宇宙からの脅威
あらすじ:
ハンブロンの町で戦闘ヘリブラックホーネットが宇宙からの反応をキャッチした
(……あれ?)
いつものハンブロンの町の「雄牛の角亭」。ジェラードたちが元の世界に旅立って数日。
必要もないのだが、戦闘ヘリのブラックホーネットは手が空いていれば基本監視業務を行っている。
飽くまでも大気圏内でしか運用できないへりなのだが、そのレーダー性能は母艦のシルバーグリフォンを除けば随一で、惑星上だけでなく衛星軌道上くらいまではカバーできる。
そんなホーネットの大気圏外――つまりは宇宙空間にレーダーが大型の物体を捉えた。
(……グリフォンじゃないよね。)
多分色々ヤバい。そう判断したホーネットは困ったときの優先順位二位(一位はジェラード)のヒューイに通信を入れた。
『なんだって?
……まず、反物質ジェネレーターの出力を必要最低限に。ドローンも休止。レーダーもパッシブに。
電波が出るものをとりあえず止めろ。』
〈了解。
パンサー、聞こえた?〉
《すぐやる。パンサー1で一通り制御を。パンサー2に最新のデータを送信してくれ。》
〈ん、すぐ送る。〉
データをリンクさせながらも、自分でも解析を続ける。アクティブレーダーが使えないが、向こうは隠れる気もないのか、レーダーを周囲に放ちまくっているようだ。おそらく現状把握に手間取っていることだろう。
まずこの世界が電磁波を発生させるような文明がほとんど存在しない。レーダーに引っかかるような構造物も少ない。無論、傍受できるような通信や放送もない。
自分たちチーム・グリフォンが抑えていれれば探知される心配はないと思う。
《南半球に向かってますかね?》
〈僕のスキャンもそんな感じ。〉
《少し時間は稼げるか……》
超短波通信に切り替えたパンサー2。近距離――数キロ程度――でしか使えないが傍受されづらい。そもそも通常通信を傍受されようとも高度な難読化をかけているので問題は無いのだが、相手の素性が分かるまでは「通信している」ことすら察知されるわけにいかない。
(とりあえず打合せだね……)
「雄牛の角亭」の店内に、難しい顔をしたヒューイとカイル、そして青・虎柄・黒・灰色・黄色の汎用箱型作業機械が集まる。リーナは二人の前にハーブティを置くと、少し困ったような顔でヒューイの後ろに控える。
そのどこか張り詰めた雰囲気に店内にいるミスキスとサフィメラ・ルビリア王女姉妹、そして「雄牛の角亭」があるハンブロンの町の領主ジェニファーも息を飲んで見守っている。
「そうだな……」
重々しくカイルが口を開く。
「何かつまむ物ある?」
近くにいるリーナを振り返って、そのままの口調で言うものだから、聞き耳を立てていたギャラリーの何人かが脱力してテーブルに突っ伏す。
「あ、はい。少々お待ちください。皆さまの分も用意しますね。」
と、厨房に歩いていくリーナ。そこでジェニファーが苦笑を浮かべる。
「ツッコミ役がいないと難儀なものだな。」
気の抜けた感じの中、リーナが手早くカナッペのようなものを用意すると、各テーブルに飲み物と一緒に並べていく。
「そうだな……」
さっきと同じ口調だが、皿に乗ったカナッペを半分くらい消費した後だと、ニュアンスも変わるのだろうか。
「…………」
少し視線を上げると、大きくため息をついてから頭をガシガシかく。
「あ~ 説明が難しい!」
ガシガシガシガシ。
肉体労働担当なのでジェラードと違い説明が苦手ではあるが、この中では一番の「戦闘のプロ」なので説明せざるを得ない。
「まず、怖がらせたとしたら謝る。
が、俺の職分として最悪をいつも考えなければならない。」
ここでふぅ~と長めのため息をつく。なかなか言いづらそうだ。
「結論だけ言うと、現在の俺たちの戦力では対抗できない可能性がある。」
普段と大差ない口調ではあったが、その言葉の内容に店内の空気がズン、と重くなる。
「……カイル君。話が何もかも唐突過ぎて、理解が追い付かないのだが、順を追って説明してくれるか。」
「そうだな。
まずはホーネットがこの世界に宇宙から大型の物体が接近するのを察知した。大きさは二百五十メートルくらい。おそらく宇宙船で、グリフォンよりも大きい。」
二百五十メートル、とはいうが、別段大きいわけではない。逆に言うとグリフォンが小さいわりに異常なまでに高性能なだけだ。
「だがこいつは地上までは降りてこない、というか降りてこられない。」
そして超光速航行できる宇宙船は、基本大気圏内に入ることはできない。それこそグリフォンみたいに大気圏内で飛行できる方がおかしいわけだ。
「それでも降下艇という、宇宙を行き来できる小型艇がある。が、これだけでもなかなかの脅威だ。」
宇宙空間に停泊した母艦から降下艇を出して地上へと行き来するわけだ。
民間の船なら武装はついていないが、仮に現れた船が非合法側の存在だとしたら、強力な武装がついている可能性がある。
「油断していたのは否定しないが、全くの想定外だった。迎撃できるか、と言えば正直難しい。だから今は身を潜めて、相手の出方を見るしかない。」
もしかしたら善人かもしれないし、時間さえ稼げればグリフォンが戻ってくる。それまでの辛抱、ということだろう。
「……ただ、覚悟はしておいてくれ。」
久々に見せた「戦闘のプロ」の顔は随分と厳しいものであった。
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