研究所で落ち着こう
あらすじ:
元の世界に戻ってきたシルバーグリフォン。地球のミルビット研究所に到着した。
『意外と驚きはないもんじゃな。』
びみょーに失礼なことを言ったのは、狸の獣人のグラディンさん。でも今は変身能力とやらで普通の妙齢の美女だ。
何がといえば、ジェルの研究所がある地球に到着したシルバーグリフォン。そのまま大気圏に突入し、ジェルの研究所へと戻る。
太平洋に作られた人工島の海に面した公園。そこに海底から進入して秘密通路を通過すると、メインスクリーンにまさに「基地」としか言えないものが映った。
なのだが、指摘されると確かにそうで、向こうの山の中にある「基地」と大差ないのでこの言われようだ。
まぁ、おいおい驚いてもらうとしようか。
コクピットを出てメインの通路から格納庫の方へ。
〈迎えに来ました。〉
こちらに残してきた高速ホイールカーのダッシュパンサーだ。向こうで頑張っている比布アップトラックやSUVと違い、本来のスポーツカーだ。
『ほぉ、主はあのパンサーか!』
〈そうですね。これが私の本来の姿ではあります。〉
ほぉほぉほぉ、と興味深げに左右のシザードアを開いたパンサーの中に乗り込んでいく。
『待ってや狸婆さん!』
カエデも反対側のドアから乗り込もうとするが、一瞬お尻を押さえようとして手が空振りしている。……ああ、尻尾を押さえようとしたのか。今はないしね。
「いいや、パンサー、エレベーターまで乗せていってやれ。」
〈了解。〉
ドアを閉じて走り去るパンサーを見送ったところで、ホバーボードが四枚ほど足元に滑り込んでくる。
はい、そこの二人。ちょっとガッカリした顔しない。持ってきた荷物は後で箱型汎用作業機械に運ばせるから、とりあえずリビングまで移動だ。
先に行っちゃった二人がエレベーターのところで待っているが、何か釈然としない顔をしている。まぁ知らない人から見たら壁なので、そう思うのは仕方が無かろう。
あたしたちがついてホバーボードを降りると、気づいてグラディンさんとカエデがこちらを振り返る。
『なぁなぁ、行き止まりなんか?』
「あ、カエデさん。壁から離れてもらえます?」
『へ?』
ピン、と小さな電子音がすると、ちょうどカエデが寄りかかっていた壁――実はエレベーターの扉――が開いて、そのまま傾いて倒れそうになる。
『な、なんや!』
どこかを揺らしながらもダンダンダンと足音勇ましく鳴らしながら、四角い空間の中に入っていく。
貨物運搬用のは別にもあり、こっちは飽くまでも人員用だが、それでもパンサーが入れるくらいの広さはある。
とはいえ、部屋として考えると窓も無いので殺風景この上ない。
『……しかし変な部屋じゃの?』
首を傾げる異世界組をよそに、ジェルが小さく何かを呟くと、部屋自体が小さく揺れると身体が重くなるような感覚が起きる。
と、十数秒くらいで揺れが収まると、反対側の壁――ドアが小さく開く。
『『おおっ?!』』
到着したのは一階のフロア。それこそ片面が丸々(強化)ガラスの風光明媚なリビングだ。見える風景は都会とは思えない緑豊かな公園である。
「こちらが私の家……を含めた研究所です。ちなみに見える範囲の緑地が丸々敷地となります。」
ジェルの説明にもはー、とかほーとか、驚いたようにガラスにへばりついて外を眺める人たち。
これに関して言えば、確かに「雄牛の角亭」と比べるとこちらの光景は確かに凄いとは思う。その間にジェルは定位置になっているソファに腰を下ろすと、他の人の目もあるからと横になるのは後にするようだ。
「博士、お帰りなさいませ。」
そんなジェルの所に一人のタキシードをかっちり着込んだ初老の男が声をかける。ロマンスグレーの髪をオールバックにして、同色のカイゼル髭をキッチリと整えている。
彼、というか、このおじ様はこの研究所に務めている?執事だ。
まぁ、なんでいるのか? と言われると、あたしもよく分からない。あたしがここに出入りしたころからいるからなぁ。
「ラシェル様もお疲れ様です。
それと…… グラディン様、カエデ様、アイラ様、リリー様、でお間違えございませんでしょうか?」
外を眺めていたり、室内の調度を眺めていた四人が自分の名前を呼ばれて振り返ると、見知らぬ「執事」がいて驚いた顔をする。
「名乗らずに申し訳ございません。
私、この研究所で執事を務めておりますセバスチャンと申します。以後、お見知りおきを。何が御用の際には是非お声がけの程を。」
四十五度腰を折るセバスチャンに釣られてアイラがペコペコ頭を下げる。
「アイラ様はリーナお嬢様の代わりに、こちらの家事をやっていただけると聞いております。キッチンに案内してよろしいでしょうか?」
『あ、はい、よろしくお願いいたします。』
続けてペコペコしながらセバスチャンについていく。
「まずは皆さん、適当に座ってください。
これからのことを説明しますので。」
と、ジェルの言葉にグラディンさんにカエデ、そしてリリーが空いてるソファにそれぞれ腰かける。あたしもジェルの隣に少し間を開けて腰を下ろす。
一瞬こっちに視線が向いたが、気にしないことにした。
『はい、お待たせー』
少ししてセバスチャンがワゴンを押してくると、紅茶の香りと一緒にアイラがリビングに戻ってくる。
こうして、久しぶりの里帰り……になるのかな? は始まったのであった。
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