ほぉ?」
どこかいぶかしげな声を出すグラディンさんだが、ジェニーさんの言った通り、確かに服が野暮ったいというか厚ぼったいというか、確かに年寄っぽいのは事実だ。とはいえ、カエデもそうなのだが、旅商人で外にいることが多いから、ある程度の重装備になるのは仕方がない。それこそ夜寝るときもパジャマに着替えてって訳にもいかないわけで。
それを差し引いても、グラディンさんの服はこう、なんかアレで。見かけは妙齢の美人さんなのだから、とは思っていた。けどまぁ、それとなく伝えたところで、意外と頑固だったりするのだが、良い手を思いついたのであった。
「お婆ちゃんお婆ちゃん。」
「お婆様お婆様。」
「雄牛の角亭」が誇る年少二人のりりーとルビィが手に袋を持ってグラディンさんに近づくと、そりゃもうってばかりに相好を崩す。
「おお、どうしたんじゃ二人とも。」
「これ、ラシェ姉ぇとミス姉ぇが、お婆ちゃんの為に用意したんだって。」
「ほぉ…… ほぉ?!」
「あ、こっちカエデの分ね。」
「ウチもか?!」
アイラが別の袋を渡したら、自分には若干関係ないとニヨニヨしていたカエデが驚いた声を上げる。
……まぁ、別に変なチョイスはしてないよ。うん。