研究所に戻ろう
あらすじ:
元の世界に戻ってきた一行。目指すは基地でもあるミルビット研究所だ。
さて、あたしたちの世界、というか宇宙に戻ってきた高速戦艦シルバーグリフォンだけど、それこそ制御AIのグリフォンが優秀なので、乗ってる人間が何一つ触れなくても黙って研究所まで帰ることができる。
で、寝ている間に太陽系内に――当然なんだけど、恒星・惑星の近くにはワープもリープもできないからね――通常航行で地球の周回軌道へ。別に大気圏突入くらいもグリフォン一機でもできるのだが、異世界と違ってこちらの世界だと宇宙を飛び回っているものの数が違いすぎるってことで、全員がコクピットのついてからの大気圏突入となった。
〈突入ルートを表示します。今のところルート上に障害物は無し。〉
あっても困るけど。
「よし、突入。リーナ、短距離レーダーを注視してくれ。ラシェルは遠距離レーダーを。
ミスキスは今の内にレーダーの見方に慣れてくれ。」
「了解です。」
「オッケー。」
「ハイ。」
あたしたち三人が返事すると、ヒューイが操縦桿とレバーに手をかけたところで、グリフォンがゆっくりと眼下の青い海めがけて降下する。
言われた通りレーダーをじっと見ていたが、何かが接近する様子はない。実に順調だ。
シールド越しに見える灼熱に光り輝く大気もすっかり元の青に戻って、空の青と海の青がなんとも眩しい。
あ~ いつもは気にならなかったが、この眺めは確かに記憶があった。涙までは出なかったが、ちょっとばかり胸が熱くなる。
〈あー そっか。今日はホーネットいないんでしたっけ。じゃあ、適当にジャミングをかけた後、いつものルートに入ります。〉
「はいはい。」
ジェルのいつもの気のない返事とともに、水平飛行をしていたグリフォンが海に向かって高度を落とす。目的地としては、昔は太平洋と呼ばれた広大な海のど真ん中に作られた人工島、いや人口大陸と言うべきか。
その西側にあるポートタウンの更に沖合い。その海に向かってシルバーグリフォンは百五十メートルの機体を突っ込ませるのであった。そう、ポチャン、と。
種明かし、って程ではないし、なんつーかジェルの趣味としか言いようがないのだが、シルバーグリフォンの駐機場所は地下にある。しかも海の中を通った「秘密基地」に向かうわけだ。ジェル曰く「浪漫」らしいが、あたしにはよー分からんよ。
シールドを展開しながら海中へ。ただ宇宙にも行けて海中も行ける、って相当凄いことらしいが。
発進するときはバーン! って海上に出て一気に飛べばいいんだけど、帰るときはやっぱ地味というか何というか。それでも岩盤に偽装された発進口を通り、水を防ぐシールドを突き抜け、グリフォンが通れるくらいの巨大な通路を通ると、巨大な空間に出る。
巨大な空間、とはいうが、さすがにグリフォンが飛び回れるほどではない。それでもその場で転回できるくらいの広さはある。
ここはミルビット研究所の地下。で、その名前の示す通り、ジェルの家を兼ねてるチーム・グリフォンの「秘密基地」だ。
〈無事到着しました。これからメンテナンスモードに入ります。皆さん、長らくお疲れさまでした。〉
……まぁ、確かにね。
地下の「秘密基地」はそれこそ無駄に広い。シルバーグリフォンとその艦載機をすべて収納して整備ができるくらいだから、無駄に広い。普通の車なら走り回れるくらいに広い。なので徒歩の移動はさすがに徒労すぎる。
〈お待たせしました。久しぶりにこのボディはどこか不思議な感じがします。〉
グリフォンの横のハッチを出ると、黄色いスポーツカー――ダッシュパンサーが待っていた。異世界には舗装道路が無いので、ピックアップトラックのボディになっていたのだが、久しぶりにスポーツカーに戻ったのでちょっと違和感があるようだ。
大して持ってきてはいないが、荷物の整理は後回しにして、とりあえずパンサーに乗って移動。そもそもスポーツカーなのであんまり乗れないが、それでも男二人と小柄な女の子三人ならどうにかこうにか。
異世界にも置いた荷物運搬用のホバーとかもあるんだけどね。
広い空間の片隅にあるエレベーター――そういやぁ、こういう文明の機器久しぶりかも――に乗って上の階へ。ミスキスが興奮したようにリーナちゃんに色々聞いて、それに笑顔で答えている。あたしには何言ってるかサッパリだけど。
途中のフロアは吹っ飛ばして、グランドフロア……じゃなくて一階に到着。ちょっと歩けば、ジェルがいっつもウダウダしているリビングに到着だ。このミルビット研究所自体は無駄に広く、それこそ広大な公園の片隅にあるんだが、どこからどこまでがジェルの所有なのやら。多分公園含めた全部なんだろうけど。人が横になれるくらいの大きさのソファが四つあって、真ん中に大きなローテーブル、そのローテーブルよりも大きいテレビ、というかスクリーンが壁際に置いてある。またリビングに面したこれまた巨大な窓には外の緑が広がっている。
……あ、なんだろ。
今すっごい「帰ってきたなぁ」感が出てきた。涙までは出ないが、頬が緩みそうになるのをこらえて、いつも座るソファに腰を下ろす。
「適当に座ってくれ。リーナ、戻ってきてすぐに悪いが、お茶でも淹れてくれ。」
「はい。」
「手伝うよ。」
リーナちゃんとイケメンスマイルのヒューイがキッチンの方に消えていく。手持ちぶさたなミスキスに適当なソファ――いつもはカイルが座っているの――を手で示すと、恐る恐る腰をかける。
で、ジェルはあたしと同じソファの反対側に腰かけると、身体を横に倒して座ると寝るの間くらいのダラけ具合なので、地味に占有率が高い。
「なんかこう、やっと帰ってきましたね。」
「そうね。」
それに関しては全くの同感なので、返事しながらあたしもソファにゆっくりと体重をかけるのであった。
Prologue
...FINISHED
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