色んな想定をしてみよう
あらすじ:
ルビィに助けを求められて、急いで異世界に戻ろうとする一行。どういう可能性が考えられるだろうか
「シルバーグリフォン、発進!」
〈了解!〉
まだ朝日が昇る数時間前。それこそあたしが深夜に起きてから一時間くらいしか経ってない。
アイラは元より、グラディンさんもカエデもコクピットの席に着いている。リリーは眠気に勝てず、箱型汎用作業機械を椅子代わりにしてグリフォンに搭載し、そのまま艦内の部屋に放り込んできた。
夜の闇を超え、大気圏を抜けると、宇宙の闇に変わる。
「とりあえず通常航行で太陽系の重力圏を脱出。そこからリープで距離を稼いで一気にワープだ。」
〈了解です。が、エネルギーの消費が少し多くないですか?〉
「急ぎたいからね。」
〈了解です。私も頑張るとしましょう。
しばらくは自動航行で行きますので、皆さまは時間が中途半端ですが、就寝されることを推奨します。〉
『それはええんじゃがな、』
グリフォンの言葉に腰を浮かせかけた三人の中でグラディンさんが思い出したように口を開いた。
『なんで急に戻ることになったんじゃ?』
あ、いや、実は、ってあたしがって言いかけたところで、ジェルに目で制される。
「ラシェルがルビリア姫からのヘルプを受け取ったそうです。特に疑う理由も、後回しにする理由も無いのでこうして。」
『そうなのか、ラシェルよ。』
「うん。」
一瞬、考え込むような真面目な顔になると、それこそ作ったような「悪い笑顔」を浮かべる。
『ひょひょひょ、しょうがないのぉ。まぁ、婿殿に頼めばまた来れるからの。それなら姫様に恩を売った方がええのぉ。』
『狸婆さん、見え見えやで。』
『うるさいわい! 主は黙っておれ!』
狸と狐の化かしあいのようなコントにコクピット内の空気が緩む。なんだかんだ言いながらも、この狸のお婆さんはみんなが心配なだけだ。
まぁ、ぶっちゃけたことを言えば、ジェルだけで飛んで行っても良かったのかもしれない。あたしたちが言ったところで何かできるわけではないのだから。
とはいえ、仮に置いていかれて、行く途中または行った先で万が一のことがあったら、と思うと、それなら一緒に行きたいわけで。……一般論として。
とりあえず整理しよう。
ルビィから夢を通して?助けを求められた。あたしたちが異世界から戻ってきて三~四日というところ――あんまり詳しく説明はしていなかったけど、時差的なものがあって、意外と時間は進んでたのよ――か。そんなある意味短期間で何が起きたのいうのか。
……そもそもそこよね。向こうにはヒューイやカイル、それに艦載機たちもいる。
いや、待て。それって……
あたしが分かるようなことだ。ジェルだったらとっくの昔に分かっているはず。
「また向こうに戻ったときに時差が出てしまうことも考えられますので、グリフォンの言う通り寝られるときに寝てください。」
ジェルがそう言うと、後ろの三人が席を立つ。実際に夜中に起こされてそこからずっと起きているので眠くないはずがない。
そしてコクピットの中はあたしたち二人だけになる。
「ラシェルも……」
ジェルがこちらを振り返って言いかけるが、あたしの視線に気づいて小さくため息をつく。
「どこまで想定していますか?」
「分かんない。」
本当にそうだから素直に答える。ただ、ジェルもしくはシルバーグリフォンがいないとどうしようもならない事態…… 一体なんだっていうんだ? 悪い予想しかできないんだけど。
どこか渋い顔をしたジェルが思い出したかのようにグリフォンに問いかける。
「そういえば、世界を超えるときに何か言ってたな? どうなった?」
〈……はい、ワープフィールド内でリープをかけた際に何かしらの質量反応をキャッチしたような気がしました。〉
気がした、とは?
グリフォンにしては妙に歯切れの悪い。
「具体的には?」
〈ワープフィールド内ではまともな観測ができず、ほぼノイズだらけでした。その中で違和感をありましたのでずっと検証をしていましたが……〉
チーム・グリフォンの中でも一番の処理能力を持つグリフォンが言葉を濁している。……何度も言ってるけど、ふつーのコンピュータは「気がした」とか言葉を濁すなんて器用なことできんからね。
「最悪の想定だと?」
〈……質量反応は二百から三百メートル級の艦船と仮定。そのサイズで仮に、私のようにワープ機関とリープ機関を両方搭載していると最悪の事態を想定します。〉
前に言った気がするが、光速を超えて航行する方法にワープとリープがあるが、それを両方積んでいるなんてシルバーグリフォンみたいな常軌を逸した宇宙船以外に基本的には存在しない。
ただ、宙賊みたいな非合法な職業の人たちの宇宙船は、時折信じられないような装備を搭載している場合がある。非合法な手段で入手した試作品とかを無理やり詰んでいる場合があるとか。運が良ければ使えるだろうが、運が悪ければ自滅することだって珍しくない。
〈そしてどんな偶然か、私のリープと同調したみたいな奇跡が起きたとしたら……〉
次の言葉を聞くのは怖かったが、でもそれは私も想像できたことだった。
〈向こうの世界に行ってしまった可能性があります。〉
MISSION:たまに戻ってみよう
……MISSION Interruption




