待ち構えられよう
あらすじ:
シルバーグリフォンから降りてパンサーでハンブロンの町へ向かった。町の入り口でみんなが待っていた。
「おかえりー。」
「おかえりなのー。」
さすがに人が多すぎてハンブロンの町の門の前でパンサー2(仮称)を止めて降りたところで、早速二人の女の子に抱きつかれる。
リリーと、ルビィことルビリア王女だ。
「はいはい、ただいま。」
二人の頭をうまいこと撫でると、そのままギューッとしがみついてくるが、続いてジェルが降りてくるとそっちに向かっていったので、女の子の心変わりは早い。
「ハカセ―!」
「ジェルさん!」
あたしの時よりも感極まった感じでジェルに抱き着く二人。ジェルも微妙にどうしたらいいか分からない顔をしていると、その前にすっとアイラが立った。
「お帰りなさい。」
「……はい。」
凄い通じ合っているような笑顔にアイラに、どこかジェルが疲れたような顔(分かりづらいけど)で返す。
傍から見るといい雰囲気というか古女房的な雰囲気に見えるが、なんつーか、ジェルを見ていると、戦々恐々って感じなので、実は全然違う。
さて、ややこしくなる前に助け船を出そうか、と思う前に動いた人がいた。
「急にいなくなってゴメン。」
「ミス姉ぇ!」
「ミスキス!」
さっきまでちょっとパンサー2を降りるのを躊躇っていたのだが、意を決して出てきたミスキスが、リリーとアイラにペコリと頭を下げる。
そのまま顔を上げないので、怒るべきか安堵すべきか色んな感情がごちゃ混ぜだった顔のアイラも、少しずつ表情が崩れてくる。さすがに涙を流すのは我慢できたようだが、ミスキスを起こして抱きしめると、その肩に顔を埋める。
「おかえり……」
「うん。」
おお、美しい光景、と思いつつも、さすがにここでみんなで固まっているのは、それこそみんなが色々準備しているんだろうことが困るんじゃなかろうか。
「そうだな、アイラ嬢。感動的な姿ではあるが、我々の出番を忘れてはいないかね?」
「あ……」
我らが領主様のジェニーさんの声に、アイラの動きが止まる。
それなりに芝居がかった段取りがあったんだろうが、想定外の事態でスケジュールが押しているんじゃなかろうか。
「とは言うが、別に急ぐわけではないからな。
ただまぁ、君たちの気持ちも分からないではないが、彼らの帰りを喜んでいるのは君たちだけではないからな。」
そこでジェニーさんの目があたしたちに向くと、口元に笑みを浮かべる。
「ちゃんと戻ってくると信じていた…… と言いたいが、気が気じゃなかったよ。それこそ星が落ちてくるよりも不安だったよ。」
どこか真剣な声音のジェニーさんに、仕方がなかったとはいえ、随分と心配をかけたようだ。
「まぁ積もる話もあるだろうが、外で立ち話というのもなんだな。懐かしの『雄牛の角亭』に向かおうではないか。」
ジェニーさんがそんな風に言うと、門の前に集まっていた人たちがゾロゾロと移動を始めた。残されたのはあたしたち(+三人娘+ルビィ)とジェニーさんくらいで。あれ? って思ってたら、ヒューイとリーナちゃんはその群衆の中に密かに入っていて、素知らぬ顔で立ち去っていた。裏切者め……
「ようこそ、ハンブロンの町へ。」
出るときに約束したように、門番のバモンさんに迎えられて、町の中に入る。
雪の消えた道を歩き、最初に来た時のことを思い出す。あの時はとりあえず町の中に入ったけど、お金もなく、泊まる場所もあてもなく、途方に暮れていたような気がする。
そしてジェルが、普通は聞こえるはずもないアイラの悲鳴を聞きつけたことで、あたしたちの異世界生活が始まったわけだ。
「?」
そう、こんな感じでジェルが不意に足を止めて…… って、何事?
ジェルが「雄牛の角亭」の方を向いて、足というか動きが止まっている。
いや、ホントに何ご…… はぁ?!
「いつの間に……」
珍しく驚いたような声を出すジェルに、前を並んで歩いていたジェニーさんとアイラが同時に振り返って、してやったとばかりの笑顔を浮かべる。ジェルの両腕にぶら下がっていらリリーとルビィも、とった腕をぶんぶんと振って嬉しそうだ。
まぁ、具体的に言うと「雄牛の角亭」の周囲って建物がなかったのだが、あたしたちがちょっといなかった間に建物が増えていた。
片方は何というか、アパート的な、宿舎的な建物。もう片方はお屋敷的な感じだろうか。
宿舎的な方はもう出来上がっていて、揃いの服を着た人たちが出入りしているのが見える。お屋敷的な方は形は出来上がっているが、まだ内装や外装が不十分なのか、大工さんっぽい人が作業をしている。
いや、ホントにいつの間に。だって材料とか人手とか…… あるな。図面とかも引けるのいるし。やろうと思えばできるが、できるだけどさ、ホントにやる? それこそジェルが好き勝手に改築されたときのアイラがこんな気持ちだったのかもしれないが。
「驚いただろ?」
ジェニーさんがしてやったとばかりに満面の笑顔を見せる。
「戻ってきたばかりでのんびりしたいと思うだろうが、色々伝えなきゃならないことがあるのは勘弁してほしいかな。」
その割には楽し気な顔をしているジェニーさんに続き、アイラも笑顔を浮かべる。
「でもまずはごちそう作りましたので、みんなで戻ってきたお祝いをしましょうね。」
「仕方ありません。素直に歓迎されるとしますか。」
素直じゃないジェルだが、そう言うくらいの気遣いはあったらしい。微妙に歩みが遅いジェルの腕を二人の少女が引っ張っているので、あたしは白衣の背中を押して「雄牛の角亭」に放り込むのであった。
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