どうでもいいから跳んでみよう
あらすじ:
分からないことだらけではあるが、シルバーグリフォンは異世界に向かう謎を解いて、跳躍にチャレンジするのであった。
「解析が完了しました。」
何かわからんが、異世界に行くための計算完了の想定が七十二時間――三日だったため、それだけのんびりする予定だったのだが、二日目の昼くらいにジェルがそんなことを言ったので、休暇は終わりである。というが、ここのところ待機ばかりなので暇を持て余していいたのは事実なので、それはそれで良かったというべきか。
「なんか色々準備するのを止めます。行き当たりばったりでやった方がいいような気がしてきました。」
全員で通常モードに戻ったコクピットに移動したところで、ジェルがとんでもないことを言い出した。一応こいつはこれでも(自称)宇宙一の科学者だ。科学者って、理論とか堅実性を大事にするんじゃないの?
『……勢いは大事。』
異世界の少女ミスキスが翻訳機ごしにジェルの肩を持つ。
「まぁ、そうだな。考えて分からないなら、思い切ってやった方がいいかもな。」
メインコクピットのヒューイもうなづく。
「私は博士を信じておりますから。」
リーナちゃんのセリフはすでに予想済みだ。
むぅ、味方がいない。敵がいるわけでもないが。
「行き当たりばったりとはいえ、安全は考えますよ。ただまぁ、私の想定ではグリフォンがピンチなるようなシチュエーションが思い当たらないのですよね。だから、」
大胆に行こうかと、と。そうですか。
どーせ、あたしには何もしようがないのでお任せするしかないわけで。
「ちょっと冗長になりますが説明します。聞き流しても結構ですが、それなりに我慢してください。」
ジェルの予想としてはあたしたちの世界と異世界の間には概念として「壁」がある。同じ宇宙空間でも光の速さという「壁」があるが、それよりも高いものという考え方だ。
それからはあっちこっち話が飛んでまとまらなかったが、あたしなりに整理してみた。
あたしたちがルビィに喚ばれた時の「召喚陣」はその壁に穴を開けるようなものらしい。
さすがにその方法は思いつかないので、ワープとリープの併用で跳び越えるらしいが、やはり「座標」が問題らしい。
「そう考えると『魔法』は楽でいいですな。というか、正直ズルいですな。」
と言うのがジェルの弁だ。
何が「楽」なのかといえば、その辺の設定や調整が不要で、それこそ術者の意を汲んでくれるそうで。
「それってどういうこと?」
「ん~ 雑に言えば『演算能力』の差でしょうか。相手は星のサイズの演算システムだとしたらねぇ。
ラプラスの悪魔、ってご存じです?」
「聞いたことがあるけど…… なんだっけ?」
なんちゃら力学とかの概念だったような気がしたけど、あんまり覚えてないなぁ。
「量子を全て観測した上に、その運動を計算できる存在があったら、過去も未来も分かる、という考え方です。」
あ~ そんな感じ。人の意志というのも電気信号だとしたら、それも計算できる、ということだ。当然だけどそれには矛盾かな? パラドックスかな? とにかく「無理」なのだ。
「そこまでではありませんが、観測と計算の差はいかんともしがたいところで。」
科学にだってふつーに「不可能ではないが、現実的には不可能」ってことがゴマンとあるわけで。
「じゃあ、続きを。」
壁はある意味格子状または網みたいなもので、巨大な質量は通過できないので超えるしかないが、いわゆる通信用の電磁波は通れるらしい。ただ、フィルターのように変質してしまうそうだ。それがビーコンの波長を受信できなかった理由らしい。というか、ノイズと認識していたそうだ。
「ただ、よくよく考えると、異世界側には自然電磁波しかなく、そこまでノイズが発生するはずでもないのですよね。」
なので、その変質のルールというか、デコード方法を見つけたら、通信方法を確立できるらしい。というか、できたそうだ。
「まだ効率が悪いので、テキストレベルでしか通信できませんが、座標や時間を送るくらいならどうにか、ですね。」
〈異世界側のホーネットと通信が繋がりました。これを基に跳躍の準備をします。
今の条件だと、安定度は六十パーセントくらいですね。〉
びみょーな数字だな。でも……
「行くんでしょ?」
「そうですね。ここでゴチャゴチャ考えても数パーセントくらいしか変わらないでしょうし。あんまり待たせるのも性に合いません。」
『うん、早く戻りたい。』
若干ホームシックなんだろうか。ミスキスの瞳がどこか期待や不安に揺れ動く。
「よし、じゃあ行くか。」
「はい。」
ヒューイが操縦桿を握り、リーナちゃんがコンソールに手をかける。
〈ワープドライブ、リープドライブ、ともに暖気完了。〉
「よし、ワープフィールド展開後突入。」
グリフォンの報告にジェルが指示を飛ばす。
〈了解。
ワープドライブ臨界。ワープイン!〉
艦内にノイズが聞こえると、メインスクリーンが漆黒の宇宙から、目まぐるしく変動するサイケデリックな光景に変わった。
「続けてリープ!」
〈了解。
リープドライブ…… 臨界に到達。リープイン!〉
普段は感じないドン、という衝撃とともにシルバーグリフォンが更に亜空間的な所に突入する。
〈……って、自分で言うのもなんですけど、よくこんな無茶して耐えられますね。〉
「安全係数だけは高くとってるからな。」
ワープと違ってリープは短時間で終了する。数分後、艦のステータスを表示していたメインスクリーンが再び漆黒の宇宙空間を映し出した。
……とりあえずシルバーグリフォンが壊れたとかそういう感じはない。無事、たどり着いたのかどうか。それは神……じゃないけど、すぐに分かるとは思う。
お読みいただきありがとうございます
ここのところ、説明だらけなのですがもう少しお待ちください
無事についたあたりで、整理も兼ねてキャラクター紹介をする予定です?




