(多分)グッドニュースを聞こう
あらすじ:
ハンブロンの領主であるジェニファーがジェラードに「いい知らせか悪い知らせ」を伝えることに
「ちなみに『良い知らせと悪い知らせがある』って聞かれたらどちらを聞くタイプかな?」
「……得てして、両方ともろくでもない場合があるので、何とも言えませんな。」
「世知辛いものだね。」
あたしの目の前で領主のジェニーさんとジェルがなんか腹の探り合いみたいな会話をしている。
「ちなみに予想はついているかね?」
「……ええまぁ。」
と、ジェルが微妙に苦虫(見たことないけど)を噛み潰したような顔をする。
「私がこの国を出よう、って言い出したらどうするんですか?」
大した意味で言ったわけでもないんだろうが、ジェルの一言に店内にいた三人娘が驚いた顔になると、色んな感情を込めた視線をジェルに向ける。その強さに、さすがのジェルも小さく呻くと助けを求めるようにあたしの方を見る。
知らんわ。
「ジェラード君、今何か言ったかね?」
「いえ、失言でしたので謝罪して撤回させていただきます。」
「よろしい。」
ジェニーさんの言葉に、店内にホッと安堵の空気が流れる。
「ということは、すでに予想済みということか。君を驚かせるにはどうしたらいいのかな。……そうか、アイラ嬢みたいなことをすればよいのか。」
「領主様ぁ!」
不意に流れ弾が直撃したアイラが慌てたように(いや、慌ててか)声を上げるが、ジェニーさんはどこ吹く風だ。
「ん、待てよ…… そうか。身分違いということになるのか。」
なんか不穏な単語が聞こえてきた。そのジェニーさんの言葉に三人娘もビクッと反応する。そこでジェルがゆっくりとため息をついた。
「面倒なのでハッキリ聞きますか。
……結局私、何になったんですかね?」
「もう少し引っ張りたかったが残念だよ。
ようこそ、ミルビット子爵。」
なかなか衝撃的な単語が出てきた。一応、この世界の一般的な爵位を聞いたことがあるが、いわゆる上から「公侯伯子男」で、公爵は王族でないとなれないから一般的?な最高位は侯爵だろう。あと男爵の下に準男爵とか騎士爵、商爵みたいな平民以上貴族未満みたいな肩書もあるそうで。
「ちなみにこの町においては辺境伯として扱うから、私と同じだな。とはいえ、君の功績があれば侯爵でも問題ないとは思うのだが、さすがにな。」
「……それでも結構無茶じゃないです? さすがに反発が出るかと。」
「まぁ、そこは一代限りで領地はあるが領民はいない、半分名誉職みたいな扱いで通したそうだ。」
政治は面倒なものだよ、とジェニーさんがかぶりを振る。
「ハカセ…… 貴族になっちゃったの?」
「なったみたいですねぇ。」
どこか心配そうなリリーに、気のない返事をするジェル。
「で、リリーの目には私が何か変わったように見えますか?」
軽く両手を広げたジェルをあちこちから眺めてリリーが首をかしげる。
「ほら、肩書一つで人は簡単に変わらないものですよ。」
「いや、それは君が強いからで、分不相応な肩書や金、力を得ると、得てしておかしくなるものだよ。」
まぁ、ジェルはもともとおかしいからね。
「……なんでしょうか。なんか不快なことを思われている気がします。」
気のせい気のせい。
「でも……」
ふと思いついたようにアイラが口を開く。
「……貴族、って具体的に何をするんですか? 領主様みたいなのは分かりますけど、基本皆さん、領地とか領民がいるんですよね?」
「なるほど、面白い質問だ。
新人貴族のジェラード君にも興味のあることだろう。」
「いえ、別に。」
「いいから聞きたまえ。
アイラ嬢の言う通り、私みたいに領地を経営するのが一般的だ。だがたまに領民を持たない貴族もいる。ジェラード君……いや、ミルビット卿も土地は持っているだろ?」
あんまり苗字で呼ばれ慣れていないジェルが分かりやすく嫌そうな顔をすると、ジェニーさんがクスクスと笑う。
「土地があれば農家ができる。山があれば採掘ができるし、海や湖があれば漁業も可能だろう。商売をする貴族もいる。……それこそ信用はあるからな。」
「逆に金を出して爵位を買うってこともできるんですかね?」
「そりゃできるともさ。それこそ国だってお金があるに越したことはないからな。準男爵とかは大体その手のものだぞ。」
なるほど。それで一代限りとかの範囲の中で、国に功績を認められれば延長なり昇格があるってことか。
「皆が皆、領地経営や商才に長けているわけでもなく、跡継ぎがヘボだったときは、お金に困って領地を譲り渡す場合もあるな。」
で、あんまり酷いとお取り潰しになる、ってわけだ。……あれ? ジェルが色々しでかしたせいで、貴族が減ったとか言ってなかったっけ?
「そして、ルビリア姫の一件でいくつかの貴族家が無くなってな。今領地や爵位の調整中らしくてな。せっかくだから今の内に、って我が王がな、と。」
「……なんともまぁ。」
国内の貴族のゴタゴタと、あたしたちがこの世界を離れていた隙に強引にねじ込んだようだ。
「勘違いしないでくれよ。別に君たちを縛ろうとしたわけじゃない。君たちを守るためだということを理解してくれると嬉しい。」
「理解はしてますよ。釈然としないだけで。」
だって面倒じゃないですか。とジェルが何一つオブラートに包まないで言うので、周りから苦笑が漏れる。
「やっぱりハカセはハカセだ!」
「うん、信じてた通り。」
キラキラした目のリリーと、達観したようなミスキスの言葉にジェルでも若干照れ臭いのか、困ったような顔をするのであった。
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