夕食前に地下に潜ってみよう
あらすじ:
夕食にはまだ早いがやや時間を持て余し気味で、ちょっと地下に降りてみる
「あ、いけない。」
何かを思い出したアイラが立ち上がると、パタパタと厨房に戻っていく。
「ごめん、リーナも手伝って。」
「はい。」
厨房から顔を出したアイラが申し訳なさそうに言うと、リーナちゃんは快諾して同じく厨房の中に消えていく。
……なんだろ? 夕食にはまだ早いと思うのだが。
「やはりアイラ嬢の負担が大きいな。早急に対応しなければ。」
「どういうことですか?」
聞いてみた。
「色々聞いているとは思うが、隣の建物には三十人ほど騎士たちがいてな。
食事は今のところ自炊と、それこそアイラ嬢に任されている。で、困ったことにアイラ嬢の料理の方がずっと評判良くてな。」
でしょうねぇ、としか言いようが。
「本当は町から人を雇えればいいのだが、何せ景気が良くなっているので、人が足りないくらいでな。」
嬉しい悲鳴だよ、とやれやれと首を振る。
聞くところによると、このハンブロンの町に移住をしたい人が増えているらしいが、住宅が絶対的に足りず、建てるにも人手が要るわけだが、それこそ箱型汎用作業機械たちがいればいくらでも(とは言い過ぎだけど)できそうな気がするけど。
「それなら簡単だが、何でもかんでも君たちに頼るのも町の為には良くないのだよ。」
まぁ、頼りまくっている私が言うのも何だがね、とジェニーさん苦笑。
実際に「雄牛の角亭」及び、お隣の新領主館と騎士たちの宿舎はキューブたちが人海戦術的に建てまくったからねぇ。
「さすがにキューブに料理はなぁ……」
色々理由はあるのだが、やはりキューブは料理向きじゃない。うちはリーナちゃんがいるから、ジェルもあんまり考えなかったんだろうなぁ。
「なので聞いたとは思うが、地下の御仁の手を借りたいとアイラ嬢とも話していてね。
どうせこの辺は治外法権もいいところだし、皆もそこまで驚かないと思うよ。」
困ったものだ、と言葉通りじゃない表情を浮かべる領主様。
ちょうど会話が途切れてまったりしたところで、ちょいちょいと後ろからつつかれる。
「そういえば荷物。」
ミスキスに言われて思い出した。
元の世界に戻ってきたときに色々仕入れてきた、というか買い込んだんだよね。ジェルは色々資材とか用意していたけど、あたしたちはそれこそお菓子とか服とかなんだけどさ。
それでも買い込みすぎたのか、それなりのコンテナ一つ分になっていたような気がする。
ちゃんとこっちに持ち込んでくれているのかな?
「ジェル、どうなの?」
「ラシェル、もう少し具体的に。
まぁ、おそらくですが、結構な大きさだったので地下に置いてありますよ、が正解ですかね?」
ふ、ふん。さすがジェルだ、なんて褒めたりしないからね!
って、自分の中でアホな呟きをしながらも、見に行こうと腰を上げる。ミスキスにも来てもらうように手で合図すると、コクンとうなづいた。
あたしたちがどこかに行こうとするのを見て、リリーとルビィが興味深げにあたしたちを目で追うので、どうせ後で見せるんだからとちょいちょい手招きする。
ついでにそれを微笑ましく見ているサフィも手招きして、ぞろぞろと食堂を出ていく。まぁジェルはジェニーさんと積もる話があるでしょうから放っておこう。
まぁ一応は小さくハンドサインで「下」に行くことを伝えると、かすかに頭が動いたので問題ないらしい。
まぁ色々事情があって、店内の防犯なのか監視なのか知らんけど、カメラは増えている。裏庭の「秘密基地」で暇している艦載機の誰かが常時見ているので、安心と言えば安心だ。
当然だけど、廊下や食堂などの共用スペースにしか「目」は無い。
パッと見、どこにカメラが仕込んであるか分からないし、それこそ無音で飛ぶドローンとかもあるので、ホントにどこから見られているかは分からない。ただ不思議なもんで、外に出ると何故かちょっと不安になったりする。いやだなぁ、なんか変な慣れ方。
もやもやしながらも、店の裏手の階段から地下に五人して降りていくと見慣れた無機質な床や壁になる。
……と、あれ? なんか忘れているような。
「うわっ!」
「ぴぃ!」
後ろから悲鳴が聞こえて、あたしの両腰に衝撃が走る。
一人は初見で、もう一人はまだ慣れてなかったか。
地下のフロアに着くと、そこでは執事服やメイド服姿の人が何人も作業中だった。それだけでもちょっと驚きなのだが、彼ら彼女は揃ってつるっとした白い球体を頭に載せている、というか頭がまるっと玉だ。顔も何も無いので前が見えているかどうか不思議なのだが、気にした様子もなく動き回っているので大丈夫なんだろう。
「ら、ラシェ姉ぇ、あれは何?」
「コアさ~ん。」
怯えている女の子たちをなだめるために、両手で頭をなでながら地下の管理人を呼ぶ。
すると、地面から湧き出るように飛行型のドローンが現れると、人の目の高さくらいに上昇したところで、底面あたりから布?が伸びてローブを着た人型の何かになる。頭はドローンのままだが。
(おお、ラシェルか。今日はジェラードと一緒ではないのか?)
「うん、たまには。」
(さようか。)
と、コアの人の目、じゃなくてレンズ?があたしの周りに向く。小さく「ひっ」と悲鳴が聞こえたが、慣れてくれないと苦労するよなぁ。こればかりは時間が解決するしかないか。もう片方は見慣れた顔?が出てきたからか少し緊張がほどける。
(お前たちも息災のようでなによりだ。
と、そっちの娘は初めてだ……いや、前に迷宮に挑んだ王女か。)
「はい。コンラッド王が一子。そちらのルビリアの姉であるサフィメラと申します。以後お見知りおきを。」
普通の服なのに、ロイヤルオーラをまとってカーテシーを披露すると、ドレスに見えてくるのが不思議だ。
(さて、今日は何用であるかな?)
あ、肝心なことを忘れていた。
「グリフォンに積んであった荷物を下ろしたと思うんだけど、あたしたちが用意したコンテナってどうなってる?」
(うむ、聞いているな。
部屋の一つに置いてあるので、我が案内しよう。ついてくるがよい。)
と、滑るようにその場で身体の向きを変えると、一応歩いているように振舞っているつもりなのだが、微妙に不自然だ。
その後をゾロゾロついていくんだけど…… ルビィ、早く慣れてね。
未だに腰にしがみついている金髪をなでながら、そんなことを考えていた。
お読みいただきありがとうございます
体調不良というわけではないのですが、なんか上手いこと筆が進まずに、黙って一回休んでしまいました。……全然書く速度が上がらんのぉ(とほほ)




