世界を飛び越えよう
あらすじ:
異世界から元の世界に向かうシルバーグリフォン
ただ、一つだけ気がかりが……?
ワープ中の「外」はなんつーか、安定しない。長時間眺めていると人によっては気分が悪くなるだろう。こー 怪しいクスリをキめたらこういうのが見えるのかもしれない。
なのでわざわざ見る必要もないのだが、とりあえず「眼」を切り替えて、メインスクリーンを注視する。
まぁなんだかんだで役立っている魔力とか魔素が視えるのだが、宇宙空間にも魔素があり、世界の壁が薄いところ(概念的に)に向かって流れが見えることがある。
「……と、こんな感じ?」
スクリーンにあたしが視えた魔素の流れを書き込んでジェルに投げる。
「前はヒューイの勘にも頼ったんでしたっけね。……どうだ、行けそうか?」
〈向こうのビーコンの電波を捉えました。デコードも成功。リープドライブ臨界。
百十秒以内に指示をください。それ以上はワープフィールドを維持できません。〉
「ん、分かった。
というわけで、世界の壁を越えます。これが考え直す最後のチャンスですが、よろしいですか?」
「うん、いいよ。」
「お任せします。」
「儂は構わんよ。」
「ええで。」
打てば響くような返事にジェルが困ったようにこっちを振り返る。いつものように小さく首を振ってから、視線で前を示してさっさとリープするように促す。
「……よし、元の世界に向かってリープ!」
〈ラジャー(了解)!〉
メインスクリーンが暗転すると、なんかドン、って感じの衝撃を感じると、さっきと同じようなサイケデリックな風景に変わる。
〈リープアウト完了。
ワープ空間より通常空間に復帰します。
研究所からのシグナルを確認。どうやら我々の世界に戻ってきました。〉
というグリフォンが、次に聞き覚えのない言葉で何事かを言うと、後ろの席から驚きの喚声が上がる。……が、何を言ってるかさっぱり分からない。
ああ、あたしたちにかかっている「翻訳魔法」が魔素がないために消えて、お互い言葉が通じなくなってしまったわけだ。
頭?にケースを載せた箱型汎用作業機械がどこからか現れて、後ろの四人の所でケースを開く。
そこにはヘッドセットのような…… いや、ヘッドセットか。それが四つほど入っている。
グリフォンが(またあたしたちの分からない言葉で)なんか説明すると、四人がそれを手に取って頭に装着する。
ああ、言ってなかったけど、グラディンさんとカエデは獣人の変身能力とやらでケモミミをヒトミミに変えた姿になっているので、慣れてない人の耳に合わせてヘッドセットをどうにかこうにか取り付けている。
〈これで私の言葉は分かりますか?〉
『……そうじゃな、時間差が少々気になるがちゃんと分かるな。』
グラディンさんの声が、その声音と口調を再現した(おそらく)音声合成で聞こえてくる。確かに多少口の動きと声に違和感があるが、翻訳機を使っているって分かればそんなにおかしいことではない。
あ、ちなみにあたしたちの世界でもこういう翻訳機ってあるのよ。一応、銀河共通語ってものはあるけど、意外と閉鎖的なコミュニティもあって、銀河共通語が使えない人も珍しくない。なので意外と需要があるんだよね。それの異世界語版ってことだ。
「まぁ、ミスキスの時に急いで作ったのを手直ししましたのでね。」
『ああ、そっか。ミス姉ぇが……』
リリーの声が若干遅れて聞こえる。
というか、サンプルはあったんだろうけど、口調までうまく再現されているなぁ……
『はぁ、よぉ分からんけど、さすがジェラードはんなんやろうなぁ。』
『まぁ、そこはジェラードさんだから……』
誰が喋っているか分からないかと思ったら、タイムラグさえ除けば全然問題なさそうだ。無駄に高性能なこって。
「さて、これから私の研究所……家に戻ろうと思います。まずはそれからで。
グリフォン、発進!」
〈……了解。〉
通常航行――じゃなくて反重力エンジンで加速を始めたみたいだが、気のせいかグリフォンがどこか口ごもっているように聞こえた。
いつも言ってるから聞き飽きたかもしれないけど、口ごもるAIっていないからね。
「どうした?」
ジェルも気づいたようで、聞いてみるとどこか不安げというか自信なさそうな声が返ってくる。
〈今解析中ですが、何かいたような気がします。〉
「何か?」
〈ええ、何かです。ワープ空間ってノイズが多いので、気のせいと言いたいのですが、どうも気になりまして……〉
コンピューターが気のせいとか、気になるとか言うんだからなぁ。
「重要度は?」
〈それすら不明です。もう少し解析が進めばどうにか、と思うのですが。〉
「…………」
少し考えるジェルだが、後ろからの視線を感じて首を振る。
「とりあえず研究所まで戻るとしよう。解析は進めておいてくれ。とりあえずワープ準備だ。」
〈了解!〉
その後、シルバーグリフォンは二度のワープで太陽系周辺に到着。第三惑星である地球に向けて航路をとる。
〈前方、地球が見えてきました。
これから大気圏に突入します。〉
メインスクリーンに映る青い星が少しずつ大きくなってくる。
あの世界の「地球」とはなんか違う色合いに、やはり違う世界なんだな、と思うと同時に「帰ってきた」ことを実感するのであった。
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