出発しよう
あらすじ:
ジェラードたちの世界に戻るためにシルバーグリフォンが発信した
「シルバーグリフォン、発進!」
〈了解!〉
山をくりぬいたドッグで高速戦艦シルバーグリフォンがふわりと宙に浮く。そのままクルリと向きを反転させると、真っすぐの通路に機首を向ける。
……ってさ、なんでわざわざ方向転換させるんだか、って聞いたら『なんかそれっぽくないです?』と謎の答えが返ってきて諦めた。
通路の先にある壁が開き、外の光が差し込んでくる。
〈シルバーグリフォン、発進します!〉
そのまま通路を駆け抜け、陽光の元へ。そこから急上昇をかけると、空の青を追い越して、宇宙の紺、そして黒に色を変えていく。
一度乗ったことがあるアイラとリリーはそうでもないが、今回初めて乗った獣人ズは最初から興奮しまくりだ。
「こりゃ、凄いのぉ!」
「うっわ、地面があんなに小さく見えるわ!」
と、こんな感じだが、いわゆる宇宙空間に出ると、二人の騒ぎもぴたりと収まった。
「これが…… 儂らのいる世界か。」
「こないして見ると、思ったよりちっぽけなんやなぁ……」
メインスクリーンに映った後部カメラの画像――この世界の「地球」にあたる惑星の青さに言葉が少なくなる。
「長生きして、色んなものを見てきたつもりやったが、まだまだじゃな。そしてこれからまだ見ぬものを見に行くわけじゃ。」
ウッシッシ、と悪い笑みを浮かべるグラディンさん。なんとも懲りない人だ。
〈それではこの恒星系に影響を与えないところまで通常航行で移動し、そこからワープに入ります。〉
メインスクリーンが漆黒の宇宙に変わる。光量調整もされているんだろうが、地上で見るよりも星が多く見える。まぁ、あたしには見慣れた光景だ。
ただ、なんかこー 動かないのよね、風景が。後ろを見たら青い星が少しずつ遠ざかっていくのが見えるんだろうけど、正面の映像にはまるで変化がない。でもシルバーグリフォンが光速の数パーセントで航行しているのだが、想像もつかないだろう。ちなみに実はあたしもついてないけど。
ちなみに恒星系から離れる、というのは外周に向かっていくわけじゃない。(ジェルの受け売りだが)一般的な恒星系では外周まで光速で四時間以上かかるんで、さすがにシルバーグリフォンでもすっごい時間がかかるので、公転面に対して垂直に移動して距離を取るわけだ。これなら今の速度でも数時間でどうにかなるわけだ。
逆に言うと、このまま代り映えのしない風景がしばらく続くわけだ。
「ハカセー! せっかくだからこの船の中案内してー」
退屈になるのを察知したのか、リリーがビシッと手を挙げる。
「おお、そうじゃの! 儂も気になるわい。」
「まぁウチも…… 気になるわな。」
と、過半数が好奇心を発揮させると、抑え役のアイラも興味があるのだろう、ソワソワとしながらも腰を浮かせる。
「ですって。」
「我々はあと何度艦内を案内すればいいのか……」
そういえば、誰か来るたびにあちこち見せて回っている気がする。まぁ気持ちは分かる。毎回毎回「こんなのでいいの?」と思っちゃうのだが、それこそ毎回毎回みんな眼をキラキラさせて驚くので、逆に申し訳なく思うこともあったりなかったり。
そしていつものシルバーグリフォン見学ツアーが始まった。
いつものようにまず格納庫に向かって、戦闘機のファイヤーロックしかいないので妙にガランとしている。
「随分広いんやなぁ。」
「まぁ、普段は七機いますからねぇ。」
ある程度は格納庫内でも移動できるようになっているから、ただ仕舞うだけのスペースじゃないわけで。
〈そうねぇ、あたしもちょっと飛んでみようかしら。〉
《私の中で必要もなく危険なことをしないでください。》
垂直離着陸ができるし、ホバリングもできるので、これくらいのスペースがあればできなくもないだろうし、緊急時はそういう発進をする場合もあるんだろうけど。なので、グリフォンの文句は当然だろう。
〈ヒマだからまた来てね~〉
他に誰もいないので、暇なんだろうファイヤーに見送られて格納庫を後にする。
その後は客室を見せると、他の見どころがあまりないのが困りもので。武器庫とか資材庫とか、それこそエンジンやワープドライブとか見せてもなぁ…… コクピットで色んな動画でも見せた方がいいだろうか。
なんてやっていたら、昼の時間になったので、グリフォン内の食堂に集まる。あらかじめ店長代理のリーナちゃんが具だくさんの盛りだくさんのサンドイッチの昼食を用意していたので、お湯を沸かしてアイラがハーブティを淹れてくれた。
「むぅ、こっちも使いやすく整理されている……」
と、アイラはどこか敗北感を滲ませている。まぁ、頑張ってくれ。
《そろそろワープ可能宙域に入ります。皆様コクピットに戻ってください。》
そこにグリフォンの声が入ってきたので皆でゾロゾロと向かう。で、リリー。口に最後のサンドイッチをくわえたまま行くのは止めなさい、と思ったらアイラに叱られそうになったら、一瞬で飲み込んで誤魔化したようだ。器用なのか吸引力かは不明だけど。
全員がコクピットに揃ったところで、ジェラードが口を開く。
「とりあえず私も完全に原理は理解していませんが、これから世界の壁を越えます。
……一応、危険はあります。ただ何をしたって危険はある、というのが世の中の真理ですがね。」
真剣な声音のジェルだが、
「商売は危険に飛び込んでこそじゃな。」
「そうやな。それにジェラードはんおるんやったらどうにかなるやろ。」
グラディンさんとカエデは覚悟を決めた顔。
「……う~ん、ハカセ信じてるし。」
「まぁ、万が一があってもジェラードさんと一緒ですから……」
信頼感MAXのリリーと、どこか怖いことを言うアイラ。そういやぁ一応は危険なんだよね。もしもがあったら……
って、待った待った。あたしも何を言いそうになったんだか。何も言わずにジェルの目を見て一つ頷くと、小さくため息をつかれる。なによぉ。
「よし、それじゃあグリフォン、ワープ!」
〈了解!
ワープドライブ臨界。ワープフィールド展開します。〉
「ワープイン!」
ジェルの声にメインスクリーンに映る星の海が急に流れ、渦を巻くように歪んでいく。
揺れるほどではなかったが、何かズン、と響くような音が聞こえ、シルバーグリフォンはこの世界の宇宙空間から搭乗員ごと姿を消した。
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