今日は寝よう
あらすじ:
夜も更けてきて、今日は色々お開きにすることにした
それこそ話したいことは尽きないらしいのだが、時間の方が尽きてしまった。
具体的に言うと夜も遅くなってしまった。これからは時間はいくらでもあることだし、そして地味にジェルの疲労が溜まっていた。それこそ元の世界でも色々準備して、世界の壁を超えるための計算とか、結構根を詰めていたはずだ。分かりづらいが、ジェルの反応が若干鈍い。
「……疲れましたね。」
ぼそっとジェルの口から呟きが漏れる。まぁ、色々忙しかったのもそうだが、おそらくは人付き合いで疲れたのだろう。忘れかけていたが、本来ジェルはそういうのが苦手だ。
まぁまぁ、と背中を押して居住区の二階に上がり、ドアを開け……
……あ~ 今更ながらそうだったなー と思い出す。
あたしたちがこの異世界に来て、この「雄牛の角亭」を拠点とした最初の夜。ジェルがぽろっと「すぐに帰る方法がない」と言ったことに動揺したあたしを落ち着かせるために、その…… 一緒に寝ること――いや、ホントに寝るだけだったのよ――をしていて、なんか止められなかったわけで。そんなわけで二つあるベッドの片方は荷物置き場になってしまって変わっていない。なんかこー ジェルの胡散臭い道具が置いてあるので、アイラにも片付けようが無かったんだろう、と思うことにする。
「すみません、先に休ませていただきます。」
と、もそもそと着替えをすると、ベッドにもぐりこむジェル。ホント人前で隙というか、油断しているところを見せない奴だ。……つーか、あたしの前ならいいんかい。う~ん、信頼が重い、なのか。
考えても仕方がないし、ジェルはジェルですでに寝息を立てているな。起きていてもこっちを覗くことは無いだろうから、素早くパジャマに着替えると……
もう一つのベッドを片付ける気にもなれず、少し悩みつつもジェルが半分空けてるベッドに入る。
伸ばした腕に頭を預けて、ジェルに身を寄せた。グリフォンに戻れば個室があるし、元の世界のジェルの研究所にも私室があるから普通に一人寝だったし、そんなに気にならなかった、と思う。
でもこうやってそばにいると、それはそれで落ち着くところが。ドキドキすらしなくなっているっていうのが、末期的というかなんというか。他の子たちはどうなんだろうね? とちょっと考えてしまう。気のせいかもしれないけど、最近ジェルへのスキンシップが増えてきた気がする。それでジェルがどうこうなるとは思わないけど。
「……起きてる?」
「寝てますよ。」
「起きてるでしょ。」
まぁ、あたしが入り込んでもグーグー寝てるような奴じゃないからね。
「…………」
無言でわき腹をつついて催促をすると、面倒くさそうな雰囲気を醸し出しながらも、身体ごとこっちを向いて、反対側の手であたしを優しく抱き寄せる。
「なんか話をして。」
「私も眠いんですがねぇ……」
とは言いつつも、邪険にしないのがジェルのいいところだ。元の世界に戻ったときは、ジェルはジェルで忙しくてほとんど顔を合わせる機会が無かったので、こういうお喋りは久しぶりな気がしないでもない。ちょっと雑談が途切れたところで、ジェルが話題を変える。
「とはいえ、こちらに戻ってきたとはいえ、何をしましょうかね。一応世界も救っちゃったみたいですし。」
「スローライフ、とか?」
何となく思いついた単語を言ってみる。
「それも何をしたらいいのか良くわかりませんな。」
照明は消えているので真っ暗の中ジェルの顔は見えないが、どこか途方に暮れたような笑みを見せているような気がした。
ジェルの場合、意外と自発的に動くのって苦手なんだよね。しばらくは持ってきた資材で「雄牛の角亭」を魔改造してまたアイラに呆れられるんだろうけどさ。
「しばらくダラダラして、それでどうしても何かしたくなったら考えたらいいんじゃない?」
「私、これでもずっとダラダラする自信ありますがね。」
「大丈夫大丈夫、きっとその頃にはなんだかんだで巻き込まれるハメになるから。」
少し楽しげに言うと、どこか苦々しい声が返ってくる。
「嫌な予言ですね。」
しかも間違いなく当たりそうな気がする。それにスローライフってあたしもよく分からんけど、そこに至るまでは色々頑張らなきゃならないもんじゃないの?
「……まぁなるようになるでしょうね。」
「そうだそうだ。」
なんて言ってると、あたしもボチボチ眠気に襲われてくる。ジェルの声が少しずつ遠くなってくる。
「今度はちゃんとアイラに断ってから、改築をするとしますかね…… ん? ラシェル? ラシェルさん?」
はいはい、聞いてる聞いてるよー
軽く揺さぶられるような感覚があるが、その微妙な振動が更になんか…… 気持ち…… 良くて……
意識がふわふわしてくると、ジェルが小さくため息をつくのが聞こえた。
(全く…… 人を散々寝かさなかった癖に、自分がさっさと寝ちゃいますか。)
頭をさわさわと優しく撫でられるような気がしつつも、意識はゆっくりと闇に落ちていく。
(やっぱり少し本気で考えないといけないんですかね……?)
多分そんなことを言ってた気がする。
MISSION:異世界に再び降り立とう
...MISSION COMPLETE
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