お出かけしよう
あらすじ:
朝食が終わったあたりで、リリーとアイラが出かけたいと言い出した
『ハカセ! お出かけしたいです!』
『リリー、そんなわがまま言うものじゃありません。けど……』
リリーが元気よく、アイラがリリーを嗜めながらも上目遣いで見つめてくる。
そんな風に迫られて、ジェルがふぅむと唸る。が、あの顔はもう決めているようだな。まぁこの流れだったら出かけないという選択肢はないだろう。
「パンサー、出かけるので玄関前まで。」
《了解。》
その言葉に顔を明るくする二人。わーい! はしゃぐ二人をよそに、アイラが用意した朝食をジェルが素早く食べきる。
「それではお嬢さん方、出かける準備をお願いいたします。」
と、オールタイム白衣のジェルは、中がパジャマでなければ、何時でも出かけられる態勢だ。まぁ、女の子にはやることが多いので、それこそリリーとアイラの様子を後で見に行こう。
まぁ、出かけるとなってもそんなにやることはない。寝室以外では部屋着ってこともなく、そのまま外に出ても困らないくらいには身だしなみは整えているつもりだ。
メイクもそこまでしてないし、後は髪をちょっとチェックするくらいでいいかな?
アイラとリリーは前に持ってきた「こちらの服」なので別に違和感はないと思うが、せっかくだから新しく服を見繕って…… って、あそこ行くしかないかなぁ? 恨まれなきゃいいけど。
リビングに戻る前に二人の部屋(落ち着かないだろうから二人部屋にしている)を覗き込んだが、二人とも問題なさそうなので、大丈夫だろう。
で、戻るとバーチャルディスプレイを開いたジェルが、色々文章をあちこちに送っているようだ。
「聞かれる前に答えておきますが、通販で用意できるものを手配しています。
材料系は純度さえあれば、別段製品を確認しなくてもいいですからね。
後はリーナにも色々頼まれているし、なんかカイルにも…… って、武器ばかりじゃねーか。」
何に使うんだか、とぶつくさ言いながらも手は休めない。もうすぐ出かけるからと、キリの良い所まで片付けたいのだろう。
ジェルが小さく息をついたところで、リビングのドアが開く。
『おまたせー』
『お待たせしました。』
ぴょんとリリーが飛び込んできて、アイラがその後に続く。こうして見ると、普通の町娘、と言うのはおかしいか。ふつーに女の子だね。そういやぁ、十五歳と十七歳だったっけ? 本来ならまだまだ学生なんだよね。
でも異世界なら宿屋をやっていたり、槍を振り回したりしているわけで。
「それではお嬢様方、参りますか。」
『はーい!』
色々楽しみなのかハイテンションのリリーを腕にぶら下げながら、ジェルが玄関から出ると、あたしたちも後を追う。アイラが嬉しそうながらも、ちょっと恨めしそうな顔をする。あたしが言うのもなんだけど、動くなら積極的に動かないとねぇ。
外に出ると高速ホイールカーのダッシュパンサー――これが本来の姿なのよね――が待っていた。何か文句言いたそうな息?が漏れるが、すぐに止まる。
まぁ、待たされた文句を言いたかったのかもしれない。ジェルに呼ばれてから準備をしたので、結構な時間が経ってる。待たされたんで拗ねたんだろうか。ネットワークで常時接続されているAIがそんなこと考えるとは何とも驚きというか不可解だが、今更ではあるが。
〈ええと、皆さんでお出かけなのですね。〉
『そうだよー』
リリーの声にパンサーの声がわずかに弾んだように聞こえた。
〈はい、それではお乗り込みください。〉
左右のドアが自動的に開くと、四人で乗り込んでいく。
ジェルが運転席、リリーが助手席に座ったので、あたしとアイラは後部座席に乗る。ジェルが形だけハンドルに手を乗せると、ゆっくり走りだしたパンサーは、研究所のある公園を抜けると、通常の道路に合流する。
そこには当然だが、形は違えどエアカーやホイールカーが大量に走り回っていた。
『『おお……っ』』
車道だけでなく、歩道にも王都ですら見ないくらいの大量の人が歩いているのにも、異世界の二人は口を開けてポカンとしている。
今更ながら久しぶりに見た街の喧騒はあたしにとっても意外に衝撃的だった。
〈えっと、どちらに向かいます?〉
「いつもの服屋に。」
〈あ、はい……〉
あたしの言葉にパンサーの声のトーンが下がる。
「コンテナキャリア用意してあるから、それを使え。」
〈そういうことでしたら……〉
と、ジェルに言われてトーンが戻る。毎回毎回服屋に行くと荷物が多くて、自分には積めない(基本スポーツカーだからね)ので、ゴネることが多い。まぁコンピューターらしく「できません」で済ませないのがまた以下略なのだが。
十分ほど移動すると、いつもの服屋に到着する。ジェルがちょっと降りたくない顔をしていたが、そこはいつものように強引に引っ張っていく。
いつもの、とは言うが、まぁ自分が買えるようなお値段ではないんだけどね。しかも女性ものがほとんどで、それこそインナーやランジェリーも扱っているんで、ジェルには居心地が悪いんだが、それはそれでいてくれないと困るんだよね。
「は~い、ラシェル。久しぶり~」
入口を入った途端、くぷぷと独特の笑い声とともに、この店の女性店長に捕まった。
と、彼女の目が素早く走ると、後ろにいたアイラとリリーをしっかりとロックオン。
そして次の瞬間、彼女の顔に満面の、そしてゾクゾクとするような笑みを浮かべた。
おおぅ……
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