色んな人と話をしよう(その3)
あらすじ:
片付けの邪魔者扱いされたジェラードとラシェルは「地下」に向かう
(あの領主は人使いが荒い。)
と、人でもないダンジョンコアがボヤく。
相変わらずのぼんやり光るローブ姿の上にドローンの形の「頭」が乗っかっている姿なんだが、なんか見慣れてしまった。ただ「雄牛の角亭」の地下迷宮の一室でテーブルを囲んでいるのだが、空気椅子状態なのはいつ見てもなんかハラハラする。実体じゃ無いから足がつるとかはしないのは分かるだけど。
(む、お茶が切れたな。)
コアの人が首を軽く振ると、どこからともかく現れたメイドさん――でも頭が白い球体――が空いたカップに紅茶を注いでくれる。
……これも久し振りだったけど、意外と驚いていない。いいのか自分。
(さて、我に頼みとはなんだ?)
「先に聞きますが、私の言葉は分かるんですよね? というか、私もあなたの言葉は分かるのですよね。」
(うむ、良いところに気づいたな。我は音声で言葉を交わしているわけではない。念話というか、そういう幻術と思ってくれても大差ない。)
「なるほどねぇ……」
と、またジェルが一人で納得している。
さて、なんであたしたちが地下でドローンヘッドと対話しているかというと、あたしたちの帰還祝いかな? それを昼間からやってたわけだが、皆それなりに忙しくて午後にはお開きになった。その後、その片付けが始まったのだが、店主のアイラに戦力外通告を受けた。ぶっちゃけると邪魔と言われた。
外に出るのも面倒だし、元々ジェルが用がある、と言っていたので、二人して「雄牛の角亭」の地下にあるダンジョンに潜って、ダンジョンコアの人と紅茶を飲んでいる。
(何が分かったのだ?)
「いえ、なんか私、魔素が人よりも多く、魔法にある種の耐性あるようでして。
そうなると何故翻訳魔法はかかっているのか、という疑問がありましてね。」
(なるほど、それは興味深いな。後で詳しい話を聞こう。ただ、頼みとやらはそれとは別なのだろ?)
「ええ、具体的には三つ。
翻訳魔法を私も含めて三人ほどかけていただきたい、と。さすがに面倒でして。」
ジェルは片言レベルで話せて、聞く方はまぁまぁ聞けるのと、通信機の翻訳機能でどうにかなるんだろうけど……
「……ニュアンスがちゃんと伝わらないと、身の危険を感じましてねぇ。」
独り言のつもりで言ったんだろうけど、運良くか運悪くか聞こえてしまった。ああ、うん、確かに危機感はあるかもね。
(良かろう。我に頼んだのは賢明だな。どちらかというと我の方の技術であるからな。)
「それは助かります。後は、一つ地下に装置を置きたいのと…… あと勢力範囲ってどこまで広げられますかね?」
(装置はよいが…… 勢力範囲とな。)
「ええ。」
と、ジェルがバーチャルディスプレイを開く。町の周辺の地図で…… おっと、この山は……?
(なるほど、お前らの乗ってきた天翔ける船、という奴だな。)
そうそう。シルバーグリフォンが駐機している山の中の基地だ。
「そこまで地下のように通路を伸ばしたいのですよね。」
(なるほど。我の管理下になればダンジョン構築の要領で、ということだな。)
「その通りで。ここを作るだけでも結構な手間だったので、そちらにお願いした方が早いかな、と。」
(……なるほど。それは急ぐのか?)
おや? コアの人が微妙に想定外の返答をしてきたぞ。アゴらしきところ――ドローンヘッドだから分からんけど――に手をかけると、どこか悩んだ表情をしたんだと思う。
(うむ、実はな、領主と店主の娘にも「手」を貸して欲しいと言われておってな。色々調整中なのだよ。)
「へぇ。」
何でも使うジェニーさんはともかく、アイラまでコアの人を頼るとは想定外だ。
聞いたところ、隣にできた建物が、例の都市騎士や姫様直下の騎士団の人の宿舎だそうだ。で、一部食事の準備や建物の清掃を「雄牛の角亭」で担うことになったそうで。最初は箱型汎用作業機械でどうにかできるかと思ったそうだけど、カイルがノリノリで設備を充実させたことにより「人手」が足りなくなりそうで、いっそのこと、とコアの人の力を借りることにしたそうだ。ジェニーさんもざっくりと同じで、「雄牛の角亭」の反対側の隣の「領主館」の維持というか、こっちは警備に手を借りたいそうで。
(その為、三棟まとめて地下のダンジョン化を広げておってな。)
なるほど。建物の資材づくりとかもあって、忙しかったようね。
「まぁ、それに関してはこちらは無理に急ぐものでもないので、のんびりと。
ただ、装置の設置の方は早いに越したことがないのと、それこそ三棟まとめてのエネルギー問題が関わるので、ご検討願います。」
(理解した。これくらいなら調整は容易い。……なるほど、こういう機構か。詳しいことはまた後で聞くとしよう。)
大体話がまとまったところで、コアの人からあたしたちの世界のことを聞かれた。それも交えて雑談をしていると、頭が白い球体の執事服の何かがコアの人に近づいて、ドローンヘッドの側面というか、耳元?に顔?を近づけて、何事かを伝えると、ドローンヘッドが上下に揺れる。
(店主の娘より、夕餉の時間の伝言だ。)
おりょ、もうそんな時間か。
「詳しいことはまた伝えます。とりあえず、あの二人に頼まれたことを優先してください。」
(あいわかった。)
ドローンヘッドのコアの人と、白球体頭のメイドさんと執事に見送られて、あたしたちは「雄牛の角亭」のダンジョンを後にするのであった。
お読みいただきありがとうございます
……さて、方向性がまだ定まっていないぞ☆




