迫る敵
あらすじ:
戦闘ヘリブラックホーネットのセンサーが、海の国ワワララトに迫る飛行物体の挙動を感知した
〈……あれ? 例の降下艇、北に向かっている……?〉
宙賊の可能性が高い宇宙船の挙動をキャッチした戦闘ヘリのブラックホーネット。アクティブ(能動的)レーダーは感知の危険があるので使えない。それでも向こうは自分たちの脅威になるものがいないと油断しているのか電波を出しまくりなので、その行動を大まかに捉えるのは難しくない。
実際のところは遠く離れた地なので、詳しいことまでは分からない。それこそ、地上に降りた宙賊たちの行動までは把握できていない。仮にそれが分かっていたら、ここまで傍観はせずにもっと早くアクションしていたのかもしれない。でも今更の話ではある。
〈このまま進むとしたら、ワワララトに着いちゃうよね……〉
相手の善悪が分からない。仮称宙賊としていたが、もしかしたら異世界に迷い込んだ民間船かもしれない。
〈出撃してもいい?〉
箱型汎用作業機械を通じて、予想航路や到達予定時間を「雄牛の角亭」にいるヒューイとカイルに提示する。あまり時間的余裕はない。
〈というか、出撃させて。〉
『……プランは?』
〈ステルス全開で接近。「敵」の分析の上、銀河連合警察として警告。その後の対応によって臨機応変で。〉
『…………』
『悪くない。というか、今の最善手じゃねぇか?
懸念はいくつか。二つの意味で言葉が通じるかどうか。後は、俺たちも含めて逃げ切れるかどうか、だな。』
ヒューイの沈黙の間にカイルが割り込んでくる。
〈……結構責任重大?〉
『そうだな。でも、向こうの姫さんのことが心配なんだろ?』
〈うん、そうだね。〉
そこは否定しない。いや、否定できない。
『好きな女の為に身体を張るのは男のサガってもんだ。ヒューイもそれでいいよな?』
『……さすがに向こうがここまで近づいてきたらアクションせざるを得ないか。』
『ああ、これ以上はタイミングを見極めてる余裕はない。』
勘だけどな、と言うカイルだが、こういう時は外れない。そこは戦闘のプロだからなのだろう。
『いつものように自分の命を大切にだ。自分と誰かの命の二択になってる時点で負けだからな。男なら自分も誰かも救え。』
〈うん……〉
カイルの無茶振りが炸裂するが、これはチーム・グリフォンの中の共通認識だ。誰かを守るために自分が命を落としては本末転倒だ。
『通信は必要最低限、もしくはデータパケットで。いつかはバレるだろうが、ハンブロンの町を可能な限り知られないようにな。』
〈それはもちろん。
じゃあ、行ってくる。〉
最終確認をヒューイから告げられると、戦闘ヘリブラックホーネットは自分のローターを回転させるとゆっくりと上昇する。
静音モードにして、この時点で分析済みの向こうからのレーダー波の逆位相を同じ出力――今の段階ではまだ微弱ではあるが――しながらギリギリまで高度を下げて飛ぶ。
最高速は出せないが、このまま進めば三時間くらいで海の国ワワララトまで飛ぶことができる。そこには姫巫女と呼ばれる少女がいる。ホーネットにとっては彼女は何物にも代えがたい大切な存在だ。彼女もそうだが、彼女が好きなあの国を守りたい。
気がはやって速度が上がってしまいそうだが、隠密行動の為に必死に耐えて飛ぶホーネットであった。
「大丈夫、なのでしょうか?」
ハンブロンの町の「雄牛の角亭」。
先ほどのホーネットとの会話を聞いて、この町を含むコンラッド王国第一王女――何故そんな人がどうしているかは既出なので割愛――のサフィメラが心配そうな顔でヒューイとカイルに尋ねる。
ジェラードにラシェル、アイラにリリーがいない「雄牛の角亭」は何とも静かであった。全員まとめて「異世界」にシルバーグリフォンごと行って不在だ。実際はグラディンとカエデの獣人の商人たちも行っているんだが、たまにしかいないので普段の賑やかさにはあまり貢献していない。
その静けさが更に不安を掻き立てる。
少し考えたところで、ヒューイが首を振る。
「誤魔化してもしょうがないから言うが、ワワララトに不明な飛行物体が到達しそうになっている。今ホーネットが向かっている。」
「最悪の事態を考えたらキリがないが、一番の解決法はグリフォンが戻ってくることなんだよな。」
カイルが言葉を続ける。
それこそチーム・グリフォンの母艦であるシルバーグリフォンさえいれば済む話だ。それ自身の戦闘能力もそうだし、ヒューイやカイルの装甲服、その他の追加武装も搭載しているので、実にタイミングが悪いと来ている。
更に言えば、こちらから異世界のシルバーグリフォンに連絡をする手段がないので、予定通りに戻ってくるのを待つしかない。
「あと一週間くらい時間が稼げればいいんだがな……」
今回は十日くらいで戻ってくる予定だ。まだまだ戻ってくるまで時間がありすぎる。
そして「敵」が普通に想像できる程度の武装があれば、一日もかからずに王都コンラッドくらいは簡単に壊滅できる。
「そう、ですか……」
二人の表情を見て相当な深刻具合と見てサフィメラが言葉を詰まらせる。
そんな店内の様子に、サフィメラの妹であり、同じくコンラッド王国の第二王女であるルビリアが何かを閃いたような顔をしたのに気づく人はいなかった。
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