色んな人と話をしよう(その4)
あらすじ:
夕食も終わって、やっとアイラとゆっくり話ができた
昼と違って夜は人が減ってるかな、と思ったら、仕事があると王都に帰ったギルさんくらいかな?
王女ズも獣人の商人ズも食卓を囲んでいる。領主様と、のんべえのおっさんは言わずもがな。
「うめぇ!」
「おいしい!」
「おいしいの!」
久しぶりのシャウトに何故か安心する。
そして久しぶりの味だ。
それこそ二週間くらいしか離れてないはずなのに、こちらの世界の食事の味が懐かしい。ホントに何が違うんだろうな。……魔素って奴か?
疑問に思ったところで答えが分かるわけでもない。美味しいものは黙って食べるのが礼儀であろう。うむ。賑やかしい夕食に最後はデザートもついて終了するのであった。
王女たちは(旧)領主館へ。獣人の商人たちは今日は「雄牛の角亭」に泊まるのだが、なんか色々疲れたらしく、とっとと部屋に上がって行った。
「改めて、お帰りなさい。」
夕食が終わって一息ついたところで、アイラがあたしとジェルのテーブルに座ってきた。
それだけ言ったはいいが、次の言葉が思いつかないのか、しばらくあたしたちを交互に見て、悩んだ顔をする。
「ぶっちゃけると、ジェラードさんの顔を見たら思いがあふれ出して色々言うんじゃないかと思ったんだけど、そうでもなかった。」
どこか当ての外れた様子で、アイラがため息をつく。
「それはほら…… あたしたちが間違いなく帰ってくると信じてたからじゃない?」
「ああ、そっか。」
アイラが口の中で、そっかそっかと繰り返す。
「でもやっぱりアレなの? 元の世界に戻ったら、あたしたちのことは忘れかけた?」
「いやぁ、」
ジェルが疲れたような声を出す。
「正直言うと、忙しすぎて何も考えられませんでした。グリフォンの機体のチェックから、ミスキスの体調チェックに、資材の調達、跳躍データの精査等々。」
そういやぁ、ミスキスの相手はずっとあたしがしてたっけ。根を詰め過ぎないようには気を付けていたが、ずっと研究所の地下にこもっていたはずだ。
「申し訳ないですけど、約束をした以上、是が非でも戻らなきゃなりませんし。自分でタイムリミットを決めちゃったんで、準備不足ではあったんですよね。
正直に言えば、ひと月くらいにしておけば良かったと後悔しています。」
ジェルが本気のため息をつくが、アイラがムリムリムリとぶんぶんと首を振る。そして意外と揺れた。ちっ。
「十日くらいって言ってて結局二週間ギリギリになったじゃないですか。あれでも結構…… 寂しかった、です。」
「それは…… その、心配をかけたようで申し訳ございません。」
ただね、言い訳じゃないけど、ジェル凄い頑張ったんだよ。多分アイラもそれは分かってたんだろうからそれ以上は言わないようだ。
「まぁ、リリーのために約束通り帰ってきてくれたからいいです。」
……あれ? なんか違和感があるぞ。
何がおかしいんだ?
さっきの会話を思い返して、おかしいところは無くて…… いや、無いんか。
ちょいちょいと指先でジェルの注意を引くと「何か?」という顔をするので、ちょっと耳元に口を寄せる。
(翻訳魔法かかってるの?)
(ええ、さっき。)
後でもう一回聞いたら、さっきダンジョンコアの人と話しているときにかけてもらったんだとか。え? そんな簡単にかけられるものなの? とは思ったが。……こっちの世界に来たら常時かかっているあたしが言うのもなんだけど。
「あ、ジェラードさん。一つ聞いていいですか?」
あたしたちの「内緒話」にちょっと不満げな顔をしながらも、アイラがそんな風に聞いてきた。
「なんでしょうか?」
「その…… これからどうするのかな、って。」
「これから……」
まぁ、あたしは情けない話だが、基本ジェルと一緒に行動していないと生きていけないわけで。とりあえず行き来できるようにしたいとは言いつつも、こっちに戻ってきてからの行動方針はあるんだろうか。
「何しましょうねぇ? 差し当たりは…… また住環境の整備でしょうか。」
ジェルの言葉にアイラがまた遠い目をする。
「まだ何かあるんですか……」
「あ、いや、ここは大体終わってますからねぇ。」
虚ろな深淵をアイラの瞳に見たのか、慌てて訂正をするが、アイラの追及は止まらない。
「ここ『は』、って他はあるってことですか?」
「それは否定しませんが。……ところで、両隣の建物で、コアの人の手を借りたい、って聞きましたが。」
「あ~……」
逆質問にアイラが気まずそうに視線を逸らす。
「何といいますか…… お隣の宿舎?に、結構な人が入るみたいで、管理とか頼まれたんですけど……」
さすがに人手が足りない、と。使える戦力は三人娘とリーナちゃんってところだが、そうなるといつかの海みたいに出かけられなくなるし、キューブに任せるのも限界がある。
なので、もう開き直って、隣の宿舎?までダンジョンの勢力範囲にして、頭が球体のメイドさんの手を借りよう、と。
「領主様も同じような感じですかね。
とりあえず、こちらに戻ってきてのやることはそれにしますか。」
それこそ領主のジェニーさんとか宮廷魔術師のギルさん、あとは都市騎士や騎士団の皆さんとも話をしないといけないんだろうなぁ。
とりあえず、チーム・グリフォンの異世界再スタートはそこら辺から始めるとしよう。あ、うん、あたしは大して何もしないんだけどね。
お読みいただきありがとうございます
もう少しでこの章も閉じて、次の話に進めたいのですがプロットが……(遠い目)